第9回 コンテンツ移行をスムーズに進めるためのプランニング | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-

第9回 コンテンツ移行をスムーズに進めるためのプランニング

2024.4.25 THU

【サイトリニューアル!】新サイトはこちらMdNについて
生きたサイト運営を実現するための
実践CMS導入・運用ガイド


文=清水 誠文=清水 誠
実践系Webコンサルタント。DTP・印刷・ネットビジネスの分野を中心に、ITとIAによる業務カイゼン を手がける。印 刷物とWebへ画像をシングルソースするためのカラーマネジメント、文字情報をシングルソースするECM・XML・自動組版、ビジネスを加速するITイノ ベーションが最近のテーマ。1995年国際基督教大学卒


第9回
コンテンツ移行をスムーズに進めるための
プランニング


既存のWebサイトをCMS化する場合、コンテンツをCMS管理下に移行する必要があるが、このコンテンツ移行に思っていたよりも時間とコストがかかることが判明し、プロジェクト計画を見直す必要が生じることがある。コンテンツ移行は、あまり語られることがないが、CMS導入の際に避けることができないもっとも難易度の高い作業のひとつなのだ。今回は、このコンテンツ移行をスムーズに進めるための考え方や留意点、失敗しないためのコツについて紹介する。


予想外にたいへんなコンテンツ移行

手探りと手戻りの連続

コンテンツの移行を進めるにあたり、コンテンツタイプ(項目定義やメタデータ定義)、カテゴリ分類、管理上の分類、URLのルール、ユーザーとグループ、ワークフローなどの基本方針をプロジェクトの早い段階で決める必要がある。ところが、CMS導入が初めての場合、これらの決定がいつどのような影響を与えるのかを理解しないまま決定や承認を行うことになる。スムーズに進んだように見えて、実はプロジェクト後半で大きな手戻りが発生することがある。

読めない作業量

手作業の運用を長年続けていると、不要ファイルや作業用ファイルをサーバ上に残してしまったり、リニューアルでサイト構造を変更した結果、ディレクトリ構造がナビゲーションの構造と一致しなくなる、アップロード時にローカルのコピーや管理リストを更新し忘れるなどの運用ミスが積み重なり、コンテンツの全体像を把握しきれなくなる。移行すべきコンテンツの量がプロジェクト見積もり時の想定を大幅に超えると、予算の修正やスコープの縮小が必要になってしまう。

意外と重い社内負荷

さらに、膨大なコンテンツの移行を外部委託する場合、途中で社内作業がボトルネックになることがある。移行の量が多いと、選定や確認のための社内作業も増える。CMS導入を進める部署だけでなく、他の所轄部門に確認を依頼する必要も生じる。日常業務を抱えた社内スタッフの時間をコンテンツ移行のために割くことができず、リスケやスコープ縮小を余儀なくされることがある。

移行は乗り越えるべきハードル

このようなコンテンツ移行は、ベンダーに任せれば実現できる一度きりの作業ではけっしてない。長年のアドホック(場当たり的)な運営を根本的に見直し、効果と効率が高いコンテンツの管理を実現するための継続的な改善をスタートする、という覚悟を決めよう。コンテンツの管理方針を明確にしたうえで、それを過去にさかのぼって適用するのがコンテンツ移行なのだ【1】。

今回は、スムーズな移行を実現するための考え方と進め方を紹介していく。

【1】コンテンツ移行は乗り越えなければならないハードル
【1】コンテンツ移行は乗り越えなければならないハードル


コンテンツの棚卸しから始めよう

コンテンツをリスト化する

まずは、管理すべきコンテンツを過不足なく洗い出す必要がある。スーパーで商品を陳列する場所を決め、定期的に棚卸しをすることで在庫管理をするのと考え方は同じだ。

手作業で更新しているリストやローカルのコンテンツコピーは、サーバ上のコンテンツと完全に同期できていない、と疑ったほうがいい。サーバ上のファイルをフォルダごとダウンロードし、フリーソフトを活用してリスト化してみよう【2】。

この方法では、アップロードされたすべてのファイルを漏れなく対象にすることができる半面、どこからもリンクされていない孤立ファイルが含まれたり、サイトのナビゲーションとディレクトリ構造が一致しない、ファイルとページが1:1ではない(複数のファイルをインクルードしてひとつのページを構成/スクリプトが条件に応じて異なる複数のページを生成するなど)場合に、正しいリストを作成できないという不都合が生じる。

このため、ブラウザと同じようにWebサーバにアクセスし、ソースの中に書かれたリンク先URLを解析し、再帰的にHTMLを取得するクローラー型のソフトを併用すると良い【3】。

ただし、HTMLの書き方によっては、検知できないリンクがある。ふたつの方法を使い分けながら、最終的には目で確認する必要がある。

管理しやすいリストにするために

こうしてできあがったリストは、ページの数だけ行数がある巨大なExcelファイルになっているはずだ。コンテンツの全体像を把握し、管理しやすくするため、同じコンテンツをグルーピングしておこう。たとえば、300行あるプレスリリースを、1行にまとめてしまうのだ。年別やジャンル別にページを分けるなど、同じプレスリリースでも扱いが異なる場合は、もう少し細かく分けてもいい。まとめすぎると管理がしにくくなるため、試行錯誤しながらちょうどよいバランスを見つけよう。

さらに、このリストに次のような管理用の項目を追加し、空欄を埋めていく【4】。

【2】PC上のディレクトリ構造をリスト化すると、漏れがない 【3】サイトにアクセスしてリストを作成するクローラー型のソフトも併用する(中央表) 【4】管理しやすくするため、同じコンテンツをグルーピングし、メタ情報を追加する(右図)
【2】PC上のディレクトリ構造をリスト化すると、漏れがない(左図)
【3】サイトにアクセスしてリストを作成するクローラー型のソフトも併用する(中央表)
【4】管理しやすくするため、同じコンテンツをグルーピングし、メタ情報を追加する(右図)


・オーナー(責任者/発信者)
・ページ数
・追加頻度
・更新頻度
・保管期間
・人気度
・ビジネスにとっての重要度
・情報セキュリティ上のリスク
など


これらの項目は、コンテンツを長期的な視点でしっかり管理していくために、明確にしておく必要がある。いい機会なので、不明点は調査・検討しながら、決めてしまおう。


コンテンツの管理方針を決めよう

コンテンツの「あるべき姿」とは

作成したリストは、現状のコンテンツがベースになっている。そもそも、ビジネスにとってコンテンツのあるべき姿はどのようなものだろうか?

ビジネスにおけるコミュニケーション戦略や、ネットに限らずオフラインも含めたメディアの活用方法を整理し、必要なコンテンツの種類を整理しよう。この「あるべき姿」と現状を比べると、コンテンツ戦略の課題が見えてくるはずだ【5】。必要以上に多く、偏ったコンテンツはないか? 今後増やすべきコンテンツは何か? 古すぎるコンテンツが残っていないか? 制作にかけるコストの配分はまちがっていないか?

【5】リスト化、管理方針から移行・運用までの流れ
【5】リスト化、管理方針から移行・運用までの流れ


コンテンツの粒度を決める

重要度の高いコンテンツは、いろいろなメディアやページで使い回すことが多い。テキストのコンテンツは、項目を細分化して粒度を細かくすると、RSSや関連リンクなどの用途で二次利用できるようになる。

ただし、粒度を細かくすると、テンプレートの設計や変更のコストが発生するだけでなく、既存のコンテンツを移行するために手で項目の分割や入力を行う必要が生じる。二次利用しないコンテンツに関しては、大きな単位で管理したほうが費用対効果が高い。荒い粒度をデフォルトとし、二次利用の必要性に応じて細かくしていくといいだろう。

捨てるところまで考える

Webは比較的低コストで多くの情報を蓄積できるため、情報量は多くても問題ないと考えてしまいがちだが、コンテンツは所有するだけでも管理のコストが発生する、ということをまず理解しよう。

▼管理のコスト

・公開コンテンツの把握や棚卸しの作業量が増える
・更新などの作業の際にコンテンツを一覧から選択する負担が増える
・物理的な保管コストが増える
・リニューアル時の作業量が増える
・古くなった不適切な情報を提供してしまうリスクが増える

▼ユーザーにとってのコスト

・古いコンテンツを除外し、求める情報を選別するのが難しくなる
・ナビゲーションが深くなり選択肢が増えるため、適切なリンクを判別してクリックする負担が増える


情報セキュリティ対策が問われる最近は、紙の資料の場合も、文書管理やレコード管理の方針を定め、管理者が適切に管理を行うだろう。保存期間を過ぎたり、年末の清掃や引っ越しの際には、不要なものを選別して廃棄を行う。同じように、コンテンツも定義した管理方針に基づいて管理し、不要コンテンツをアーカイブ保存や削除していく必要があるのだ。

コンテンツに賞味期限を設定する

具体的には、コンテンツに期限を設定する必要がある。リストを眺めながら場当たり的に要・不要を判断していくのではなく、コンテンツの価値が時間とともにどう減っていくかを検討し、コンテンツの種類ごとに期限を設定していこう。

運用方法としては、年度末にコンテンツの棚卸しをしながら、期限切れのコンテンツを手で削除するという方法が簡単だ。コンテンツの投入時に期限を設定しておき、期限を過ぎたらサイト上から自動削除できるCMSもある。

ただし、頻度や対象コンテンツ、作業者が増えてくると、運用を徹底するのが難しくなってくる。高度なワークフロー機能をもつCMSの場合、期限切れコンテンツを検索し、該当するコンテンツの削除を確認するためのワークフローを定期的に流す、ということも可能だ。


移行プランを本気で考える

ようやく見積もれる移行の作業量

さて、コンテンツの現状をリスト化し、今後必要になるコンテンツの種類やその粒度について、明確にしてきた。この段階になってようやく、コンテンツ移行の作業量を見積もることが可能になる。

規模が大きなサイトの場合、不要コンテンツを除外しても、膨大なコンテンツが移行対象として残ってしまう。想定していた予算やスケジュールではすべてのコンテンツを移行できないこともあるだろう。そんなときは、以下のような対策を検討したい。

段階的にリリースする

移行対象コンテンツを減らすことはできないが、一気にすべてを移行するのは時間や実装リスクを考えると非現実的な場合、段階的な移行を検討しよう。

今後の更新頻度、人気の高さ、階層の深さなどの基準を明確にし、コンテンツを段階分けする。

この段階的なリリースは簡単なようで、実は意外と難しい。サイト内に新旧のコンテンツが混在するため、操作性やデザインに一貫性がなくなってしまう。また、CMSの導入に伴いURLが変わる場合にコンテンツ間のリンクを書き換えるなど、移行に伴う作業がリリースの回数だけ増えてしまう。

CMS導入とリニューアルを分ける

そこで、サイトのリニューアルとCMS導入を分離する、という方法も検討したい。まずは、デザインやコンテンツ構造の現状を維持したまま、コンテンツをCMSに移行していくのだ。見た目が変わらないため、段階的に作業を進めてもサイトの一貫性は保たれる。

コンテンツをすべてCMSの管理下に移行したあとは、サイト構造やデザインを比較的容易に変更できるようになる。CMSの設計次第では、サイトの構造を変更しても、ナビゲーションやリンクが自動更新される。テンプレートを変更すれば、デザインの変更がサイト全体に適用される。

作業の範囲ではなく内容をインクリメンタルに増やしていくというこのアプローチには、導入や移行のリスクを抑えたり、社内の負荷を低減(平準化)できる、というメリットがある。ただし、長期戦になることは避けられず、最終的には移行のコストが高くなってしまうこともある。

移行対象を減らす

賞味期限が近いコンテンツに関しては、CMS管理化に移行しないで、Webサーバにそのまま残しておく、という消極的な方法もある。一時的な期間だけ、利便性や一貫性が多少落ちるのを黙認するというアプローチだ。コンテンツの重要度や人気度によっては、賞味期限を少し前倒しして、早めに削除してしまうという方法もあるだろう。

ツールを活用し効率UPを

既存コンテンツの移行は、時間との戦いだ。なるべくツールを活用し、効率をアップさせよう。

項目ごとに細分化された構造型のコンテンツがデータベースやCSVなどで存在する場合は、一括で取り込むことが比較的容易だ。たとえば、NORENはNORENステーションという機能を使うと、Excelからコンテンツを一括入力し、複数のページを自動で生成することができる。WebRelease2も同様に、CSVからの一括入力が可能だ。

さらに、非構造型のコンテンツに関しても一括で取り込む機能を持つCMSもある。たとえば、FatWireとInterwovenのCMSは、指定したフォルダに含まれるHTMLや画像、CSSなどのファイルを、構造を保ったままCMSに一括インポートできる【6】。コンテンツを細かい粒度で構造化する必要がないコンテンツや、前述のような段階的でインクリメンタルな移行を行う場合に便利な機能だ。

【6】コンテンツを一括で取り込む機能を持つCMSもある
【6】コンテンツを一括で取り込む機能を持つCMSもある


コンテンツ移行は今後増えていく

今後も、Webの運用年数とコンテンツの量が増え続ける。CMSの普及や乗り換えも進むだろう。コンテンツ移行は、一度きりの作業なのではなく、今後何度も経験することになるのだ。コンテンツと正しく向き合い、育てながら、うまく付き合っていきたいところだ。


本記事は『Web STRATEGY』2008年9-10 vol.17からの転載です
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