旬のアートディレクターをお迎えして、デザインする際の思考プロセスを伺うとともに、創作のスタンスに迫るこのコーナー。第15回目は野尻大作氏。第1話では、「日清カップヌードル FREEDOM-PROJECT」(以下FREEDOM)に関連した制作物を紹介する。
第1話 異業種とのコラボレーション
「クオリティ」と「締め切り」
──今回ご紹介いただける作品の概要を教えてください。
野尻●昨年の4月から始まった広告キャンペーンで、世界各国でカルチャーとして十分に認められているカップヌードルと、これまた世界で注目されている日本のアニメーションのコラボレーションです。
──広告だけではなく、さまざまな展開が繰り広げられているようですね。
野尻●タケルという少年を主人公とした物語がCM上で放映されていますが、その一方で、CMと連動する物語を収録した各話30分のDVDも定期的に発売されています。そのため、カップヌードルの雑誌広告や交通広告などを制作するとともに、DVDのジャケットや発売告知のポスターなども手掛けているのです。
──CMとDVDは、どちらが先のタイミングで制作されているのでしょうか。
野尻●「どちらを先に」というわけではなく、CMとDVDは全く別に作られています。中には同じシーンも描かれていますが、DVDの一部をCM用に切り取っているわけではなく、CMで放映されたシーンを、そのままDVDに使っているわけでもありません。
──それでは、各媒体をデザインする際には、どのような点に注意しているのでしょうか。
野尻●世界各国で注目されていることからも分かるように、日本のアニメーションはとても魅力的で、絵自体が強い力を持っています。その魅力をいろいろな角度から引き出すことができるように、手を変え、品を変えながら見せているのです。たとえば、アニメーションの詳細な設定画をそのままグラフィックとして活用することもあれば、描き下ろしのイラストレーションを作成してもらうこともある。アメコミ調の雰囲気にしたり、劇画のようなタッチで見せたりと、さまざまな手法を用いています。
──題材がアニメーションですし、やはりマニア心をくすぐることも意識しているのでしょうか。
野尻●それを目的としているわけではありません。ただ、結果としてそうなることは大事なことではないかと考えています。
──写真ではなく、イラストや絵を用いる場合に注意すべき点などはありますか。
野尻●写真は撮影日があるため、ある程度スケジュールを読みやすいのですが、イラストはそうではありません。描き手にとっては、時間があればあるほど、描き込めるものだからです。そのため、しっかりコミュニケーションを取らないと、締め切りに関して危機的な状況に陥ってしまう可能性もあります。良いものを作るための最大限の努力をしてもらうべくギリギリまで粘ることと、締め切りに確実に入稿することの両立が大切なのです。
──なるほど。アートディレクターは、その両方に気を配ることが重要なのですね。
野尻●特に、この「FREEDOM」のように、広告のイラストレーションを専門にしているわけではない異業種の方とのコラボレーションでは、仕事のタームや時間の感覚が異なることもあるので、細心の注意を払う必要があるでしょう。広告ではチェックなど必要となる段取りが多いため、かなりの前倒しが必要となりますから。
──著名な方の「作品」を用いる場合には、ダメ出しできなかったり、修正できなかったりすることも多いと思うのですが、いかがでしょうか。
野尻●そのようなことはなく、予想と異なるものが上がってきた場合には、しっかり修正もしてもらいます。というのも、今回の場合は純然たる「作品」ではなく、あくまでも広告のイラストレーションだからです。すると、アートディレクターの立場としては、クライアントに約束しなければならないことがある。たとえばカップヌードルが入ったときに違和感があるようではいけませんよね。もちろんクオリティを維持することも大切ですし、バランスをよくコントロールする必要はあります。だから、構図や全体のコンセプトは事前にラフで詳しく説明して、気になる点があれば、実際に描いていただく前に相談してもらうように配慮しているのです。
(取材・文:佐々木剛士 人物写真:谷本夏)
(取材・文:佐々木剛士 人物写真:谷本夏)
次週、第2話は「色面を効果的に用いた広告」について伺います。こうご期待。
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