第1話 「その後」を見据えたキャンペーン | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
【サイトリニューアル!】新サイトはこちらMdNについて

旬のアートディレクターをお迎えして、デザインする際の思考プロセスを伺うとともに、創作のスタンスに迫るこのコーナー。第11回目は居山浩二氏。第1話では、「ナツイチ」キャンペーンを中心とした、集英社文庫にまつわるグラフィックデザインに注目する。



購買者への訴求はもちろん、
書店や社内への影響も考慮した




──「ナツイチ」の仕事は、コンペで獲得したそうですね。

居山●そうです。ただ、プレゼンテーションの大部分は、お題であったキャンペーン自体のことはもちろんのこと、「どのように集英社文庫を改善していくか」と、全体像の構築を見据えて展開しました。集英社文庫自体を好きになってもらえる下地を作らないと、たとえキャンペーンが成功しても、一過性の盛り上がりにしかならないと考えていましたから。


──「ナツイチ」では、どのようなアプローチを実施したのでしょうか?

居山●ライバル他社のキャンペーン展開と全く方向性が異なるわけではないので、集英社文庫を訴求する独自のポイントが重要だと考えました。たとえば、文庫を2冊購入するとプレゼントがもらえるキャンペーンは多いですが、「ナツイチ」では、1冊購入するだけで、すぐに店頭で栞をプレゼントしたのです。


──なるほど。たしかに、それは魅力的ですね。


居山●さらに、さまざまなグッズを作るうえで、書店の店員にも好きになってもらうことを重視しました。販売スペースの広さや陳列方法、飾り付けなどは、確実に売り上げに影響しますから。たとえば、販促ツールを発送する箱にもキャッチコピーを入れて、象徴となるブルーのストライプを中心にデザインしたのです。そのインパクトも影響して、「今年は、例年と少し違うぞ」と印象付けられたと思います。

──書店へのアプローチのためにも、デザインを有効活用したわけですね。


居山●そうです。さらに、他社のキャンペーンでは、色ベタをメインとしたデザイン構成が多かったのですが、集英社文庫は爽やかなブルーのストライプでしたので、書店では、バランスを見て中央に並べられることも多かったようです。これは嬉しい誤算でしたね。そのような結果、「ナツイチ」としては、史上最高の売り上げを収めることができました。


──アイコンとして用いられた蜂や、タレントの写真、ブルーのストライプの兼ね合いについては、いかがでしょうか?


居山●最初は、3つの要素の共存は難しいのではないかと心配していました。ただ、リサーチの結果、タレントの写真に関しては、購買者にとって「今年は誰になるのだろう」と期待も高かったので、どうしても必要だったのです。さらに、アイコンを入れることに関しても、クライアントからの熱烈な要望がありました。そこで、蜂のアイコンは、さりげなく用いることで人物写真との主従関係を作り、バランスの良い役割分担を目指しました。


──蜂のタッチは「かわいいもの」を狙ったのでしょうか?


居山●その通りです。やはり、誰にでも受け入れられるかわいさがないと、アイコンを作っても意味がないですから。これは、絵本作家の山田詩子さんに描いてもらいました。


──今年のタレントを蒼井優さんに決めたのは、どのような意図があったのでしょうか?


居山●何より重視したのは、ちゃんと本を読んでいるようなイメージの方にお願いすることです。出演タレントの人気を後押しするだけに留まる広告では意味がないですし、本を売ることにはつながりません。単に夏っぽいビジュアルにまとめるだけでは、文庫の購買意欲を掻き立てるどころか、「夏だし、海に行きたい」なんて的外れな欲求を喚起することになりかねませんからね(笑)。


──「ナツイチ」の成功に続き、その後も「恋愛文庫フェア」、「歴史時代文庫フェア」、「ミステリー文庫フェア」など、さまざまな展開に携わっているそうですね。


居山●どれも共通して蜂のアイコンを登場させ、背景に何らかのテクスチャを用いるルールを設定して、タイポグラフィとのバランスを考えながら構成しています。蜂のアイコンは、いきなり集英社文庫の全体を牽引させる役割を果たさせるのではなく、じわじわと目に触れさせながら育てている段階です。


──シンボルマークも刷新したのですよね?


居山●集英社の頭文字である「S」をポケットに入れているイメージでデザインしました。一般的には、単行本の書籍が時間を経て文庫になるプロセスが多いので、あまりにも斬新すぎるマークでは合わないと考え、あたかも昔からあったように、シンプルなトーンに仕上げています。

──マークの変更は、集英社文庫全体のイメージを強化するうえで、やはり大切なポイントだったのでしょうか?


居山●そうですね。実は、キャンペーン展開の最初に「まずはマークから変えましょう」と話し合っていたのです。もちろん読者や書店へのアピールとしても重要でしたが、社内にも大きな影響を与える役割を持たせようと考えていました。旗印を掲げることで、新しい集英社文庫を盛り上げていく気運を高める意図があったわけです。
(取材・文:佐々木剛士 人物写真:谷本夏)



次週、第2話は「デザインの余地がある分野」について伺います。こうご期待。




[プロフィール]
居山浩二(いやま・こうじ)
1967年、静岡県生まれ。1992年、多摩美術大学グラフィックデザイン科を卒業。日本デザインセンター、atomを経てイヤマデザインを設立。N.Y.ADC銀賞・Distinctive Merit、メキシコ国際ポスタービエンナーレ銅賞、香港国際ポスタートリエンナーレ銀賞、JAGDA新人賞2005などの受賞実績がある。

twitter facebook このエントリーをはてなブックマークに追加 RSS
【サイトリニューアル!】新サイトはこちらMdNについて

この連載のすべての記事

アクセスランキング

8.30-9.5

MdN BOOKS|デザインの本

Pick upコンテンツ

現在