この数年、活況を呈する再発CDの世界。紙ジャケット、リマスタリング、レア音源のボーナス・トラック……と、マニア心をくすぐる復刻アイテムに気もそぞろな音楽ファンが多いのではないでしょうか? 今回のザ・対談では、そうしたリイシュー盤の制作に携わる二人の“達人”に登場いただき、ジャケットの再現に隠された苦労など、デザイン業界人も「そうなのか!」と興味を抱くようなお話をうかがいました。
第1話 リイシューへの準備
吉田格さん(左)と、土橋一夫さん(右)
タイミングはアニバーサリー
──土橋さんが監修を務めたリイシューCDが立て続けにリリースされています。個人的に溜飲が下がる思いで全タイトル大人買いしてしまった、杉真理さんの作品を例にとりながら話を始めたいのですが。
土橋●杉さんの作品は、ビクター時代のアルバムも含めてしばらく廃盤の状態が続いていたので、4〜5年前から再発したいと考えていました。そこで杉さんはじめ関係者の方々に提案していたところ、今年デビュー30周年を迎えるから、そのタイミングに合わせようという話になりまして。
吉田●僕のところには、2〜3年前から打診はあったんですね。でも、何もないところで出してもボリューム感がないから、もう少し待ってもいいかと。
土橋●吉田さんに相談を申し上げたときが27周年(笑)。やっぱり、25周年とか30周年じゃないと中途半端ですよね。だったら新譜も旧譜と同じタイミングで出そうと準備を進めていたんです。
──大滝詠一さんのナイアガラを筆頭に、最近はアニヴァーサリー企画が多いですね。レーベルとしても、そういうきっかけは大事だと。
吉田●みなさん、いまも継続的に活動してますからね。きっかけとして、25周年なり30周年なり区切りのあるところで出せれば、こちらとしても一括した宣伝ができる。杉くんの場合はそれがデビュー30周年だった。土橋さんのほうも、完璧にアウトテイクや資料を揃えていたので、その内容だったら採算とれるかと。
土橋●やるなら徹底してやりましょう、と。
──この数年、吉田さんがチーフプロデュースを務めるソニー・ミュージックダイレクトのレーベル「GT music」では、そうしたリイシューが顕著ですね。
吉田●うちはシーンの最前線でセールスする若いアーティストを扱うフロント・レーベルではなく、会社にある財産を利用するという位置づけで。でも僕は同時に新録モノも手がけていて、セクション内でも特異な立ち位置なんですよ。
土橋●復刻が専門というわけではないんですよね。
吉田●ええ。エルダー系というとアーティストに失礼ですが、いまも現役で活動している熟した方々の新作にも携わっていて。最近では太田裕美さん、大貫妙子さん、ブレッド&バター、サーカス、五輪真弓さん、シネマ、辛島美登里さんの新作の他、まさに今週から鈴木慶一さんのソロに取りかかろうとしている。そういうものと同時に、それぞれかつての音源をリイシューしようというのが目論見としてあるんです。
土橋●杉さんの作品は、ビクター時代のアルバムも含めてしばらく廃盤の状態が続いていたので、4〜5年前から再発したいと考えていました。そこで杉さんはじめ関係者の方々に提案していたところ、今年デビュー30周年を迎えるから、そのタイミングに合わせようという話になりまして。
吉田●僕のところには、2〜3年前から打診はあったんですね。でも、何もないところで出してもボリューム感がないから、もう少し待ってもいいかと。
土橋●吉田さんに相談を申し上げたときが27周年(笑)。やっぱり、25周年とか30周年じゃないと中途半端ですよね。だったら新譜も旧譜と同じタイミングで出そうと準備を進めていたんです。
──大滝詠一さんのナイアガラを筆頭に、最近はアニヴァーサリー企画が多いですね。レーベルとしても、そういうきっかけは大事だと。
吉田●みなさん、いまも継続的に活動してますからね。きっかけとして、25周年なり30周年なり区切りのあるところで出せれば、こちらとしても一括した宣伝ができる。杉くんの場合はそれがデビュー30周年だった。土橋さんのほうも、完璧にアウトテイクや資料を揃えていたので、その内容だったら採算とれるかと。
土橋●やるなら徹底してやりましょう、と。
──この数年、吉田さんがチーフプロデュースを務めるソニー・ミュージックダイレクトのレーベル「GT music」では、そうしたリイシューが顕著ですね。
吉田●うちはシーンの最前線でセールスする若いアーティストを扱うフロント・レーベルではなく、会社にある財産を利用するという位置づけで。でも僕は同時に新録モノも手がけていて、セクション内でも特異な立ち位置なんですよ。
土橋●復刻が専門というわけではないんですよね。
吉田●ええ。エルダー系というとアーティストに失礼ですが、いまも現役で活動している熟した方々の新作にも携わっていて。最近では太田裕美さん、大貫妙子さん、ブレッド&バター、サーカス、五輪真弓さん、シネマ、辛島美登里さんの新作の他、まさに今週から鈴木慶一さんのソロに取りかかろうとしている。そういうものと同時に、それぞれかつての音源をリイシューしようというのが目論見としてあるんです。
今年7月、GT musicから一挙6タイトルが紙ジャケで再発された杉真理のアルバム。
上段 左:SONG WRITER(1980年作) 中:OVERLAP(1982年作) 右:STARGAZER(1983年作)
下段 左:mistone(1984年作) 中:SYMPHONY#10(1985年作) 右:SABRINA(1986年作)
それぞれ発表当時のライブ音源、シングルバージョンなどのボーナス・トラックを収録、
オリジナル盤の歌詞カードを復刻するとともに、最新インタビューに基づいたライナーノーツを封入した。
(24bitデジタル・リマスター/完全生産限定盤/各2500円/ソニー・ミュージックダイレクト)
詳しい情報は、杉真理デビュー30周年スペシャル・サイトをご覧ください
上段 左:SONG WRITER(1980年作) 中:OVERLAP(1982年作) 右:STARGAZER(1983年作)
下段 左:mistone(1984年作) 中:SYMPHONY#10(1985年作) 右:SABRINA(1986年作)
それぞれ発表当時のライブ音源、シングルバージョンなどのボーナス・トラックを収録、
オリジナル盤の歌詞カードを復刻するとともに、最新インタビューに基づいたライナーノーツを封入した。
(24bitデジタル・リマスター/完全生産限定盤/各2500円/ソニー・ミュージックダイレクト)
詳しい情報は、杉真理デビュー30周年スペシャル・サイトをご覧ください
自分が買ったときにどう思うか?
──復刻するとき、まずジャケットのフィルムとか残ってないですよね?
土橋●アナログの現物からです。今回の杉さんはLPをコンプリートに持っていたので、私物をSMCにお貸ししてそこから起こしました。CBSソニー時代の杉さんのリイシューに関しては、全体のディレクションを僕が担当して、実際の作業はSMCを通じてお願いしたのですが、杉さんに続いてリイシューした須藤薫さんや伊藤銀次さんなどは、すべてうちの事務所にあるエプソンのスキャナーでスキャニングし、弊社でデザイン作業をしていきました。あまりにもタイトル数が多かったので、手分けしないと間に合わなかったんです。
──モアレもなくて、きれいですよね。ちょっと前のスキャニング技術だと、難しかったのでは?
土橋●いま、それができるんですよね。でもスキャニング後の処理が、かなり気の遠くなる作業で(笑)。モアレはある程度フィルターで除去できるんです。その後、小さなゴミをとったり色を直したりするのが、ほんと地道な手作業で……。僕の事務所には「サーフズ・アップ・デザイン」というデザイン・セクションがあるのですが、ここの高瀬康一というデザイナーと共に、毎日細かな作業の日々が続きましたね。
──歌詞カードもLP時代のものが再現されていましたが、あれも同様ですか?
土橋●基本的にはそうです。ただ、どうしても現物を画像として取り込むと、荒くなってしまう。だから、場合によってはテキストを打ち直したものもあります。
吉田●あと、オリジナルでミスしているところも結構あって。
土橋●誤植は意外に多かったですね。昔の版下時代のものだから仕方ないのですが、特にうちの事務所でデザイン作業したものは出来る限り修正しました。
──当時のステッカーまで復刻したのはびっくりしました。
土橋●あとリスナーから意外と反響があったのは、杉さんの『mistone』の中に入っていたカード。オリジナル発表当時、貸しレコード店の全盛期で、その「貸しレ対策」として杉さんからのメッセージが添えられていたんです。あれはコアなファンには喜んでもらえて。
吉田●レベッカの紙ジャケも、ステッカーまで忠実にやりました。でも、ステッカーとかは、会社にある保存盤にはついてないことが多いんですよ。それはもう、オークションなどで持っている人を捜したり。
──えっ!
吉田●事務所もメンバーも、そこまで保存してないことが多いんですよ。
土橋●当時のLP盤、シュリンクで包んでステッカー処理が多かったですからね。
──ああ、シュリンクを破るとステッカーも一緒に破棄されて……。
吉田●会社の中でも完全にアーカイブされてないし、あったとしてもどこかが破損している。CBSソニーもエピックも、管理がバラバラなんです。本当は一括した倉庫があるべきなのですが……でも、レコード会社の中では、うちはまだあるほう(笑)。
土橋●かなりイイほうですよ。現物自体、保管してない会社もありますから。
──盤面のカラーも、CBSソニー時代のオレンジを踏襲してますね。
吉田●当時のロゴまでは使えないですけど。
土橋●ジャケットの裏面も古いロゴを消してからGTのロゴを入れて、荒れ具合も調整して……という細かい作業でしたね。でも僕自身、いまも年間数百枚のCDやレコードを買ってますから、作る側というよりもヘヴィ・ユーザーの感覚なんですね。だから、自分が買ったときにどう思うか? そう考えると「とことんやらないとダメでしょ」って。
──自分が欲しいために?
土橋●そう。自分が欲しくてお金払って買うからには、そこまでやってくれると嬉しいだろう……という気持ちが強いんですよ。
吉田●その気持ち、やっぱり大事なんですよね。
最新スキャニング技術によって復元されたステッカー付き紙ジャケット、
オリジナルの歌詞カード、CBSソニー時代のカラーを踏襲した盤面に加え、
当時のメッセージカードまで再現した杉真理『mistone』。
内容も大ヒットした前作『STARGAZER』の勢いを汲みながら、
伊藤銀次、Nobody、Hi-Fi SETなど豪華アーティストがゲスト参加。
ゴージャスで高品質なサウンドに彩られた、80年代中期を飾る名作だ。
アートディレクションは、杉真理作品を一貫して手がけた田島照久氏。
早くからCGに取り組んでいた氏のデザインは、いまも色あせない魅力を放つ
オリジナルの歌詞カード、CBSソニー時代のカラーを踏襲した盤面に加え、
当時のメッセージカードまで再現した杉真理『mistone』。
内容も大ヒットした前作『STARGAZER』の勢いを汲みながら、
伊藤銀次、Nobody、Hi-Fi SETなど豪華アーティストがゲスト参加。
ゴージャスで高品質なサウンドに彩られた、80年代中期を飾る名作だ。
アートディレクションは、杉真理作品を一貫して手がけた田島照久氏。
早くからCGに取り組んでいた氏のデザインは、いまも色あせない魅力を放つ
次週、第2話は「復刻CDという魔境」を掲載します。
(取材・文:増渕俊之 写真:FuGee)
(取材・文:増渕俊之 写真:FuGee)
[プロフィール] |
よしだ・ただし●株式会社ソニー・ミュージックダイレクト勤務。Y's Room室長、および「GT music」チーフプロデューサー。 |