第1話 個が生み、個が育てる | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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Webコンテンツの制作を主軸に、ワークショップなど教育事業にも力を入れている株式会社ロクナナ。フリーランス制作グループとしての出立から11年、Web黎明期から現在にかけて「目的なく舟を進めてきた」と代表取締役の上田キミヒロさんは言う。そのオモテとウラに迫るべく、同社役員でありFlashアニメーターとして名高いA.e.Suck(エイサク)さんにも参加いただき、制作会社探訪「ロクナナ」編をお送りしよう。


第1話 個が生み、個が育てる



上田キミヒロさん(右)とA.e.Suckさん(左)


渋谷区神宮前の「ロクナナ」にて、上田キミヒロさん(右)とA.e.Suckさん(左)


会わずに仕事するのに飽きたから……



──まず、ロクナナさんの今日までを振り返ってみたいのですが、そもそもフリーランスの方々の制作グループとして始まって。

上田●ええ、1996年ですね。その頃はまだエイサクさんとは……

A.e.Suck●会ってないね。最初に会ったのは、2002年だったから。

上田●渋谷のデジハリの前で待ち合わせしたんですよね。

A.e.Suck●そうそう。ロクナナが株式会社になる1年前。

上田●当時、僕がデジハリの渋谷校で講師をやっていたんですね。その頃、ちょうどアニメーションの仕事の話があって、エイサクさんにお願いしようと。それが初めて会ったきっかけですね。

──そもそも、みなさん一匹狼的に仕事している方が多い業界だから、その横のつながりから始まったのが、いまに至る会社の礎ですか?

上田●そうです。以前は、一人一人仕事をすることで成り立っていたんです。メールと電話だけで繋がっていれば十分だった。でも、そういう形の仕事を4〜5年やっているうちに「ちょっと飽きちゃったな」という話になって。うちのアートディレクターの竹中もそうでしたが、よく仕事する仲間たちが「会わずに仕事する形態にも飽きたので、顔を突き合わせて一緒に作業をするのはどうだい?」という流れになった。じゃあ、場所を借りよう……と決めた段階で、法人化につながるのですが。

──最初は何人ぐらいから?

上田●会社自体は3人ですね。それまでのフリー集合体の頃は、仕事単位で変わりましたがコアメンバーは10人ぐらい。

──ロクナナがスタートした96年当時、エイサクさんの状況は?

A.e.Suck●私は当時、DirectorのアニメーションをShockwave化したりしてましたね。Flashは、ようやくMLで繋がりが生まれた頃。そんなに盛り上がってなかったですよ。FlashってWeb業界ではまだ敬遠されてたし。

──当時のバージョンは……

A.e.Suck●2の頃かな。

──いま活躍中のクリエイターに話を聞くと、2から入ったという人が多いですね。

A.e.Suck●そうなんですよ。しかし、仕事ではまだ全然……「Flashで作ったものはプラグインがいるんでしょ?」と言われて、かなり嫌われていました。それでも興味のあるところが何社かあり、アニメーションの仕事はあったんです。でも、見られない人たち続出の時代で、結局「HTML版でお願いします」って言われてしまう状態だった。


上田キミヒロさん
仕事を始める前は、音楽関係の専門学校に通っていた上田さん。
「音楽で一旗揚げてやろうと思って、バンドをやってました。
相当探せば、インディーズ時代のCD見つかるかも(笑)」
当時の学校の先輩がDirectorで仕事をしていて、
そのうち「俺やめるから、お前やれ」という話になって……。
「使い方の概略を教えてもらったら、なんとなくできそうだった。
『やってみます』と答えたのが、この世界に入ったきっかけです」





“師匠レス”の若い人たちに向けて


──エイサクさんに役員になってもらおうとしたきっかけは?

上田●その直前1年間、有限会社の時期があるのですが、有限は役員がいらなかったんですね。でも、法人にすると周りからの見え方が変わってしまって、来る仕事の規模が大きくなった。と同時に、仕事の働き方を変えようかという話があったんです。じゃあ新しい場所を借りるついでに「社内でワークショップをやろう」と。やるからには、一流の先生に教えてもらうほうがいい。そこで、エイサクさん、野中(文雄)さん、佐分利(仁)さんたちに講師をお願いしていったんですね。

──そのタイミングで株式化されて。

上田●ええ。で、役員が4人必要ということを初めて知って(笑)。そこで「役員もお願いします」と頼んだんです。それが4年前。

──快諾を?

A.e.Suck●うん。その場で。話がイイところ、突いていたんです。まず「ワークショップは小規模で少ない人数でやる」と。あと、この業界は師匠レスの人が多くて、みんな我流なり独学でやってきている。いわば、タテ繋がりがない人たち。そういう人たちに「師匠の替わりになれる講師がいい」と。

──そこに共鳴されて。

A.e.Suck●だって、いまの子たち、学校出の人も会社によっては師匠ができるかもしれないけれど、フリーでやっている子はなかなかそういう機会もないだろうし。まあ、俺なんかはアニメーター時代の師匠あっての今があるので。散々イジめられてイビられたけど(笑)やっぱり教えられたからね。

──しかし、Flashに関しては開拓者として。

A.e.Suck●Flashに関しては、教えを乞う人がいなかったから仕方なかった。でも、アニメーションの下地はもうできていたので、そこは若い人たちに教えてあげること一杯ある。

──上田さんたちは“師匠レス”だったという思いもあるのですか?

上田●僕らが株式会社になる前の何年か、CD-ROMを作ってきた会社が潰れたり、インターネットというものが儲かるらしいぞ……というバブルな時代があって、多くの制作会社がなくなっていった時期でした。それなりの規模のところはいつかありましたが、そういうところに所属していないと教えてもらえる状況すらない。それはやっぱり、よくないことです。で、せっかく場所という固定のものを持つのならば、後進の育成ができたら面白い。僕自身、いろんなところで教えていた経験もありましたので「じゃあ、学校だろう」と。


A.e.Suckさん 高校時代、テレビ局での役者オーディション(!)に落ち、
たまたまデパートの子ども向けアニメ教室に立ち寄ったエイサクさん。
「教えていた作画監督と話したら『こういう仕事、興味あるの?』と。
アニメーターなんて知らなかったけど、絵を描くのが好きだし、
映画も好きだから『興味あります』と答えたんですよ」
翌日、徹夜して描いた絵を見せに行ったら……
「高校卒業後、東京に出ておいで、と。アパートから職場まで手配してくれて、
そこの師匠に教わりながら……ま、教えちゃくれないから、盗みながら憶えたね」




次週、第2話は「人を動かし、仕事が回る」を掲載します。

(取材・文:増渕俊之 写真:FuGee)



上田キミヒロさん

[プロフィール]
うえだ・きみひろ●株式会社ロクナナ代表取締役社長、プロデューサー/ディレクター。1976年京都生まれ。CD-ROM制作、Director講師などを経て、Webコンテンツ制作を開始。96年にフリーランス制作グループ「ロクナナ」を発足、2001年に法人化。03年、株式会社となるとともに「ロクナナワークショップ」を開講。
http://rokunana.com/


A.e.Suckさん

えーいーさっく●Flashアニメーター/株式会社ロクナナ取締役。1960年名古屋生まれ。アニメーターとして多くのTV・劇場用アニメに携わった後、1997年からFlashでのアニメ制作に移行。セルアニメ技法を取り入れたFlashアニメーションを専門に制作している。1999年、Flashアニメーション制作プロダクション「ダイナミックトゥーン」を設立。

http://ae-suck.com



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