今月の1年生デザイナー
矢部佳奈子さん(ジュン・キドコロ・デザイン)
〔プロフィール〕 やべ・かなこ●東京都・墨田区出身の29歳。「グラフィックデザイナー」の存在を知ったのは、高校1年生のときに読んだ雑誌『オリーブ』。「CDのジャケットをデザインできたら楽しいな」という動機で、東京造形大学のグラフィックデザイン科に進学を果たす。大学卒業後は製版フィルムなどの出力加工サービス会社に勤務。その後、自分の大好きなアパレルブランドのプレスへと転職を果たしたが、残念ながらブランド解散を機に、退職することに。その後、少しのインターバルを置いて、2008年12月にジュン・キドコロ・デザインに入社を果たす。入社の動機としては自分自身ですべてコントロールできる、プロフェッショナルなデザイン力を身に付けたかったから。加えて、絵本のデザインを手がける事務所だということも魅力だったという。念願かなって、現在は絵本のデザインにたずさわる日々を送っている。今後の夢としては、いつかタヒチ(夫・エリックの実家がある)に移住したら、小さくてもいいから佐藤絵子さんが手がけている『minimix』のようなカルチャー・マガジンを、自分ひとりで作れたらよいなということ。あわせて、学生時代から続けている音楽活動もマイペースでできたらと思っているそう。そんな、多方面にアンテナをはった矢部さんの、充実した一週間をお送りします! |
ジュン・キドコロ・デザインとは? 2000年設立。アートディレクター・城所潤氏が率いるデザイン事務所。ブックデザイン、雑誌、カタログ等のデザインを行なっている。特に児童書や絵本の装丁を数多く手掛ける。2006年より東急沿線スタイルマガジン『SALUS』のアートディレクション&デザインを担当。 |
月曜。絵本のデザインにたずさわっています。
7:30 起床
少し寝坊。変な夢から引き裂かれるように起きたので、目覚めが悪い。頭がぐるぐる……風邪のせいかしら。今日は、月曜日。
9:15 会社へ
10:10 出社
朝はまず、事務所の掃除から始まります。事務所内全体の掃除機がけと、グラス洗いとトイレ掃除。今日は同時期入社の水野さんと、先輩の大谷さんと3人でやりました。今日の私の担当は、グラス洗いと水まわりの掃除。らくちん♪
10:30 仕事スタート
本日、最初の仕事はティー・オーエンタテインメントから出版される『ふたりのサンドウィッチ』という絵本のオビの制作です。表1は先週作ったので、あとは表4のみ。オビは毎回試行錯誤の連続です。当事務所のボスである城所さん曰く「あまり品が良すぎてもいけない」らしい(もちろん例外もあるけれど)。売るためのアイキャッチのようなものなので、目立たせないと意味がない。出版社によっても、オビの意味合いは少し違ってきますが、私はいつもパラパラしがちなので、ギュギュッとなることを心がけます。
この絵本は、サンドウィッチを通して偏見や思い込みを超えて友情が深まってゆくお話。著者のラーニア・アル・アブドッラーさんは、なんと現役のヨルダン国王妃! 王妃の実話をもとにしたお話だそうです。子供たちの服装がなかなおしゃれで可愛らしいです。
12:15 オビの確認
作ったものを出力して、城所さんに見てもらう。指摘された箇所を修正し、最終的にOKが出たらPDFを作って、城所さんにメールで先方に送ってもらいます。基本的にクライアントとやりとりするのは、ボスである城所さん。私が直でやりとりすることはほとんどありません。
12:50 昼食
12:30~14:00の間で、各自キリの良いところでお昼に出るのがいつものパターン。みなさん、外に食べに行くことが多いです。私はほぼ毎日、おにぎり持参。なぜなら……毎年この時期になると、新潟出身の友達のご実家からお米30kgが届くから。ありがたい。ありがたいけれど、ふたり暮らしの我が家ではなかなか減らないのです。しかも、相方はパン食文化のフランス人。なので、毎日こうして地道に少しずつ消費していきます。
冷たい白いごはんが、実はあまり好きではなかったりするので、いつも炊き込みごはんにしちゃってます。本日の具はひじきと大豆。昨日茹でたブロッコリもあったので持ってきました。トマトは冷蔵庫に入ってないとそわそわしてしまう。
……とお昼ごはんを食べていたら、『SALUS』の念校が届きました! 口に食べ物をほおばった瞬間にインターホンが鳴るとけっこう困っちゃいます。あたふたと念校を受け取り。『SALUS』は東急沿線のフリーマガジンで、弊社でデザインを担当しています。実は『SALUS』については、この事務所に入って初めて知りました。東急線は東横線くらいしか使わないし、もともとフリーマガジンを手にとる習慣がないもので……。『SALUS』は東急沿線のお店や街の紹介以外にも、本やクラシック音楽の連載ページもあるので、沿線利用者でなくとも楽しめます。いつも連載を読むのが楽しみ。
13:50 『ふたりのサンドウィッチ』作業再開
さて、作業を再開。『ふたりのサンドウイッチ』は絵本版(A4判変形)の他に、さらに小さいサイズ、A5判変形の通常版も作ります。通常版の本文最終の観音ページを作成。観音開きのものは、この絵本で初めてデザインを担当しました。裏と表で折りトンボの位置が逆になるのね。当たり前のことなんだけど、うっかりしてると入稿後に面倒なことになる……。そして、私は悲しいほどにうっかりが多いので、気をつけて作業していきます。
14:30 『ブルルルル はるはまだ?』入稿準備
光村教育図書から出版される『ブルルルル はるはまだ?』という絵本が、いよいよ明日入稿となるので、準備をします。韓国の絵本作家、イルソン・ナさんによる3作目、ディティールと色使いがとても綺麗な絵本です。データをいじっているのですが、イラストの画像が重い上にレイヤーが多いので動きが遅い。動きが遅いとミスをしやすいので、ドキドキします。
17:30 原画が到着
講談社文芸文庫用のカバーイラスト原画が届く。クサナギシンペイさんの絵、パネルに直描きです! 貴重な原画をパシャリ。
空の色が色校とだいぶ違う。原画通りに色を出すのは、なかなか難しいらしい。イラストもデータでやりとりすることが多いので、原画を見る機会はあまりないのです。エアパッキンで丁寧に包んで、汚さないようにね。ところで、弊社では伊集院静氏の小説シリーズ『スコアブック』(講談社)のデザインを担当していますが、そのカバーイラストは、あのちばてつや先生が描いています。毎回、うちの事務所にかなりラフな状態で原画が届くので、扱いにヒヤヒヤする……。巨匠だからか、どうも大らかな気がします。
18:50 退社
19:45 帰宅
今日、夫のエリックは仕事がお休み。今日はバンドの練習で遅くなるということなので、夜はひとりごはんになりました。昨日の残りのシュークルートを食べる。弟のドイツ出張土産のソーセージに合わせて、エリック初挑戦の料理です。シュークルートとは、ドイツ料理でおなじみの酸っぱいキャベツ・ザワークラウトとじゃがいもやソーセージなどを蒸し煮にしたもの。しかし、ドイツ風ではなくフランス・アルザス風なんだそうです。南仏出身の彼に言わせると「沖縄人が北海道料理を作るようなもの」なんだそうな……よくわかんない説明だけど、美味しい。
ちなみに、じゃがいもは北海道出身のおばあちゃまからのおすそ分け。うちの食卓はみなさまからのおすそ分けによって成り立っていると思えるくらい……ありがたいことです。ごろんとしたじゃがいもを見ると、私はフジ子・ヘミングを思い出す。フジ子・ヘミング=じゃがいも好きの、イメージ。
食後、ちょっとだけmicro KORGで遊ぶ。音楽はもともと好きで、20歳の頃から3〜4年、uinona(ウィノナ)というユニットで活動していました。私の担当はボーカル。当時はインディーズでCDを3枚ほど出しました。実は、今年に入ってからも自主制作という形で、久しぶりにuinona(ウィノナ)のニュー・アルバムがリリースされたのですが、今回、私はゲストボーカルという立ち位置で参加。9月にはイベントにも出演しました。最近はuinona(ウィノナ)の活動とは別に、曲のイメージを作ることにも個人的に挑戦中。今までは歌うことだけだったけれど、こうやって楽器をいじっていると時間を忘れてしまうくらい楽しい。 何か好きな音やフレーズが見つかったら、iPhoneのボイスメモでとりあえず録音。と、ノートにメモ。 なんとなくいい事を思いついた気がした。
25:30 就寝
エリックが帰ってこない。バンドの練習が長引いている模様? とりあえず、寝る。