第1話 プロダクトデザインからの転向 | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
【サイトリニューアル!】新サイトはこちらMdNについて



様々なジャンルで活躍するデザイナーの来歴をたどるシリーズ、第8回は「デザインと自主制作」編。グラフィックデザイナーとしてデザイン事務所「Coa Graphics」を主宰する一方、音楽レーベル「Coa Records」を運営し、自身も「Spangle call Lilli line」のメンバーとして活動する藤枝憲さんを取材し、その経歴から現在に至るまでの足跡をたどります。

第1話 プロダクトデザインからの転向


藤枝憲さん

下北沢のオフィスにて、藤枝憲さん

Macとの出会いで大学中退


??デザイナーを目指すようになったきっかけは?

藤枝●子どもの頃から絵を描くのが好きで、高校時代に美大へ進路を決めてアトリエにも通っていました。最初は純粋にファインアートに憧れていたのですが、途中からデザインのほうが面白そうだし、将来つぶしがききそうだな……くらいの軽い気持ちで志望をプロダクトデザインに変更したんです(笑)。で、いくつかの美術大学、すべて立体を学べる学科を受験して、一番行きたかった多摩美術大学のプロダクトデザイン学科(現在は生産デザイン学科)に入学しました。

??どのような勉強を?

藤枝●例えばコップのような日用品から家電、机や椅子、あるいは車やバイクのように人間工学的な知識が必要なものまで……それこそ身の回りにあるもの、ほとんどすべてのデザインです。でも、大学2年を過ぎたあたりの頃、授業でMacが導入されたんですよ。個人レベルでも80?100万円出せば、プリンターとスキャナーを含めてギリギリ一式揃えられるようになった時代。そのあたりからグラフィックに目が向くようになったんです。それまではすべてアナログで、ロットリングなどを用いて図面を描いてましたが、これがあればグラフィックのほうがいろいろやれる……と思って。

??学校は?

藤枝●3年で中退しました(笑)。美大の4年って、基本的に卒業制作と就職活動のための1年間なんですね。しかも卒業制作のための費用が、立体は学費とあわせたら余裕で200万円以上かかる。それだったら、これからはそのお金でMacを買ったほうがいいから……と親に相談して、かなりモメたのですが、結局ねじ伏せて大学辞めました。だから、Macにヤラれて人生を狂わされたクチです(笑)。

??衝動的ですね(笑)。

藤枝●ええ。あと、プロダクトデザイン専攻って、卒業すると家電や自動車メーカーなど大手の企業に就職することが多いんです。実際、一流企業への就職率も相当に高いのですが、そういうのが嫌だったんですね。最近は状況が変わってきた部分もありますが、基本的にプロダクトデザインの世界は匿名性が高い。日本では特に、ハウスデザイナーとして仕事をしてもほとんど分業制ですよね。一人で車は作れない。たとえばシートの素材を選んだとか、ヘッド部分のデザインをやったとか、企業の1ピースじゃないですか。そうなると結局、デザイン自体ではなく昇進というか、やれ課長になったとか、社内での地位みたいなものに固執するようになるのではないかと思ったんです。そのへんにちょっと違和感があって、自分がやるなら最初から全部自分でやりたいと思って。で、Macがあれば、いろんなことを一人でやれる気がしたんです。

雑誌『Coa』を自主出版


??プロダクトからグラフィックへの転換はスムーズに?

藤枝●なんか、パンクな感じがしましたね。ザクザク、自分で切り開いていける感じ。当時はDTPが出てきたばかりで、それこそクラブのフライヤーを作るとか、それまでのオールドスクールなデザイン観ではなく、もっとアンダーグラウンドな動きもあったじゃないですか。もちろん、それで食べていけるとは到底思っていませんでしたが、もうちょっと長い目で考えたとき……いまのWebみたいな可能性を感じたんですね。そのうち個人レベルで大きなデザインができる時代がくるな、と。

??大学を中退して、その後は?

藤枝●一応、そこからデザイナーとして独立して、まず自費出版で『Coa』という雑誌を作り始めました。最初のうちは大学の仲間に声をかけて「みんな好きに参加してよ、その代わりボランティアね」と。

??事務所は?

藤枝●そのときは自宅兼ですね。で、何号か出していくうちに、よそからデザインの仕事が入ってくるようになったんです。結局『Coa』は8号まで続いたのですが、最後は1万部ぐらい刷っていましたし、返本もほとんどなかった。純粋な売り上げだけで自分が食べていけて、事務所も回していけるぐらいの仕事もあった。でも今度は、長い目で見たときに出版は段々と厳しくなるだろう……と思って、早々と切り上げたんです。

??順調に部数も伸ばしていたのに?

藤枝●その後『far』というカルチャー雑誌を立ち上げたり、しばらくはデザインの仕事と並行して雑誌作りもやっていたのですが、本腰入れて出版社としても機能させるのは片手間では無理かな……と思い始めてて。ちょうどインディーマガジンがブームだったので、この状態が長くは続かないだろうという冷静な自分もいて。……ただ、その当時から本気でやっていた人たちは現在もしっかり残ってますよね。プチグラとかトキオン、バァフアウトとか、本気で出版一本で勝負したところ。大変さを知ってるだけに、やっぱりそういう人たちへのリスペクトは、ものすごくありますね。自分は、そのへんの選択肢を迫られたときに「デザインのほうが向いてるな」と思ったんです。


Coa vol.007




Coa vol.008

雑誌『Coa』vol.7(左)とvol.8(右)。誌名(そしてオフィス名)は“Communication Of Art”の意を略している。

次週、第2話は「やりたいものは先に作る」についてうかがいます。

(取材・文:増渕俊之 写真:FuGee)


藤枝憲さん

[プロフィール]

ふじえだ・けん●1974年千葉県生まれ。多摩美術大学生産デザイン学科中退、独立してデザイン事務所「Coa Graphics」を主宰。エディトリアル、CDジャケット、コンサートグッズ、映画・演劇の宣伝美術など、幅広いグラフィックを手がけている。同時に音楽レーベル「Coa Records」プロデューサー、バンド「Spangle call Lilli line」のメンバーとしても活動中。

http://www.coagraphics.com/


twitter facebook このエントリーをはてなブックマークに追加 RSS
【サイトリニューアル!】新サイトはこちらMdNについて

この連載のすべての記事

アクセスランキング

8.30-9.5

MdN BOOKS|デザインの本

Pick upコンテンツ

現在