第1話 後世に残していけるシンプルな力強さ | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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旬のアートディレクターをお迎えして、デザインする際の思考プロセスを伺うとともに、創作のスタンスに迫るこのコーナー。第6回目はSOUP DESIGNの尾原史和氏。第1話では、プチグラパブリッシングの発行する「あたらしい教科書」シリーズの装幀に注目する。

第1話 後世に残していけるシンプルな力強さ

教科書の目的はデザインではなくて
あくまでも“中身”である


──まず最初に、今回ご紹介いただける「あたらしい教科書」シリーズの概要について教えてください。

尾原●教科書だけれど難しい印象ではなく、取っ付きやすいコンテンツが盛り込まれた書籍です。「これをきっかけに、もっと学びたくなるような本」がそのコンセプト。だからデザインも真面目すぎる印象にならないように、カジュアルな見え方を目指しています。

──確かに、ポップな配色が印象的ですね。

尾原●シリーズ作を「揃えたい」という欲求を持たせるほかに、できるだけ手に取りやすくさせる意図があります。また、色自体にも意味があって、本のジャンルによって使い分けしているんです。このシリーズの中には「考える手引き」、「教養の手引き」、「実践の手引き」と3つのジャンルがあるのですが、「考える?」が緑、「教養?」が青、「実践?」がオレンジです。












──黄色を使った本もありますが、これは特別な色なのでしょうか?

尾原●そうですね。どのジャンルにも属さない0号の「学び」でのみ使っています。ほかの3色と異なる色の中から、相性のいい色を選びました。選択肢としては黄色やグレーしかないと思うのですが、グレーだと地味になってしまう。最初の号ですから、ある程度目立たせたかったこともあり、黄色を採用したんです。












──ジャンルごとに色を変えるアイデアは、編集側から出されたのでしょうか。

尾原●いや、そうではありませんが、3つのジャンル分けと号数をしっかり見せたいとの要望はありました。そこで、色と数字によって、すぐに理解できるようにしたんです。ここで、ジャンルを表す色と号数を離れた位置にレイアウトすると、ひと目で分からなくなってしまうので、丸と数字を一体化させました。

──各ジャンルは文字でも表記できたと思うのですが、シンボルにしたのには意味があるのでしょうか?

尾原●もちろん文字自体に色をつけて見せるなどの方法も考えられましたが、シリーズを方向づけるうえで、パッとアイコンとして認識してもらえるように作るのが重要だと思ったんです。

──今までに発行された全巻を並べてみると、順番通りに1冊ずつ色が変わっていますが、これは意識してそうしたのでしょうか?

尾原●必ずしもそういうわけではありません。実は、僕はそれほど気にしていなくて、色がバラけてもいいと考えています。ある1つのカテゴリーで良いテーマが集中したら同じ色が続いてもいいし、そこまで厳密な操作はしていない。そのあたりの判断は、編集者側に委ねています。だから、それぞれの色のトーンを近づけて、どのような組み合わせでも許容できるデザインにしてあるんです。

──そのほかに、装幀で気を配ったポイントはありますか?

尾原●背から見るとシックに見えて、平積みしたときにはカジュアルに見えることです。家の本棚に並べたときには、あまりイヤらしくない見え方をして、反対に書店ではポップに分かりやすく見えるようにしている。そこは、すごく意識していますね。

──デザインする段階で、書店に並んだときの状態も想像できるものでしょうか?

尾原●実は難しいところなんです。書店で隣にどのような本が並ぶかは分からないし、どれだけ目立つかは状況によるから何とも言えない。ただ「あたらしい教科書」が、普通の書籍とは若干違う見え方をすることは想像できる。シリーズものであることは認識できるだろうし、「余計なものが入っていないな」と想像させるようなシンプルな見え方は実現できていると思います。

──シンプルという言葉が出ましたが、尾原さんは今回の装幀で、なぜシンプルな仕上がりを目指したのでしょうか? シンプルなデザインの良さとは何でしょう?

尾原●シンプルなものには「強さ」がありますよね。また「残していけるもの」も意識しているのですが、そのためには、その時代ごとの流行に合わせて表面的に細かな処理をしていくよりは、普遍的な形態を目指す必要がある。そうすると、余分なものを入れないほうがいい。特にこのシリーズは教科書ですし、余計にその思いが強かったのかもしれません。

──なるほど。媒体の方向性が大きく影響しているのですね。

尾原●やはり教科書の目的はデザインではなくて中身なので、あまりグラフィカルに主張し過ぎても仕方がない。デザインはあくまでも、書店で気にかけてもらうためのものだったり、中身をより良く見せるためのものなんです。だから、本文のフォーマットもシンプルにすることで、読むときに負荷を与えないように気を配っています。たとえば見出しも、小さくし過ぎないようにして検索性を高めているんです。もう少し小さくするとキレイに整うかもしれませんが、それを求めるよりは、しっかりと見える大きさにすることのほうがここでは重要でしょう。ある意味、内容を分かりやすくするために、デザイン性を抑えているとも言えますね。
(取材・文:佐々木剛士 人物写真:谷本夏)

次週、第2話は「兄弟誌のアートディレクション」について伺います。こうご期待。

[プロフィール]

おはらふみかず●アートディレクター。1975年高知生まれ。印刷会社のデザイン部門、アジール・デザインを経て、1999年デザイナー、シェフ、建築家らの編成でSOUP DESIGNをスタート。2003年(有)スープ・デザイン設立。近年のおもだった仕事には『R25』、『relax』、『NEUTRAL』などの定期刊行物、『北欧デザイン』をはじめとした書籍、『SHIPS』、『TAKEO KIKUCHI』などの広告制作物などがある。

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