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第10回 デザインを守るための権利

デザイナーのための著作権と法律講座


第10回 デザインを守るための権利


アート・エンタテインメントの業務を多く扱う「骨董通り法律事務所For the Arts」の弁護士による、著作権とそれにまつわる法律関連の連載です。クリエイターが気になる法律問題についてわかりやすく解説しているので、ぜひ参考にしてください。

文:弁護士 永井幸輔(骨董通り法律事務所 for the Arts)



ケース:DVDパッケージの制作を手掛けた。ジャケットにはCGで作ったキャラクターがメインのイラストを、ケースの形状は通常とは異なる、オリジナルで起こしたn角形のデザインを使用した。とても良い出来に仕上がったが、他のデザイナーに真似されないか心配だ。どうやってデザインを守ればいいのだろう。


今回は、デザインを守る権利について考えてみましょう。とはいえ、デザインにはグラフィック、プロダクト、エディトリアル、Web、ファッション、インテリア、建築などのさまざまな分野があり、また都市デザインやビジネスデザイン、ソーシャルデザインなど、空間や計画、活動をも対象とする非常に広い概念として使われています。Bookそこで今回は「意匠」、すなわち物品の外観に関するデザインを念頭に検討します。さて、デザインはどのように保護されるのでしょうか。



■ 著作権による保護


まずは著作権です。著作権は創作的な表現を保護する権利で、第三者が無断でコピーやネット送信、改変、販売などすることを禁止できます。登録不要で、著作者の死後50年間は保護される強い権利で、認められれば心強いでしょう。

しかし実は、著作権によるデザインの保護はかなり限定的です。デザインは絵画や彫刻などの「純粋美術」と区別して、実用品に美術を応用したもの=「応用美術」とも呼ばれますが、この応用美術には原則として著作権による保護が及びません。これは、実用品(例えば、ハサミなどの文房具)のデザインを広く著作権で保護すると、第三者はその実用品が持つ機能(例えば、刃を交差させて紙を挟んで切るハサミの機能)も使えなくなり、社会に与える不都合が大きくなりかねないからです。

ただし、応用美術であっても、著作権で守られる場合があります。まず、①純粋美術それ自体を美術品に応用したもの(イラストやCGなどグラフィックデザインをポスターに使う場合)、②純粋美術の技法を「一品制作品」に応用したもの(陶芸家が器や壷を制作する場合)が挙げられます。また、③「独立して美的鑑賞の対象」となり、「純粋美術と同視し得る美的創作性」があるデザインも保護されます。

裁判例では、仏壇に彫られた龍や花鳥の彫刻、Tシャツにプリントされた波に乗るサーファーやイルカを描いたイラスト、博多人形などが著作物と認められています。他方で、着物の帯の柄、木目模様の化粧紙(壁の表面材に使われる紙)の柄、stick街路灯には認められず、またニューヨーク近代美術館(MoMA)にも収蔵されるデザイナーズチェア「ニーチェア」にも認められませんでした。線引きは難しいですが、デザインと機能が強く結びついているものは、機能という制約のため美的創作を加える余地が狭く、そのぶん著作物と認められにくいといえそうです。


■ 意匠権による保護


次に、意匠権による保護が考えられます。意匠権は、美感を伴う物品のかたちや模様、色などを保護する権利で、第三者は登録された意匠と同一または類似のデザインを使った商品の製造や販売ができなくなります。意匠権もデザインを守る強い権利です。

意匠権は登録が必要で、一度登録されれば20年間保護されます。また、意匠権の登録には、類似するもののない新しい意匠であること:新規性、容易に創作できる意匠でないこと:創作性などいくつか条件があります(なお、意匠を使用した商品の販売などが先行すると、新規性が失われて意匠登録ができなくなる場合があるのでご注意ください)。現在、出願から登録査定までは、少なくとも7カ月程度の期間を要するようです。

このように、意匠権の登録には費用、労力、時間といったコストがかかります。また、登録は新規性・創作性を満たすデザインに限られるため、あらゆるデザインを意匠登録することは現実的ではありません。hat広く商品展開するものやコピー商品が現れる可能性が高いもの、また創作性の特に高いものや汎用性の高いものについては、意匠登録の費用対効果が高そうです。近年意匠登録の目立つ分野としては、食器などの日用品のプロダクト、ファッション、インテリア、パッケージ、電化製品や自動車、電子機器のインターフェイスなどが挙げられます。



■ 立体商標による保護


立体商標とは、商標権の一種です。例えば、ワールドカップのトロフィーやレゴブロック、アディダスの三本ラインのスニーカー、コカ・コーラの瓶やヤクルトの容器など、文字や図形だけでなく、立体的な形状をもブランドマークとして保護するもので、登録されれば、同一または類似の形状の商品の販売を禁止できる場合があります。保護期間は5年または10年ですが更新可能です。

ただし、立体商標が登録されるハードルは比較的高く、その形状を見ただけでどこのメーカーの商品か分かるようなデザインでなければなりません。その種の商品として通常の形状といえる程度では登録を受けられないのが原則です。


■ 不正競争防止法による保護


著作権、意匠権、立体商標による保護が受けられない場合や登録がない場合でも、他人の商品を丸ごとコピー(いわゆるデッドコピー)したような商品は、不正競争防止法上「商品形態模倣行為」として禁じられています。hat商品形態模倣行為とは、他人の商品の形態と実質的に同一の形態にすることで、かなりの程度まで似ている必要があります。必要な類似の程度は意匠権よりも高いですが、模倣商品を販売した者がいれば、販売の差止めや損害賠償を請求できます。ただし、この法律で保護されるのは最初の販売時点から3年に限られるので、注意する必要があります。


それでは、冒頭のケースについて考えてみましょう。ジャケットのイラストについては、著作権で保護される可能性が高そうです。他方、ケースについては、美術作品にもなるような形状でなければ、著作権での保護は難しいでしょう。また、新規性・創作性が認められるような独自の形状であれば意匠権の保護も考えられます。ただ、再度利用する可能性が少ない場合には、コストをかけて権利を取得する必要があるのか要検討かもしれません。立体商標も形状次第では登録の可能性がありますが、意匠権よりもハードルが上がるでしょう。

以上の権利の登録がなくとも、ほぼ同一のデザインを制作された場合には、3年以内であれば不正競争防止法違反を主張して、使用停止を求めることが考えられます。

デザインは非常に多様であるがゆえに、どのような権利で守られるのか/守るべきなのか、判断が難しい分野です。迷う場合には専門家に相談してみるのも一案です。


  アートと権利、今月の話題 

  動向(2014年2月分)

 「全聾の作曲家の交響曲など、実際には別人が作曲」

聴力を失ったものの絶対音感を頼りに作曲活動をしているとして、交響曲などを自身の単独作品と発表してきた作曲家が、実は別の作曲家に楽曲を制作してもらっていたことが、2月5日、代理人弁護士の発表により判明した。この事件をめぐっては、両作曲家の共同著作物となるのか(楽曲は、その構成やイメージなどを記した「指示書」を元に作曲されている)、また実際は別の人物が作ったにもかかわらず、全聾の作曲家が作った楽曲であるとしてCD販売などを行ったことが詐欺罪に該当するのかなど、法的責任の観点からもさまざまな議論が提起されている。


  動向

 「電子書籍などのコピー防止技術回避ソフトを製造した社長ら逮捕」

京都府警察サイバー犯罪対策課は、2月19日、電子書籍などのコピー防止技術を回避するソフトウエア「コミスケ3」を製造した著作権法違反などの疑いで、横浜市のソフトウエア開発会社の社長ら3名を逮捕した。著作権法では、従来から音楽CDのSCMSやビデオテープのマクロビジョン方式など、いわゆる非暗号型の保護技術(主に複製を防止)の回避ソフトの販売などを禁止していた。その後、2012年10月の著作権法改正により、DVDなどに利用される暗号型の保護技術(複製だけでなく視聴も防止)の回避ソフトの販売なども禁止されたが、その全国初の適用例と報道されている。

●参考文献:福井健策『著作権の世紀―変わる「情報の独占制度」』(集英社新書、2010)
●参考文献:特許庁編『特許行政年次報告書2013年版』(発明推進協会、2013年)

※本コラムは、弊社の連載「デザイナーのための著作権と法律講座」(月刊MdN 2014年5月号)の記事を再掲載したものです。



●骨董通り法律事務所の最新の活動(セミナー・講演、メディア出演、執筆活動など)はこちらをご確認ください。


さて、次回の第11講は「プレゼンから支払まで」です。「プレゼン資料での著作物の利用」から「お金を請求する時に重要なこと」、さらにアメリカで導入された「フェアユース」や「訴訟から判決への道のり」といったプレゼンから支払いまで、多岐に渡って解説していきます。


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2014/7/9





【骨董通り法律事務所 Kotto Dori Law Office】

骨董通り法律事務所

“For the Arts”を旗印に2003年に設立され、法律家としての活動を通じてさまざまな芸術活動を支援する法律事務所。出版、映像、演劇、音楽、ゲームなどのアート・エンタテインメント業界のクライアントに対する「契約交渉の代理」「訴訟などの紛争処理」「著作権など知的財産権に関するアドバイスの提供」を中心的な取扱業務としている。また、幅広い業種のクライアントのための企業法務,紛争処理にも力を入れる。


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