第1話 インパクトを与える斬新なDM | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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旬のアートディレクターをお迎えして、デザインする際の思考プロセスを伺うとともに、創作のスタンスに迫るこのコーナー。第12回目は長嶋りかこ氏。第1話では、Future Marketing Summit TokyoのDMを中心に、このイベントに関する一連のツールに注目する。


通常のハガキや封筒と同じ体裁では
埋もれてしまって目立たない



──まずは、今回ご紹介いただける作品の概要から教えてください。


長嶋●Future Marketing Awardsという国際広告賞があって、授賞式や作品紹介を兼ねたサミットが、世界4都市で昨年から開催されています。そのうち、日本で開催されるサミットのDM制作を依頼されたのです。初めて開催されるイベントだったので手探りの状態でしたが、アワード自体が新しいアイデアやメディアを賞賛する趣旨に基づいていたため、このサミットの来場者はきっと今までとは違う広告に触れられるだろうと考えました。そこで弊社のコピーライター大八木翼と話し合い、第1回目のDMでは「今までの古い考えを捨てましょう」とのメッセージを盛り込むことにしたのです。


──そのメッセージを、どのようにデザインで表現したのでしょうか。


長嶋●封筒の代わりにゴミ袋を使い、クシャクシャになった招待状を入れて、「ゴミ」をDMとして郵送するアイデアを採用しました。とにかくパンチのあるものを目指していたので、通常のハガキや封筒と同じ体裁では目立たないと思ったのです。

──招待状にはトンボや色玉が含まれていて、まるで校正紙のようですね。


長嶋●アイデアを生み出している途中で「やっぱり古いからダメだ」と捨てられた紙をイメージしたのです。文字についても、クラッシュ感を演出したくてわざと少し乱雑にしているんです。ただ、ペラペラの紙を使ってしまうと、本当にゴミが送られてきたようで、受け取った人が嫌な気持ちになるかもしれない。そこで、意図的にデザインされているとわかるように、やや厚手の紙でボリュームを出しました。


──DMのほかにも、多くの関連ツールを制作されたそうですね。


長嶋●はい。たとえば、イベント会場に貼ったり、告知に活用してもらうために、ポスターを作りました。DMに用いたクシャクシャな紙を人の頭の形に見立ててピクトグラムにし、そのグラフィックをメインに構成しています。そのほかに、会場で流したオープニング映像や、お土産として配布するグッズなども手がけました。


──これらはすべてモノクロを基調としていますが、どのような意図があるのでしょうか。


長嶋●最初はカラーにすべきか悩みましたが、ゴミ袋との兼ね合いで、黒を使うことにしました。透明のゴミ袋だと、妙に生々しくなってしまうので……。黒のゴミ袋は、今は世間で使われることが少ないですが、記号としては成立すると思ったので採用し、それに合わせて中身もモノクロにすることで、統一感が生まれてさらに黒の強さを出すことができたと思います。


──それと同時に、要素を絞り込んだ構成も特徴的ですね。


長嶋●インパクトを与えるため、アイデアをシンプルにしてからデザインしています。要素を削ぎ落とす行為は、強さを出すことに繋がると思いますので。ただ、今あらためて振り返ると、確かにインパクトは与えられたものの、肝心のサミットについての説明、このサミットではどんなコンテンツがあって何をもたらすのかが、少し欠けていたように思います。今年の4月に開催された第2回目のDMでは、その問題を解消することを意識しました。


──第2回目のDMは、どのようなデザインでしょうか。


長嶋●そもそも海外の人はこういうサミットには積極的に参加するんですが、日本では割と腰が重いというか、冷めた空気もちょっと感じていました。でもこのサミットに来ることで刺激を受け、広告づくりに燃えてほしい。そういう思いを込め、キャッチコピーは「FIRE UP YOUR HEART ”僕たちが、「広告がつまんない」とか冷めたことを言っているようじゃ、広告に、未来はないと思う。”」にしました。それに合わせて、人の胸、そして紙が燃えているビジュアルにしています。実際に招待状を燃やしているわけではなく、レーザーによる切り抜きと焦げ跡の写真を組み合わせて、あたかも燃えているように見せているのです。燃やされたイメージを強調したかったので、文字については作為的にデザインしすぎず、焦げのビジュアルの部分を強く演出するように心がけました。


──抜き型についても、すべてデータで作成して入稿しているのですか?


長嶋●そうです。いったん、コピー用紙を実際に燃やしているのです。それをスキャナで読み込んで、参照しながらパスを作成しています。


──第1回目に引き続き、印象に残るDMですね。


長嶋●やはりインパクトは出さなければならないと思ったので、そこは外さないように注意しました。今回は、事務局の人たちとサミットの内容に関しても話し合いをして、熱く燃えるようなコンテンツがあることもしっかり記述してありますし、第1回目で感じた反省点は生かせたはずです。このほかにも、前回と同様に、ポスターや映像、お土産のグッズを制作しました。


──紙媒体と映像では、デザインの作法に違いがあるものでしょうか?


長嶋●しっかりとした土台となるアイデアが固まっていれば、平面でも映像でも、同じように表現できるものだと思います。ただ、余韻の残し方は一緒だけれど、伝えるスピードが違うし、それに合わせる必要性はあると思います。また、今回のポスターでは人物写真の胸の部分だけが燃えていますが、映像でカメラアングルをグラフィックと同様に一定にすると、同じような胸元だけの焦げの表現では印象が得られない。だから、大胆に全身を燃やすビジュアルにしたんです。メディアによって表現を変える必要もあるのだなと感じました。(取材・文:佐々木剛士 人物写真:谷本夏)



次週、第2話は「新しい価値を提示するデザイン」について伺います。こうご期待。



[プロフィール]
長嶋りかこ(ながしま・りかこ)
1980年茨城県生まれ。2003年武蔵野美術大学視覚伝達デザイン科卒業、同年博報堂入社。2002年ひとつぼ展入選、2004年ニューヨークADC Distinctive Merit、2005年毎日広告賞奨励賞、2006年ニューヨークフェスティバルファイナリスト、ADC賞受賞。

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