1996年の誕生から10周年を迎え、いまやデジタルコンテンツ制作になくてはならないソフトウエア=Adobe Flash。紙に絵を描くようにコンピュータ上で気軽に描画、アニメーション表現を可能にさせようと開発されたFlashは、この10年で飛躍的な進化を果たしてマルチメディアの「現在」を形作る。その歴史を見守り、もはや生活のためのツールとして活用を続けるクリエイター・高木氏、そしてMacromedia時代からFlashを担当してきた太田氏に、その軌跡を振り返るとともに今後の展望を語ってもらおう。
第1話 誕生、そして時代の趨勢
最初に感じた「違和感」
最初に感じた「違和感」
──高木さんがFlashと出会ったのは?
高木●最初、前身のFuture Splash Animatorが出たとき、某編集部から送られてきたんです。「アニメのソフトみたいなんだけど、よくわからないのでレビューを書いて下さい」と。でも、当時の僕はDirectorをバリバリ使っていた頃で、作法が全然違うじゃないですか。Directorはドット単位、ピクセル単位で座標を管理できるのに、そういう機能はなかったし、スクリプトもない。レイヤーの重なりも逆で……。鳥が飛ぶすごくかっこいいアニメがサンプルで入っていたので、それを真似して作ってみたのですが、すぐに「だめだ、こりゃ」って書いたんですよ(笑)。
太田●そうだったんですか。
高木●Directorではドットを打っていたのに、Future Splashの場合は塗った後、ビットマップだかベクターだかわからない挙動をするじゃないですか。あれがなんだか気持ち悪くて……。そのあと、すぐにMacromediaが買ったんですよね?
太田●そうですね。結構、日本のユーザーの間で話題になって、すぐに。
高木●で、Flash 2という名前になりましたよね?
太田●きちんと憶えていないのですが、最初はFlash特別版だったと思います。Future Splashのパッケージにシールだけ張って。あと、日本語の簡易マニュアルを当時の同僚が書いて付けたんです。
名刺やポストカードのデザインにもFlashを使うヘビーユーザー、高木敏光氏
太田●担当になったのは、しばらくしてからですね。私はQAといって、ソフトのバグ出しをしたり、日本語にローカライズする担当だったので、当初は他の人たちがやってたんです。3か4の頃から担当するようになったのですが、その前までは正直「Directorがあるのにどうかな?」と思っていたところはありました。
高木●それまで、Directorを使いたくても使えないと思っていた人たちが、割と大勢いたんですよ。いわばドット絵の世界、プログラミングの世界じゃないですか。だから、それまで鬱屈していたDTP関連者がワッと集まってきたんですね。
太田●ちょっとDirectorとは質が違って、頭デッカチじゃない、ほんとに楽しく絵を描いてます……というような人たちがFlashをすごく支持してくださって。価格が安かったこともありますが。
Shockwave for Directorからの移行
高木●で、Flash 4の頃からスクリプトが使えるようになって、時代の趨勢がどんどんFlashに移っていった。一番の決め手は、Shockwaveのプラグインの変化。最初ものすごく小さかったんですよ。で、大抵の人が持っていた。ところがShockwave.comができたあたりから、インストールに手こずるような大容量のプラグインになって。
太田●たぶん、Shockwave 6ぐらいですね。
高木●Shockwaveでいくら作っても見てもらえない時代が到来して。その頃、Flashはビジネスがうまいと思ったけれど、すべてのブラウザにデフォルトでプラグインが入っているような状態になりましたよね?
太田●そうですね。あと、そこに行く前にMSNやディズニー・オンラインがFlashでコンテンツを作るという動きになって。どちらかというと、Macromediaが話を持ちかける以前に標準化してくださった。
高木●ああ、そうだったんですか。
日々、Flashユーザーと会うために東奔西走する太田禎一氏
太田●たぶん、それが一番大きかったと思います。そのタイミングで、ShockwaveよりFlashのほうを見られる人が多くなってきたという状況が発生したんですね。
高木●だから拙著『高木工務店』も、ちょうどその歴史の端境期にまたがって書いたんですよ。最初、僕の中では「Directorのムービー作ります」というキャッチコピーがあったのに、途中からFlashの話に移行して、その過程がちょうどかぶさっている。あの頃からですね、Flashの自由自在さに気がついたのは。
高木●だから拙著『高木工務店』も、ちょうどその歴史の端境期にまたがって書いたんですよ。最初、僕の中では「Directorのムービー作ります」というキャッチコピーがあったのに、途中からFlashの話に移行して、その過程がちょうどかぶさっている。あの頃からですね、Flashの自由自在さに気がついたのは。
次週、第2話は「フルFlash、そして携帯時代へ」を掲載します。
(取材・文:増渕俊之 写真:谷本 夏)
[プロフィール] たかぎ・としみつ●早稲田大学文学部美術専修卒業。翻訳会社勤務を経て、株式会社データクラフト入社。1991年頃より、マルチメディアコンテンツの制作を開始。2005年、独立して「株式会社タカギズム」設立。アニメーションやゲーム、インタラクティブコンテンツの制作に携わっている。著書に『高木工務店』(BNN)などがある。http://www.takagism.net/ |
おおた・ていいち●アドビ システムズ株式会社に勤務。プロダクト&セールスエンジニアリング部 プロダクトスペシャリスト。http://www.adobe.com/jp |