第4回 ドキュメント管理で生産性をUP | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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生きたサイト運営を実現するための
実践CMS導入・運用ガイド


文=清水 誠文=清水 誠
実践系ITコンサルタント。DTP・印刷・ネットビジネスの分野を中心に、ITを活用した業務改革を手がける。印刷物とWebへ画像をシングルソースする ためのカラーマネジメント、コンテンツをシングルソースするECM・XML・自動組版、ビジネスを加速するITイノベーションが最近のテーマ。1995年 国際基督教大学卒



第4回
ドキュメント管理で生産性をUP


CMSにはいろいろな機能があるが、実際のところ何にどう役に立つのか? 今回は、Webサイトを制作する過程でつくられる各種ドキュメントの管理方法について取り上げる。


本当に管理すべきは中間ドキュメント

前回のまとめ

CMSの導入は、コンテンツにかかわる業務フローを整理することを意味する。サイトの発展や組織の成長に合わせて進化させられるようなサイト設計、CMS選定、運用体制が重要、というのが本連載の趣旨だ。

前回は、コンテンツの分類とナビゲーションを改善するためにCMSを選定・設計・導入した事例を紹介した。今回は、CMSと一緒に語られることが少ないが、実は制作スタッフの生産性に大きくかかわる、各種ドキュメントの管理について取り上げる。CMSと組み合わせることで生産性の向上に大きな効果が期待できるため、今こそ注目したいソリューションだ。

埋もれ消えゆくドキュメント

サイトをつくる過程で、多くのドキュメントが作成される。広報から届くプレスリリース原稿(たとえばWordファイル)、製造部門が管理する製品情報(Excel)、デジカメ画像(TIFF)、Flashのソースファイル、テキストを画像化するためにレイヤーをたくさん持つPhotoshop画像データ、回覧用PDFなど、さまざまな種類のドキュメントが多くの人の間を飛び交う【1】。

管理が難しい原稿などのドキュメント
【1】管理が難しい原稿などのドキュメント


これらの管理で難しいのが、関係性の管理だ。どれがどの原稿なのか、どのバージョンが最終原稿なのか、どれがどれに派生したのか、などを表すためにフォルダをつくったり、ファイル名を工夫したりするが、【2】のように限界がある。

フォルダとファイルによる管理の問題点
【2】フォルダとファイルによる管理の問題点


デジタル資産の価値を最大化しよう

製薬や航空業界など、膨大な文書の管理と提出が法的に義務づけられた業界を中心に、文書を管理する手法とシステムが発達してきた。これらの手法を画像や動画に応用したシステムをデジタルアセット管理(DAM)と呼び、近年はエンタープライズ・コンテンツ管理(ECM)を構成するサービスのひとつとして位置づけられるようになった。

金融資産と同じように、デジタルコンテンツもお金と時間を投資した資産(アセット)であり、その価値を高めて活用を促進することがとても重要になってきているのだ。


コンテンツの生成から保管、検索までを管理しよう

文書管理の歴史で蓄積されたノウハウが、どのように生かされているかを明らかにするため、デジタルアセット管理の製品によく見られる機能を具体的に紹介しよう。

DAMのおもな機能1
レンディションへの対応


レンディションとは、フォーマットなどを自動で変換した派生ドキュメントのこと。派生元と派生先の関係性を維持し、元が更新された場合にレンディションも更新することができれば、更新漏れを防ぐことができる。

フォーマットだけの変換は技術的に簡単なため、多くのDAMが対応しているが、対応フォーマットの多さが異なるので注意したい。

さらに、編集を自動化できるDAMもある。たとえば、EMC DocumentumやInterwovenのDAMは画像のマスク処理、切り抜き、回転、レイヤー追加、色の変換、XMPメタデータの抽出や変更などをバッチ処理することができる。【3】は筆者の職場で実際に運用している変換ルールだ。製品の高解像度画像を決められた方法で加工しDAMへアップロードすることで、Webで利用する7サイズのJPEGファイルを自動生成できるようになった。

Photoshop画像を自動変換するレンディションの例
【3】Photoshop画像を自動変換するレンディションの例


DAMのおもな機能2
関連づけ


縮小した結果質感が失われたためにアンシャープマスクをかけたJPEGファイルや、撮影費削減のために色をPhotoshopで塗り替えた製品画像など、手動で派生させるレンディションもある。これらについても、オリジナルから派生したという関連性を保ち、更新漏れが起こらないようにしたいところだ。派生物もあとで再利用できれば、納期短縮やコスト削減につながる。

また、2種類のアセット間に親子関係を設定した場合、親から子、子から親、と双方向から関連づけられたアセットを検索できると便利だ。

DAMのおもな機能3
購読・通知


関連性の管理と同時に必要なのが、オリジナルのコンテンツが更新されたときにその通知を受ける機能だ【4】。オリジナルと派生物の作者が同じとは限らないため、いろいろな条件で更新の通知を行う必要がある。

更新通知メールの例
【4】更新通知メールの例


単純なのは、通知を受けたいコンテンツを明示的に指定するという方法だ。該当コンテンツをダウンロードした人や、派生物をアップロードした作者は自動で購読者とする、という方法もある。

ところが、この方法では購読そのものに漏れが発生したり、新規追加されるコンテンツの通知を受けることができない、などの限界がある。このため、指定する検索条件に合うコンテンツが新規登録されたり、更新されたときに通知を受ける、という手段も提供する必要がある。

また、更新時にリアルタイムでメールを送信するのか、毎日一度にまとめてメールを送付するのか、などを選べるDAMもある。通知メールが多すぎるとスパムになってしまい、読まれなくなってしまうためだ。

DAMのおもな機能4
レポート


コンテンツは保管するだけでなく、利用状況を定期的に調査し、コンテンツの質と価値を継続的に高めていく運用が重要になる。そのためには、何がどう使われているかのレポートを生成する機能が重要になってくる。先月は全部で何ファイルが新規にアップロードされたのか、もっとも多くのアセットをダウンロードして活用し、コスト削減に貢献したのはだれか、検索してもヒットしなかったキーワードは何か、3カ月以内に期限が切れるレンタル写真はどれか、などアセット活用の状況や管理に関する効率や効果を表す指標を継続的にモニターする必要がある。グラフをWebブラウザで表示するだけの簡易的なレポートから、クリスタルレポートなどの商用レポートツールと連携するものまで、さまざまだ。

基本は文書管理と同じ

上記に挙げた以外でも、コンテンツに付与したメタデータを検索する機能、バージョン管理機能、ワークフロー機能など文書管理の基本機能がある。根本的には文書管理とデジタルアセット管理に違いはなく、画像や動画、Office系の文書を管理するために便利な機能が付加されている、といえる。

以上のような文書管理の機能とその考え方を理解しておくと、制作の全体フローを最適化するときの参考になる。次に、制作業務におけるDAMの活用方法について検討してみよう。


理想の原稿管理とは

原稿の管理と利用を分離

DAMは入れ物でしかなく、そこで管理されたコンテンツをWebサイトや印刷物に配信できて、はじめて真価を発揮する。たとえば、製造業において【5】はのようなワークフローが考えられる。

製品関連コンテンツのワークフロー
【5】製品関連コンテンツのワークフロー


まず、製品の画像が規定のフォーマットでアップロードされる。レビューのワークフローを経て承認されると、Webや印刷物に掲載するためのJPEG画像やTIFF画像が複数自動生成される。と同時に、WebやDTPの担当者にメールで新規登録が通知される。通知を受けた担当者は説明文やメタデータ(補足情報)を読み、自分の担当するメディアへ反映すべきかを各自が判断する。

オリジナルへの変更を通知する

オリジナルのコンテンツへ変更が加えられた場合は、コンテンツの内容によって2通りの配信方法が考えられる。まずは、変更を無条件に即時配信するパターンだ。オリジナルのコンテンツに関する制作・更新・承認までの運用フローが確立していて、内容の正しさが保証されている場合、さらにその承認タイミングが社外への公開と同じタイミングである場合は、変更をそのまま自動で反映させればよい。事後報告としてレポートやメール通知を受けてもよいだろう。

上記の2点が保証されない場合、または変更内容に応じて配信の必要性を判断する場合は、レビューや加工、承認などの一連のワークフローを走らせればよい。そこまで必要ない場合は、メール通知だけでもよいだろう。

印刷物のプロセスを取り込む

このフローは、Webだけでなく印刷物の制作プロセスにも応用することができる。たとえば「製品カタログ12月号」といった具合に印刷物ごとのフォルダを作成し、その印刷物で使用するアセットをDAMからピックアップしてリンクしておく。DTPオペレーターは、このフォルダからPhotoshopやIllustratorの素材ファイルを入手し、自分のPCやMac上で必要な加工を加えてからInDesignなどのDTPアプリケーションへ加工済み画像を配置する。

DAMをネットワークドライブと同じように扱える製品もある。その場合は、DAMのWebサイトにログインしてからファイルをダウンロードするのではなく、InDesignなどから直接DAM上のアセットを参照することができる。

いずれの場合でも、商用印刷の場合はフルカラーをCMYKの網点に分解するため、シャープネスやコントラストを強めるなどの加工が必要になる。印刷会社に依頼していたこの画像編集作業を、制作会社で行うようにするなど、DTPから印刷までのワークフロー全体を見直す必要もあるだろう。


デジタルアセット管理のおもな製品

DAM製品紹介

最後に、DAMの製品を紹介しておこう。WebのCMSと連携が可能なもので、日本でサポートが受けられるメジャーなものをいくつかピックアップしてみた。これら以外にも、小規模なものやオープンソースのものもある。前述のポイントをふまえて検討してみてほしい。

●Interwoven
(インターウォーブン)
http://www.interwoven.co.jp/

インターウォーブン
WebのCMSとして開発されて進化を続けた結果、機能と使い勝手の面で業界をリードする製品。MediaBinと呼ばれるDAMなど数多くのオプションを抱える。オプションやサイト数などでライセンス費が大きく変わるので、検討の際は何が必要か明確にしておく必要がある。

●EMC Documentum
(イーエムシードキュメンタム)
http://www.emcsoftware.jp/

イーエムシードキュメンタム
文書管理の草分け的存在。こちらも買収を繰り返してECM製品群になった。EMCという大手ストレージメーカーの資金力を武器に研究開発を続け、進化を続けている。DAMオプションはAdobeのGraphicエンジンを内蔵しているのが魅力的だ。

●FatWire
(ファットワイヤー)
http://www.fatwire.co.jp/

ファットワイヤー
導入企業のニーズに応えるべく、アプリケーション的な機能を盛り込んできたECM製品。DAM機能は左の製品よりも簡易的だが、標準で利用可能だ。ユーザーやサイトを追加してもライセンス費が増えないため、ニーズにうまく合うと大きな費用対効果が期待できる。

●Oracle Universal Content
Management(旧Stellent)
(オラクル・ユニバーサルコンテンツマネジメント)
http://jp.stellent.com/

オラクル・ユニバーサルコンテンツマネジメント
Oracleに最近買収されたECM製品。米国では比較的長い歴史を持ち、高度なDAM機能が標準で含まれる。Oracleとのシナジー効果がどう表れるか、今後の動きに注目したい。

●Alfresco
(アルフレスコ)
http://aegif.jp/service/opensource.html

アルフレスコ
他の製品はベンダーロックイン、つまり同じベンダーのオプションを購入し続ける必要が生じることが多いが、AlfrescoはJSR-170やRESTなどの業界標準に準拠しているため、ほかのシステムとの連携がしやすい。クリーンに急成長を続けられるのは後発の強みだ。オープンソース版もあり、ITスタッフを抱えられる場合は、特に有力な選択肢になるだろう。


まとめ


Webの制作・運用プロセス全体を見渡すと、管理し改善すべきポイントはいろいろある。更新ツールとしてのCMSを導入しただけでは、全体最適化にならないことが多い。ほかの分野で蓄積されたノウハウを参考にしつつ、将来を見据えて業務改善に取り組む必要があるだろう。ボトムアップによる現場からの改善だけではなく、経営者の理解や決断も必要になってくる。

次回は、CMSの主要な機能であるワークフローについて、一歩踏み込んだ検証と考察を行う予定だ。


本記事は『Web STRATEGY』2007年 9-10月号 vol.11からの転載です
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