第1話 はじまりはレンタル・レコード店 | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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様々なジャンルで活躍するデザイナーの来歴をたどるシリーズ。今回はグラフィックデザイナーの仕事と並行しながら、ミュージシャン/ライター/編集者としても多彩な活動を展開する江森丈晃さんを取材し、今日までの足跡をたどります


第1話 はじまりはレンタル・レコード店



江森丈晃さん

レコードに囲まれた仕事部屋にて、江森丈晃さん


パッケージングされた芸術作品が好き



──いまの幅広い仕事につながる興味を抱いた原点は?

江森●ずっと音楽が好きだったので、レコードのジャケットだと思います。中学3年からレンタル・レコード屋でアルバイトしてたんです。ロックもクラシックもジャズも職場に行けば全部あったから、まんべんなく音楽に触れられる環境でした。

──自分で初めて買ったレコードは?

江森●そんな環境にいたから、自分で金を出してっていうのは遅くて、たぶんドリーム・アカデミーの2ndアルバムだったかな。あれは本当にいろんな要素が入っていたので、早く聴けてよかったです。

──学校は?

江森●高卒です。なんの思い入れも思い出もない男子校。美術などの専門課程はまったく勉強してません。

──では、そのレンタルレコード店が“勉強部屋”だった?

江森●ですね。でもその店は、デヴィッド・ボウイの再発CDの帯の裏にあった懸賞の応募券を、全部勝手に切り取ってクビになるんですけど(笑)。その後もレンタル・ビデオ店や、いまは廃れましたが「WAVE」でも働いて……。結局のところ自分は、音楽でも映画でも、いったん作り手を離れてパッケージングされた芸術作品が好きだったんです。ミュージシャンや映画監督は好きにならないけれど、作品として完成したものに対してはずっと愛着があって。

──部屋のレコード棚を見ればわかります(笑)。

江森●勉強しないでデザインとかやっている人、いま多いじゃないですか。でも、僕たちの世代だと、中学〜高校ぐらいから、お手本になるものがなんでも身近にあったわけで、月に何十枚もレコードに触れたり、知識欲相応の映画だったりを観ていれば、できないほうがウソっていうか。いまもこれだけ多くの“先生”がいる時代なので、逆に「なんでできないの?」って思うんですけどね。まんまパクるパクらないっていうのは別の話にしても。

──高校卒業後の進路は?

江森●とにかく音楽に関わっていたくて、アルバイトしながらバンドですね。高校時代は10歳ぐらい上の兄貴的な存在の友達がいて、その人たちのバンドに入れてもらっていたんです。僕が入ったときはXTCの真似事みたいなことをやってました。演奏力のないXTCというか、曲の書けていないXTCというか(笑)。

──ハハハ。

江森●そういうバンド活動をしているうちに、宅録に興味がいったのかな? 当時は、音数が少なくて、音質も最悪で、だけど味があるからオールOKって感じのC級ギターポップが流行った時期でもあって、これならできると思ったんですね。で、自主制作したテープが輸入盤店でちょっと話題になって、UK盤が出るようになったんです。

──それが「CITRUS」ですか?

江森●はい。そのUK盤がたまたま小山田圭吾さんの耳に止まって、彼のレーベル「トラットリア」から作品をリリースしたのが23歳ぐらいでした。


『Prego! 2001〜Night Performance』ジャケット『Prego! 2001〜Night Performance』展開

江森さんのデザインワークより
Various Artists『Prego! 2001〜Night Performance』(Trattoria/2001年)
トラットリア・レーベルの年間ベスト・コンピレーション盤のジャケット(左)と展開(右)。
A3アクリル版16枚を張り合わせた巨大シートに、指紋をペイントし続けること1ヶ月……。
表1だけではわかりづらいが、10Pインナーブックを開いていくうちに下絵が指紋で描かれていることがわかる仕掛けに。
トラットリアのWebアーカイブ(MENU.238)にて、その「カモン指紋」体験ができます

自作のデザイン、そして編集の道へ



──デザイナーになろうと思ったきっかけは?

江森●なろうとは思ってないですね。ただ、自主制作のカセットテープだったりシングルだったりは、ジャケットも当然のように自分で作っていたんです。さっきの話と繋がりますけど、そのときもお手本となるものがたくさんあったし、「こんな楽しいこと、他人に振るわけねぇじゃん」って気持ちで。

──Macを使ってDTPですか?

江森●いや、その頃はまだ使えてません。手描きのレタリングとかコラージュですね。……ただ、これはちょっと後付けかもしれないですけど、印刷物に関しては考えがあったんです。100本限定のテープでも、町の印刷屋さんでキチッと刷ってましたから。

──自腹ですよね?

江森●ええ。でも、子どもが印刷所に行けばお金がないってすぐにわかるので、運よくタダみたいな値段でやってくれたんです。いや、タダだったかな(笑)。

──恵まれた環境でしたね。

江森●恵まれない子に恵んであげようと。で、すごくキレイなものが1000枚も出来上がってきたのですが、いらない900枚はドブに流して(笑)。

──印刷物にフェチ的なところもあったのですか?

江森●いや、それはおそらく、周りのバンドと同じことをやりたくない……という気持ちがデカかっただけだと思います。ヘボいギターポップなんて一山いくらで全部一緒くたにされるものだから、なにかしら突出しなきゃ駄目だと思って。「周りの奴らがコピーで刷ってんなら、俺らは印刷だ!」という考えですね。もう、頭が悪すぎる(笑)。

──音楽活動と並行して、出版社に勤めてますよね?

江森●はい。ソニーマガジンズ。知人の紹介で『WHAT's IN? ES』という音楽雑誌にいました。ただ、編集に興味があったわけではなくて、音楽に近いところにいられるならいいかと。そこが割と大らかな編集部で、最初はハガキの整理から始まったんですけど、すぐ原稿を書かせてもらうようになって。

──文章にも興味が?

江森●自分から「書かせてくれ」と言った憶えはないのですが、それまでも店頭の推薦文などは死ぬほど書いていたし、編集部の場合、書いたぶんだけ金になりますから。で、土日にワープロを持ち帰って、ひとりで90年代ロック特集を100枚斬りしたりとか、ネオアコ〜ギターポップのレア盤ガイドとか書いてましたね。でも、好きなことだったから全然苦にならなかった。「あぁ、これで金貰えんだな」って。パステルズとかセイント・エティエンヌにインタビューできたのも嬉しかったな。

──どれぐらい勤めたのですか?

江森●そこは3年ぐらい。まぁ、そのぐらい勤めれば、自然とテクも身に付きますよね。仕事の仕方や礼儀だったりは、誰に教わるものでもないし、毎月のように修羅場があるから、写植の指定もうまくなっていくし、ダーマトも減っていくし(笑)。

──そこで社会的な通念も兼ね備えて?

江森●ええ。これをやったら怒られるな……とか(笑)。


ヨーガンアンツ『Bethlehem, We are on our own』

江森さんの最新サウンド&デザインワーク
yoga'n'ants『Bethlehem, We are on our own』(Tone Twilight/2007年)
江森さんとサウンド・エンジニアの渡辺正人氏を中心とした不定形ユニット
ヨーガンアンツ」の初フルアルバム。
フランス人女性ボーカリスト=Sublime(スブリーム)の全面参加により、
ヨーロピアン・ジャズからカンタベリー・ロック、アシッド・フォーク、ネオアコ、
ノイズ……等々、幅広いジャンルを一望する“鬼ポップ”な好盤


次週、第2話は「運がよかった人との縁」についてうかがいます。

(取材・文:増渕俊之 写真:FuGee)

江森丈晃さん

[プロフィール]

えもり・たけあき●1972年東京都生まれ。グラフィック・デザイナー/ミュージシャン/ライター/編集者。ソニーマガジンズ〜宝島社での編集修業を経て、98年にデザイン事務所+インディペンデント・レーベル「TONE TWILIGHT」を立ち上げる。90年代初頭から中盤までバンド「CITRUS」の中心メンバーとして活動、最近は新しいユニット「yoga'n'ants」のアルバムを発表したばかり。http://www.tonetwilight.com/




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