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第11回 プレゼンから支払まで

デザイナーのための著作権と法律講座


第11回 プレゼンから支払まで


アート・エンタテインメントの業務を多く扱う「骨董通り法律事務所For the Arts」の弁護士による、著作権とそれにまつわる法律関連の連載です。クリエイターが気になる法律問題についてわかりやすく解説しているので、ぜひ参考にしてください。

文:弁護士 諏訪公一(骨董通り法律事務所 for the Arts)



■ プレゼン資料での著作物の利用


フリーランスのデザイナーAが広告の発注を受け、クライアント向けにプレゼン兼ラフイメージを作成することになりました。デザイナーAはそのビジュアルに「水泳選手」のイメージを使いたいと思いました。ただ、プレゼン資料を作ろうにも、水泳シーンの撮影はクライアントのゴーサインを受けないとできないため、取り急ぎWebで画像検索をして出てきた有名写真家の写真を「イメージ画像」としてプレゼン資料に使いました。デザイナーAはこの写真をプレゼン資料に利用できるでしょうか。また、実際に広告にこの写真を利用しようと思っている場合はどうでしょうか。

これは企業活動においてよく見られるシーンですが、プレゼン資料に著作物をコピーしているため、形式的には著作権侵害に該当してしまう可能性があります。そうすると、実際にその写真の利用を検討したいのにもかかわらず、検討用資料にその写真のコピーすらできないという事態が発生してしまいます。そこで、2012年の法改正では、著作権者に許諾を得て著作物を利用しようとしている人は、その利用の検討をする過程で必要ならば、著作物を利用できるようになりました。ただ、この条文の対象となるのは、「著作権者の許諾を得て著作物を利用しようとしている人」が「著作物を利用するかどうか、そしてどのように利用するかを検討する場面」です。BookWeb から見つけてきた「水泳選手の写真」を写真家の許諾を得て広告に利用するか、利用検討のために資料に掲載する場合にはこの条文で可能でしょうが、単に「イメージ画像」として掲載しただけであればこの条文の適用はなく、著作権侵害の可能性が出てきます(もちろん、著作権法上認められる「引用」(第5講参照)などに当たれば別です)。


なお、「私的使用であれば著作権侵害にあたらないと聞いたことがあるから大丈夫なのでは?」と疑問を持たれる方もいらっしゃるかもしれませんが、著作権法でいう私的使用とは、一般的には企業などの内部で使用する場合は含まないと考えられています。そのため、仮にこれがクライアントとデザイン事務所に配るだけであっても、理論上は「私的使用」には該当せず、著作権侵害となる可能性が高いのです。

■ フェアユースの導入なるか


上記の事例のように、著作権法を原則通りに適用すると、作家側には実質的な損害が発生しなくても形式的には違法となるケースがあります。これは、日本の著作権法が「著作権法に細かく定められている例外(制限規定)にあてはまらない著作物の利用は違法」という仕組み(=ホワイトリスト方式)をとっているため、法律に具体的に明記されていない限り形式的には違法となってしまうためです。

文化庁は、何度も法改正を繰り返しながらこの「ホワイトリスト」を拡充して来ましたが、後追いの対応となってしまい、また条文が複雑・長文化してしまったのも事実です。そこで、個別の目的を問わず、「権利者に市場で悪影響がないこと」といった共通の条件で広く例外を認めようとするアメリカのような「フェアユース」を導入しようとする動きがありました。日本では先ほどご紹介した法改正時に規定を置くことが検討されましたが、最終的には一般的なフェアユース規定は設けられませんでした。


■ お金を請求する時に重要なこと


デザイナーA の企画が無事通り、広告も完成して公開されることになりました。しかし、クライアントがお金を支払ってくれません。このようなときに役に立つのが、契約書や発注書などの証拠です。口約束では「言った/言わない」ということが起きますので、約束事は書面で残すのがベストです。次善の策ではありますが、メールなどでやりとりを残すことも重要です。

また、いわゆる「下請法」が適用される取引であれば、親事業者(クライアント)は金額や納期などが記載された書面(発注書面)を下請事業者(ここではデザイナーA)に渡さなければなりません。また支払期日も納品物の受領後60日以内に支払わなければならないと定められています(第3講参照)。下請法が適用されるかは親会社・下請会社の資本金と取引形態によって決まります。自分の取引に適用があるかは、「下請法かけこみ寺」などで相談が可能です。

そして、これらの証拠をもって直接相手方にお金を請求する時には、電話ではなく、これも証拠化のために書面で送る方がよいでしょう。この際には「内容証明郵便」を利用すれば、送った内容と日時について確実な証拠になり、何となく迫力もあります(笑)。この内容証明を書面で提出する場合には文字数や行数などのルールが決まっていますので、日本郵便ホームページなどで記載例をご確認下さい。


■ 訴訟から判決への道のり


書面で要求をしても相手方がなにも対処しない場合には、いよいよ「訴訟」が視野に入ってきます。通常の裁判であれば何回か期日を重ねた上で判決が出されますが、もし、相手方に請求する金額が60万円以下であれば、簡易裁判所へ「少額訴訟」を提起することができます。この少額訴訟では基本的には1回の期日で審理を終えることができるため、短時間で判決を得られるでしょう。ただ、相手方の対応や内容によっては、通常の訴訟に移行しなければなりません。少額訴訟の他、書面審査だけで簡易裁判所で審理を開かずに行う「支払督促」という手続もあります。

この他、「調停」という手続きもあります。これは、裁判官の他に一般市民から選ばれた調停員が、非公開で双方の言い分を聞く手続です。裁判よりもカジュアルですし、申立手数料などが安く済むメリットがあります。

上記のような手続の中で、相手方と和解交渉をすることもあるでしょう。和解できない場合には、勝訴判決をもらい、相手方の財産などを差し押さえてお金を回収することになります。お金を請求する民事裁判では弁護士をつけなければならないというルールはありませんので、デザイナーA 自ら裁判を提起することができます。hatもちろん、弁護士に依頼すると法的アドバイスの他、書類作成や手続、裁判所への出頭をしてくれるなど、沢山のメリットがありますが、簡易裁判所の手続では、弁護士なしで自ら手続を行うケースも多いようです。訴訟を提起する際には、印紙代などの費用もあらかじめ必要となりますので、必要な書類などを裁判所(裁判所ホームページ)や弁護士会の法律相談などで確認するとよいでしょう。



  アートと権利、今月の話題 

  動向(2014年3月分)

 「デジタル海賊版対策などのため”電子出版権”の創設へ」

現行著作権法においては、著作権者と出版者の契約により出版権を設定することができ、紙での出版行為を独占することができる。しかし、現行法では紙での出版行為のみを念頭に置いているため、出版権者は紙の海賊版の差止めしかできず、急増するデジタル海賊版に対応することができない。こうした事情から、出版社などがデジタル時代にあった新制度を要望していた。紆余曲折を経て第186回国会に提出された著作権法改正案は、現行の出版権の対象を電子出版にも拡張するもので、これにより出版社によるデジタル海賊版の差止等が可能となる。


  動向

 「YouTubeの著作権訴訟でハリウッドメジャー側とGoogleが和解」

パラマウントを擁するViacomは、大量の違法動画がYouTubeにアップロードされたことを理由として、親会社のGoogleに対し、アメリカで著作権侵害訴訟を提起していた。損害賠償額は10億ドルにもわたる巨額訴訟。焦点は、アメリカのデジタルミレニアム著作権法(DCMA)で定められている「セーフハーバー条項」(権利侵害を主張する者から通知がきた場合に、直ちに削除等の対応をすれば責任を問われないとするもの)により、YouTube側が免責されるか否かであった。Viacom社が地裁で2度にわたり敗訴し控訴していたが、2014年3月18日にGoogleと和解が成立した。

●参考文献:福井健策『著作権とは何か―文化と創造のゆくえ』(集英社新書、2005)
●参考文献:松島恵美=諏訪公一『クリエイターのための法律相談所』(グラフィック社、2012)

※本コラムは、弊社の連載「デザイナーのための著作権と法律講座」(月刊MdN 2014年6月号)の記事を再掲載したものです。



●骨董通り法律事務所の最新の活動(セミナー・講演、メディア出演、執筆活動など)はこちらをご確認ください。


さて、次回はいよいよ最終講「ニュースで振り返る「デザインと法律」です。2013年から2014年の間で「デザインに関係する法律問題がポイントとなったニュース」を、3つの視点からピックアップして振り返りながら解説していきます。


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2014/8/13





【骨董通り法律事務所 Kotto Dori Law Office】

骨董通り法律事務所

“For the Arts”を旗印に2003年に設立され、法律家としての活動を通じてさまざまな芸術活動を支援する法律事務所。出版、映像、演劇、音楽、ゲームなどのアート・エンタテインメント業界のクライアントに対する「契約交渉の代理」「訴訟などの紛争処理」「著作権など知的財産権に関するアドバイスの提供」を中心的な取扱業務としている。また、幅広い業種のクライアントのための企業法務,紛争処理にも力を入れる。


住所:東京都港区南青山5-18-5 南青山ポイント1F
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