WEBディレクションの極意
文=島元大輔
大阪のWeb制作会社でWebディレクターとして活躍後、(株)キノトロープに入社。数多くの企業Webサイト構築プロジェクトにかかわる。その後、(株)ライブドアに入社、現在は(株)セシールに在籍。著書として「だから、Webディレクターはやめられない」(ソシム刊)。 url.blog-project.cecile.co.jp/
第1回
Webサイト構築・運用の流れ
企業のWebサイトを構築するとき、最初から最後までひとりでつくり上げるということはまずない。制作も運用もさまざまな人物が登場することになる。そこで、その多くの登場人物をまとめ上げ、作業をスムーズに進行させるWebディレクターの存在が欠かせないものとなる。このページではWebディレクションに焦点を当てて、Webサイト構築・運用の進め方、コツ、心得などをそれぞれの場面ごとに解説していく。
Webサイトを構築・運用する場合、おもに以下の工程が挙げられる【1】。
【1】Webサイト制作のおもな流れ。各工程でさまざまなスタッフがかかわり、それぞれの領域で作業を進めていく
1.現状把握
2.企画
3.設計
4.制作・公開
5.運用
これら各工程では、プロデューサー、ディレクター、デザイナー、HTMLコーダー、プログラマーがそれぞれの領域で作業を進めていく。こうしたサイト構築にかかわるスタッフ全員が同じゴールを見据えて、円滑に制作を進めるためにはどのような作業が必要で、どのようなことに注意するべきだろうか?
次の節からは各工程内での作業について、特にプロジェクトを円滑にまわす立場であるWebディレクターの立場に立ちながら紹介していこう。ぜひ、現場での参考にしていただきたい。
■始める前の準備
大きなプロジェクトでも、小さなプロジェクトでも、最初に必ず確認しておかなければならないことがある【2】。つい、めんどうくさいと感じてしまう細かい確認作業でも、準備を怠るとあとで取り返しのつかないことになり、制作者がつらい思いをする。必ず初回のミーティング(キックオフミーティング)で以下のことを確認するようにしよう。
1.行うべきことの確認
まず、そのプロジェクトで「何を」行うか、納品物は何か、などを確認する。プロジェクト概要書という形でやるべきことや納品物についてまとめておくといいだろう。
2.スケジュールの確認
プロジェクトで行う内容が決まれば、それをいつまでに行うか、どのようなマイルストーンで進めるかを確認する。企画段階であれば週ごとの作業内容、制作段階であれば日ごとのスケジュールを書いて、クライアントと制作者のやり取りをできる限り綿密に作成しておくことが重要である。
3.コストの確認
行うべきこと、スケジュールの次はコストの確認だ。いくらでその仕事を請けるのか、何を納品すれば請求書の発行ができるのかといったことを確認する。特にコストは、プロジェクトに費やすことのできる時間にも直接かかわってくるため、クライアントとの認識を合わせておく必要がある。コストの出し方については「一式」という出し方ではなく、「1点当たり○○円」というように、作業量が増えればそのぶん請求額も増やすことのできる形にしておくことが望ましい。
4.プロジェクト推進体制の確認
見落としがちなのが体制の確認だ。公開の直前になって、クライアントの上司からNGが出たのですべてつくり直し、しかも納期はそのままで、ということが制作現場では少なからず起こっていることだと思われる。こうした話は、最初にだれが最終意思決定者かという体制の確認をしておけば防ぐことができる。
【2】プロジェクトを始める前にこれらの確認は必ずしておきたい
■契約の方法
意外に思われるかもしれないが、契約の方法を工夫することでプロジェクトをスムーズに進めることが可能となる。たとえば、Webサイトのリニューアルをまったくのゼロベースから始める場合、プロジェクトの最初から最後までを一式で見積もるのは非常に困難だ。プロジェクトとしての契約を最初から最後まで結んでしまうと、行うべきことも、見積もりも、スケジュールもあいまいなものになりかねない。
プロジェクトをスムーズに進めたいならば、先ほど示したような「Webサイトの構築・運用の流れ」に沿って企画、設計、制作、運用のそれぞれで契約を結ぶようにしたい【3】。企画が決まって初めて設計のスコープができ、設計が決まって初めて制作のスコープができるのである。けっしてすべてをひとまとめにして契約を行わないことが、プロジェクト成功への近道となる。
このようにプロジェクトを始める前の準備や契約の方法について見てきたが、初回ミーティングの段階でクライアントと入念な確認をしておくことによって、起こり得るトラブルを事前に防ぐことができる。逆を言うと、これらの確認をきちんとやっていたとしてもトラブルが起こる可能性はあるので、ここで取り上げた項目は最低限確認しておくべきだ。
【3】契約は企画、設計、制作、運用とそれぞれの工程において結ぶようにしたい
■制作現場でよく起こる事例
これまでお伝えしてきたことが、製作現場でどのように活用されるかをご理解いただくため、実際に起こりがちな事例を3つ紹介したい。これらの事例は「プロジェクトを始める前の準備」をしっかりと行っておくことで防げるものである。同じようなことが起きないようにぜひとも注意して、入念な準備をしていただきたい。
Case:1 認識の違い
クライアント:「このページはつくってもらえると思っていたのですが......」
制作者:「いえ、このページは見積もり外だという認識です」
クライアント:「公開日が伸びるとは聞いていなかったのですが......」
制作者:「段階的に公開する予定だという認識です」
といったやりとりはよくあるのではないだろうか。特にWebサイト公開直前になっての「認識の違い」は、プロジェクトを進めていくうえで取り返しようのない、だれもが不幸になるパターンである。これらを防ぐためにも「行うべきことの確認」、「スケジュールの確認」、「コストの確認」を十分に行ってほしい【4】。
【4】プロジェクト概要書とプロジェクトアジェンダ。こうした資料を作成してクライアントとの意思疎通を図ることも必要だ
Case:2 決まったことがひっくり返る
クライアント担当者に承認を得たにもかかわらず、公開直前で意見が覆される。これは、特にデザイン承認の場面で多いのではないだろうか。最後の最後になって、担当者の上司が出てきてダメ出しをされるというパターンだ。これに関しても「体制の確認」で「だれが最終の意思決定者か」を明確に記しておくことでそのリスクは回避することができる【5】。
【5】定例会議に出席するメンバーはだれなのか、また、最終的にだれが意思決定者なのかを明確にしておく
Case:3 予想以上に制作ページ数が膨らむが、請求ができずにプロジェクトが赤字
どれだけ綿密に準備をしていても、想定以上のページ制作が発生するのがWeb制作の現場である。もちろんできるだけ想定外を減らすという努力も必要であるが、万が一、制作ページ数が膨らんだ場合の対応も考えておく必要がある。
これは「コストの確認」にあたるが、見積書で制作ページ数・画像加工数などを1点ずつ定義しておくことが重要になる。どこまでが見積もりの範囲内でどこからが範囲外なのか、ということを明確に記しておく。けっして見積もりで「一式」とは書かないことも忘れてはならない。
以上、3つの事例を紹介したがいずれも現場でよく起こりえる問題であり、すでに経験済みだという人も多いのではないだろうか。これらの事例は、だれもがハッピーにならないうえに、クライアントとの関係が悪化する場合もあるので気をつけなければならない。
最初からすべてのことができないとしても、同じ失敗を繰り返さないようにすることが大切である。まずは、ここに記載したことをそのまま行ってもよいので、ぜひ、明日から実践していただきたい。
本記事は『Web STRATEGY』2005年 創刊号 vol.1からの転載です
文=島元大輔
大阪のWeb制作会社でWebディレクターとして活躍後、(株)キノトロープに入社。数多くの企業Webサイト構築プロジェクトにかかわる。その後、(株)ライブドアに入社、現在は(株)セシールに在籍。著書として「だから、Webディレクターはやめられない」(ソシム刊)。 url.blog-project.cecile.co.jp/
第1回
Webサイト構築・運用の流れ
企業のWebサイトを構築するとき、最初から最後までひとりでつくり上げるということはまずない。制作も運用もさまざまな人物が登場することになる。そこで、その多くの登場人物をまとめ上げ、作業をスムーズに進行させるWebディレクターの存在が欠かせないものとなる。このページではWebディレクションに焦点を当てて、Webサイト構築・運用の進め方、コツ、心得などをそれぞれの場面ごとに解説していく。
Webサイトを構築・運用する場合、おもに以下の工程が挙げられる【1】。
【1】Webサイト制作のおもな流れ。各工程でさまざまなスタッフがかかわり、それぞれの領域で作業を進めていく
1.現状把握
2.企画
3.設計
4.制作・公開
5.運用
これら各工程では、プロデューサー、ディレクター、デザイナー、HTMLコーダー、プログラマーがそれぞれの領域で作業を進めていく。こうしたサイト構築にかかわるスタッフ全員が同じゴールを見据えて、円滑に制作を進めるためにはどのような作業が必要で、どのようなことに注意するべきだろうか?
次の節からは各工程内での作業について、特にプロジェクトを円滑にまわす立場であるWebディレクターの立場に立ちながら紹介していこう。ぜひ、現場での参考にしていただきたい。
■始める前の準備
大きなプロジェクトでも、小さなプロジェクトでも、最初に必ず確認しておかなければならないことがある【2】。つい、めんどうくさいと感じてしまう細かい確認作業でも、準備を怠るとあとで取り返しのつかないことになり、制作者がつらい思いをする。必ず初回のミーティング(キックオフミーティング)で以下のことを確認するようにしよう。
1.行うべきことの確認
まず、そのプロジェクトで「何を」行うか、納品物は何か、などを確認する。プロジェクト概要書という形でやるべきことや納品物についてまとめておくといいだろう。
2.スケジュールの確認
プロジェクトで行う内容が決まれば、それをいつまでに行うか、どのようなマイルストーンで進めるかを確認する。企画段階であれば週ごとの作業内容、制作段階であれば日ごとのスケジュールを書いて、クライアントと制作者のやり取りをできる限り綿密に作成しておくことが重要である。
3.コストの確認
行うべきこと、スケジュールの次はコストの確認だ。いくらでその仕事を請けるのか、何を納品すれば請求書の発行ができるのかといったことを確認する。特にコストは、プロジェクトに費やすことのできる時間にも直接かかわってくるため、クライアントとの認識を合わせておく必要がある。コストの出し方については「一式」という出し方ではなく、「1点当たり○○円」というように、作業量が増えればそのぶん請求額も増やすことのできる形にしておくことが望ましい。
4.プロジェクト推進体制の確認
見落としがちなのが体制の確認だ。公開の直前になって、クライアントの上司からNGが出たのですべてつくり直し、しかも納期はそのままで、ということが制作現場では少なからず起こっていることだと思われる。こうした話は、最初にだれが最終意思決定者かという体制の確認をしておけば防ぐことができる。
【2】プロジェクトを始める前にこれらの確認は必ずしておきたい
■契約の方法
意外に思われるかもしれないが、契約の方法を工夫することでプロジェクトをスムーズに進めることが可能となる。たとえば、Webサイトのリニューアルをまったくのゼロベースから始める場合、プロジェクトの最初から最後までを一式で見積もるのは非常に困難だ。プロジェクトとしての契約を最初から最後まで結んでしまうと、行うべきことも、見積もりも、スケジュールもあいまいなものになりかねない。
プロジェクトをスムーズに進めたいならば、先ほど示したような「Webサイトの構築・運用の流れ」に沿って企画、設計、制作、運用のそれぞれで契約を結ぶようにしたい【3】。企画が決まって初めて設計のスコープができ、設計が決まって初めて制作のスコープができるのである。けっしてすべてをひとまとめにして契約を行わないことが、プロジェクト成功への近道となる。
このようにプロジェクトを始める前の準備や契約の方法について見てきたが、初回ミーティングの段階でクライアントと入念な確認をしておくことによって、起こり得るトラブルを事前に防ぐことができる。逆を言うと、これらの確認をきちんとやっていたとしてもトラブルが起こる可能性はあるので、ここで取り上げた項目は最低限確認しておくべきだ。
【3】契約は企画、設計、制作、運用とそれぞれの工程において結ぶようにしたい
■制作現場でよく起こる事例
これまでお伝えしてきたことが、製作現場でどのように活用されるかをご理解いただくため、実際に起こりがちな事例を3つ紹介したい。これらの事例は「プロジェクトを始める前の準備」をしっかりと行っておくことで防げるものである。同じようなことが起きないようにぜひとも注意して、入念な準備をしていただきたい。
Case:1 認識の違い
クライアント:「このページはつくってもらえると思っていたのですが......」
制作者:「いえ、このページは見積もり外だという認識です」
クライアント:「公開日が伸びるとは聞いていなかったのですが......」
制作者:「段階的に公開する予定だという認識です」
といったやりとりはよくあるのではないだろうか。特にWebサイト公開直前になっての「認識の違い」は、プロジェクトを進めていくうえで取り返しようのない、だれもが不幸になるパターンである。これらを防ぐためにも「行うべきことの確認」、「スケジュールの確認」、「コストの確認」を十分に行ってほしい【4】。
【4】プロジェクト概要書とプロジェクトアジェンダ。こうした資料を作成してクライアントとの意思疎通を図ることも必要だ
Case:2 決まったことがひっくり返る
クライアント担当者に承認を得たにもかかわらず、公開直前で意見が覆される。これは、特にデザイン承認の場面で多いのではないだろうか。最後の最後になって、担当者の上司が出てきてダメ出しをされるというパターンだ。これに関しても「体制の確認」で「だれが最終の意思決定者か」を明確に記しておくことでそのリスクは回避することができる【5】。
【5】定例会議に出席するメンバーはだれなのか、また、最終的にだれが意思決定者なのかを明確にしておく
Case:3 予想以上に制作ページ数が膨らむが、請求ができずにプロジェクトが赤字
どれだけ綿密に準備をしていても、想定以上のページ制作が発生するのがWeb制作の現場である。もちろんできるだけ想定外を減らすという努力も必要であるが、万が一、制作ページ数が膨らんだ場合の対応も考えておく必要がある。
これは「コストの確認」にあたるが、見積書で制作ページ数・画像加工数などを1点ずつ定義しておくことが重要になる。どこまでが見積もりの範囲内でどこからが範囲外なのか、ということを明確に記しておく。けっして見積もりで「一式」とは書かないことも忘れてはならない。
以上、3つの事例を紹介したがいずれも現場でよく起こりえる問題であり、すでに経験済みだという人も多いのではないだろうか。これらの事例は、だれもがハッピーにならないうえに、クライアントとの関係が悪化する場合もあるので気をつけなければならない。
最初からすべてのことができないとしても、同じ失敗を繰り返さないようにすることが大切である。まずは、ここに記載したことをそのまま行ってもよいので、ぜひ、明日から実践していただきたい。
本記事は『Web STRATEGY』2005年 創刊号 vol.1からの転載です