第1話 自分の経験を活かした判断 | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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旬のアートディレクターをお迎えして、デザインする際の思考プロセスを伺うとともに、創作のスタンスに迫るこのコーナー。第16回目は有山達也氏。第1話では光村図書出版より発行されている『飛ぶ教室』に注目する。




第1話 自分の経験を活かした判断



マニュアル通りの組み方を
読みやすさの基準にはしない




──児童文学にまつわる内容を扱った『飛ぶ教室』ですが、デザインを担当されているのは何号目からですか。


有山●この季刊誌は、もともと1980年代に発行されていたのですが、いったん休刊して2005年に復刊したのです。そこから再び1号目として数えていて、うちの事務所で担当しているのは5号目からです。


──デザインの方向性としては、どういったことが求められている媒体なのでしょうか。


有山●版元からの依頼では「読みやすくしたい」との要望がありました。


──読みやすさとは具体的にはどのようなものでしょうか。


有山●僕の考える基準は、自分が読みやすいかどうかです。だから誰かに見てもらって「読みやすい」「読みづらい」と判断してもらうことは基本的にありません。既存のサンプルを見ながら考えるのでもなく、自分の中にある基準を元に判断しています。


──たとえば段間の取り方などが独特です。一般的には段間は本文級数の2倍程度が最適と言われていますが、それよりも少し狭くしてありますね。


有山●段間を狭くするのは僕の癖のようです。ただ、俯瞰した際には狭く見えたとしても、読んでいるときには気にならないと思います。まったく空けていないわけではありませんので、読み進めていったときに、行末から段間をまたいで読もうとはしないでしょう? 次の行へと普通に視線を移動させることができるはずです。


──そのほかにも読みやすさを実現するために、どういったことに配慮されているのでしょうか。


有山●本の開きやすさとノドの扱い方なども、読みやすさに繋がる重要な要素です。この本でも、通常よりノドの空きを広めに確保しています。


──読みやすさを実現するためには、文字組みばかりでなく、本自体の構造にも注意すべきなのですね。


有山●ノドのマージンを決める際には、紙質が影響することも考慮しなければいけません。たとえば、僕はコシのない紙を使うことが多いのですが、そうするとページをめくりやすく、ノドも開きやすくなります。もちろん出版社の意向もあり、必ずしも紙を選べるケースばかりではありませんが、なるべく複合的に考えなければいけません。


──本文用紙を提案できるケースでは、しなやかな紙を選ぶことが多いようですが、紙が薄いと裏写りしやすくなりませんか。


有山●確かにそれを敬遠する人もいるかもしれませんが、僕は裏写りをあまり気にしません。雑誌なので妙に整理しすぎるのも嫌ですし、そのような荒さもOKだろうと考えています。同様に、出版社によっては束(つか)を出すためだけの理由で嵩高の紙を採用したがることもありますが、この傾向も僕は好きではありません。中身が良ければ本の厚さは関係ないし、読者のことを考えると薄いほうが持ち運びしやすいはずですから。

──読むときの状況を想定して、そこでの利便性を重視しているのですね。


有山●判型についても似たような考え方です。A4やA4変型だと置いて読むでしょうけど、B5であれば手に持って読みやすい。たとえば「ビジュアル誌だからA4以上の判型でないといけない」といった考え方は僕の中にはありません。そんなに大きな本が家にたくさんあっても置き場に困りますよね。持ち運びできる程度が良いのではないかと考えています。


──判型に関しても一般的な慣習ばかりが正解ではないのですね。


有山●さらに判型は読みやすさについて考える際に無視できない要素です。小さければ小さいほどノドがキツくなりますから、それに合わせた調整が必要となります。


──なるほど。ひと口に「読みやすさ」といっても、奧が深いものであることがわかりました。


有山●複合的に考えていくことが重要なのです。だから、時間がある場合には先に束見本を作るほうが良いと思います。実際に束見本を開いてみれば、ノドのどの辺りまで読むことができるか一目瞭然ですからね。
(取材・文:佐々木剛士 人物写真:谷本夏)


次週、第2話は「文庫本のフォーマット」について伺います。こうご期待。


有山達也(ありやま・たつや)

66年埼玉県生まれ。90年東京藝術大学美術学部デザイン科を卒業後、中垣デザイン事務所にて約3年間勤務。93年アリヤマデザインストアを設立。94年『マルコポーロ』(文藝春秋)にデザイナーとして参加。以後、『ERiO』(NHK出版)、『store』(光琳社)、『ゆめみらい』(ベネッセコーポレーション)、『ku:nel』(マガジンハウス)、『FOIL』(リトルモア)などのアートディレクションを担当。2004年『100の指令』(日比野克彦著/朝日出版社)で第35回講談社出版文化賞ブックデザイン賞を受賞。

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