第1話 Web=手探りのメディア | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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ペーパー・メディアの発展において、活字を拾う無名の職工たちの寄与が不可欠だったように、ネット・メディアの興隆にもハードとソフト、表と裏、外と内……さまざまな立場や観点により下支えしてきたスペシャリストたちがいる。今回登場の両名は、Webクリエイターとして名を馳せる一方で、隠れた「こだわり」を追究してきた職人気質(かたぎ)の持ち主たち。創成期から早10年、第一線で活躍し続ける彼らの「現在形」をサーチしてみよう。


第1話 Web=手探りのメディア


大谷秀映氏(右)と足立裕司氏(左)

フォント・ブームとWeb黎明期


──お二人の出会いは?

足立●フォント・ブームの頃ですよね。翔泳社の『フォントグラファーズ』という本が1999年に刊行されたとき。

大谷●ええ。たしか、その打ち上げの席でした。

足立●あの頃、Webでデザイナーが個人サイトを作るときに、ネタとして自作のフォントをダウンロードできるようなことをしてて。お互い、それまで会ったことはなかったけれど存在は知ってて、なんとなく繋がったのが『フォントグラファーズ』でした。

大谷●それ以前は名前もちゃんと出してなかったし、直接には知らないという関係で……。

足立●顔よりも先にフォントが浮かぶという関係ですね(笑)。

大谷●インターネット上にあんまり人もいなくて、コミュニティを把握できる規模でもあったんですね。

足立●まさに黎明期でした。

──ネットのそうした時期と、お互いのフォント作りが重なったわけですね。

足立●とりあえず、あの頃はいまみたいに日記も盛んではなかったし、誰でもHPを作れるって状況でもなくて。

大谷●一般的には、掲示板があるぐらいでしたね。

足立●で、デザイナーが個人サイトを作る場合は、やっぱり壁紙とかアイコンとかオマケを競い合ってて。

大谷●そういうものを作ると、いろんな人が来てダウンロードして、アクセス数が上がって喜ぶという。


大谷秀映氏

静けさの佇まいのなかで舌鋒鋭い、大谷秀映氏
──お互い、本業はそれぞれお持ちで、たとえば足立さんはインダストリアルデザイナーだったんですよね?

足立●はい。その後、プランナーやCD-ROMなどのパッケージもののソフトをやったりしながらWebに手を染めて。

大谷●僕も、もともと紙媒体のデザインで、それから次第にWebに移行して。やりたいことをしているうちに、自然な成りゆきでしたね。

足立●僕が最初に大谷さんと出会った頃は、まだグラフィックのほうでしたよね。

大谷●90年代の終わりから、Webデザインを本業にしたんです。ネット自体は、96?7年ぐらいから始めたように記憶してます。まだ、ネットスケープのver.1.0とかの頃。

足立●僕はもう少し後からで、ネットスケープのver.2か3。その頃から自分のサイトは作ってあったんですか?

大谷●あることはありましたが、しょぼい感じ。最初は全然わからなかったですからね。いきなり重い200KBの画像をのっけたり……それが表示されるのがキャッシュだってこともわからなくて。

足立●あの頃、参考書自体も少なかったですからね。

大谷●そう。いまみたいに作り方の本がなかったから。

足立●いまは多すぎるぐらいですよね。僕が知る限りでは、当時は翔泳社の『ホームページ辞典』しかなかった。あとは海外の翻訳書で、すごく高いやつ。

大谷●いまは、うらやましいですよね。こんなにいっぱいあって。

足立●ほんと、あの頃は手探りでした。それは、いまだに続いているのですが。

急激な進化と、背中合わせの平坦さ


──それまでのデザイナーとしての感覚と、Webのギャップってありましたか?

大谷●僕はあんまり感じなかった。割と自然にすんなりと。

足立●僕もそうですね。他のデザインでも普通に、道具としてPhotoshopやIllustratorを使っていましたから、その延長で。それが手段になるか、目的になるかの違い。

──でも、当初は思い描くこととテクニックが追いつかないことも多かったのでは?

大谷●そうですね。スピードが遅かったり、いちいち電話で繋いだり……そう考えると不便だった。

足立●その一方で「いいな」と思ったのは、データが軽いってこと。グラフィックもやってたんですけど、入稿データとか画像、めちゃくちゃ重いじゃないですか。すぐHDが一杯になって。

大谷●たしかに。紙のグラフィックの場合、50メガの画像とかを張り付けて動かなくなったりするんだけど、Webの場合は解像度が低いから軽くていい。

足立●紙媒体だと色校とかも面倒だけど、Webだと映ったまんまだから。最終納品の後でも修正ができてしまうし。それもいいところと悪いところがあるんだけど。

大谷●ただ最近、紙のデザインをやったことがあって、いまぐらいのマシン・スペックだったら、サクサク動いてちょうどいいんですよね。

足立●いまならデータもCDRで収まるし。昔はMOでもつらいときがありましたからね。

大谷●携帯のSDカードも1ギガあるんだから、これにデータ移して持って行ったりもできて。

──たかだか10年で、その進化ですからね。

大谷●そうなんですよ。それはすごい。


足立裕司氏

飄々とした顔立ちに遊び心を漂わす、足立裕司氏
──そもそも個人でサイトを作り始めた目的は?

大谷●僕は単純に、自分が作ったものを見せられるって感覚でした。

足立●僕もそうです。それまでは、何かを考えついても発表する場が少ないかったから。Webだったら、考えついたらすぐアップできる。それがモチベーションになって。

──いち個人から大企業まで、平たく満遍なく発信できるメディアですが、本来ならばその溝は深いんですよね。

足立●いまは平等ですからね。個人でも対等に企業に張り合える。

大谷●まあ、大多数は埋もれちゃうんですけど……。いまなんか、昔と比べて桁違いに多くなっているので。

足立●そこで目立つのは大変ですよね。以前に比べてかっこいいサイトを作っても、みんなかっこいいから。そのなかで差別化するのは相当難しい。


次週、第2話は「かっこよさと使いやすさの両立」を掲載します。

(取材・文:増渕俊之 写真:谷本 夏)



大谷秀映氏

[プロフィール]

おおたに・ひであき●1964年生まれ。Webデザイナー。武蔵野美術短期大学グラフィックデザイン科卒業後、グラフィック&エディトリアルデザイナーを経て、90年代中頃よりWebデザイン、オリジナルフォントデザインを開始。現在、株式会社コムストラクト取締役。著書に『ヘルベチカの本』がある。

http://fontgraphic.jp/



足立裕司氏

あだち・ゆうじ●1969年生まれ。Webデザイナー。愛知県立芸術大学卒業後、インダストリアルデザイナー、プランナーを経て、96年よりWebメディアを中心に活動。97年に開設した個人サイトでオリジナルフォントを数々発表し、Web Design Award'99銅賞とHotwired Japan Awardを受賞。著書に『HTMLデザイン辞典』などがある。http://www.9031.com/


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