第2話 環境作りが自分の役割だと思っていた | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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タイトル画像、第11回Webプロデューサー列伝 中村博久

来年20年をむかえる、フリーペーパー「ディクショナリー」。そのディクショナリーの過去の号がデジタル化された「ディクショナリー・ライブラリー」が公開された。発行元である株式会社クラブキングの代表であり、ディクショナリー編集長の桑原茂一氏に話を伺った。

第2話 環境作りが自分の役割だと思っていた


僕らはオーガナイザーなんです


——今回のライブラリー化のタイミングというのは?

桑原●去年からずっと言ってきたことなのだけど…最初は、春までにはと言いながらも、5月になり6月になり。ただ、「wikiのような」ということはずっとイメージしていたので、そのタイミングがうまく合うのが今だったということですね。システムデザインをしてくれたbluemarkの人たちとも、wikiがいいのではないかという話を二年越しくらいで何度も話をしてきたんですけど。

自分もいつ何が起こるかもしれない歳になってきていて。ライブラリーを見てもらえばわかると思うんですけど、過去に『あなたが、もし24時間の命と宣告されたらどうしますか?』というアンケートに答えてもらっている人の中には、すでに亡くなられている方もいたりしますから。なにかもの凄いものに突き動かされて我々が生きているということを知ることが、おそらく環境問題のことを考えると近道だと思うし。いろいろあって。計画的にしたくても、これまでなかなかそうならない20年間だったので(笑)。たまたまいまがそういうタイミングだったということですね。

——wikiに注目された理由というのは何ですか?

桑原●「ディクショナリー」は100号から自分らしくやらせてもらっているんですが、基本的にフリーペーパーというのは、主宰がいて『僕はこんなことが言いたいんだ』という主旨の元でつくられるようですが、僕たちはそうではないんです。元々僕らは「選曲家」なんです。音楽でいろいろな表現をしたかった。だけど、音楽で表現する場を作っていくのを伝えていくための広報手段としてメディアがないとどうにもならなかったというのがあってつくったのが「ディクショナリー」なんです。

だから、もともと僕らは管理者であって、オーガナイザーなんです。人に使ってもらうためのメディアをつくっているわけで。時々人に『なんで、茂一の好きなことやらないの?』ってよく言われたりもしたけど(笑)。ただ僕は、スネークマンショーもそうだと思うし、その後のピテカンやメロンにしても何でもそうだけど、自分の役割というものが、ちょっと後ろにいてオーガナイズしていかなくてはいけないという感覚があって。

この会社を作ることもそうだし、クラブカルチャーをやっていきたいというのも、僕の個人の発表の場というよりも、そういったシーンが生まれるための環境作りが自分の役割だと思っていたんですね。だから、その責任をなんとか全うしようと。正直言えばそろそろそれを勘弁してもらおうかなということも、このライブラリーにはあります。そのためにはwikiがいいのではと思ったんです。

「ディクショナリー」を辞められなかった理由というのは、「ディクショナリー」を見て『よし、俺もなにかやってやる』と思った人がたくさんいて、そういうのをあちこちで聞くと辞められなくなってしまって。その繰り返しだったんです。だからwikiで『みんなのものだよ』というところに早く置いて、『みんなのものだよ。後はよろしくね』という願望がありますね(笑)。ホームページと繋がっていくライブラリーは、ますますパブリックなものになって欲しい。



完成予想図はなにもない



——現時点ではアルファバージョンということですが?

桑原●いまは一応建設途中なんですけど、賛同者が現れてくれるようになったら、有限中間法人というかたちで運営をしていきたいです。映画作りと同じで自分が出資した分だけ責任を負うという方向に少しでも向かっていければと思っています。それは、ある程度完成してからがいいのかもしれないけど。建設途中でもいいので、ここには過去一回でも出た人は発表することが可能になっているので、ぜひアクセスしてほしいですね。

もちろん出ていない人が集えるコミュニティもやっていこうと思っているし、そこからメンバーとして中に入っていけるシステムも考えています。基本的には完成予想図は何もないので、生きているまま生々しい生命体がそこに存在するようになればいいかなと思っていますけど。


左:壁には過去の「ディクショナリー」バックナンバーがずらりと並んだクラブキングのオフィス








——ライブラリーの反応はどうですか?

桑原●どうでしょうね。坂本龍一さんは『カッコイイ』とか茂木健一郎さんは『歴史を感じる』とか、短いフレーズの反応は、いろいろありますけど(笑)。何号だったかエイズの問題が起きた時にみんなすごく脅えたわけです。特に性の問題というのは、自分たちのまわりの人間で性を謳歌しようとしない人は、一人もいないくらいハチャメチャな人が多いわけだから、やっぱりこわいんですよね。だけど、当時みんなが恐れた時に、ある研究者が『風邪だと思ったら』という話があって、エイズを退治しようとか、治そうとかいうのがそもそも間違いで、風邪のようににエイズと付き合えばいいんじゃないってことで、それで安心した人がものすごく多かった。多分我々は潔癖症というかアメリカから来た健康観みたいなものに惑わされすぎてしまって、100パーセント元気みたいなものを求め過ぎたのかもしれないですよね。

人間の中にはそういう部分と、まだ生きていこうという部分が共存していることが生命体として自然だと考えれば、今の社会の潔癖という部分から楽になれるとも言えるわけじゃないですか。僕らだって毎日お風呂入らなきゃいやという性格で環境問題を考えるのは結構つらいですよね。所詮その程度の人間だと思うので、あまりきれいごとばかりを言ってもしょうがないだろうし。こういうライブラリーとかを見ると『みんなバカ言ってるよな』とか、しかも誤字脱字多いしとか(笑)そんな風にここでは完全なものを求めていないかもしれないですね。


(取材・文:服部全宏(GO PUBLIC) 編集:蜂賀亨  撮影:谷本夏)



桑原茂一氏





プロフィール

桑原茂一
Moichi KUWAHARA
選曲家/プロデューサー/株式会社クラブキング代表

1973年より米国『ローリングストーン』日本版を創刊号から運営、
'77年『スネークマンショー』をプロデュースしYMOと共演、
同年『コムデギャルソン』のファッションショー選曲を開始する。
'82年原宿に日本で初のクラブ『ピテカントロプス』をオープン、
'88年フリーペーパー『dictionary』を創刊、
'96年東京SHIBUYA FMにて「club radio dictionary」を開始する。
'01年の911を機に発行された坂本龍一氏とsuspeaceが監修する『非戦』に参加したのをきっかけに、独自の世界観をコメディという切り口で表現する「コメディクラブキング(CCKing)」を展開。
現在、フリーペーパー/コミュニティラジオ/TV/携帯サイト/映像表現/コメディライブ、またそれらを統括するWEB「メディアクラブキング」をプロデュースし、LOVE&PEACEに生きるオルタナティブなメディアを目指し活動を続けている。
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