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デザイナーのための著作権と法律講座


第5回 ネットなどにある他人の素材を利用するとき


アート・エンタテインメントの業務を多く扱う「骨董通り法律事務所For the Arts」の弁護士による、著作権とそれにまつわる法律関連の連載です。クリエイターが気になる法律問題についてわかりやすく解説しているので、ぜひ参考にしてください。

文:弁護士 諏訪公一(骨董通り法律事務所 for the Arts)



■ 既存の著作物を利用できる場合


第1講(2013年8月号)では、著作者が独占できる情報とは何か、著作権はどのようなものに認められるかというお話をしました。簡単におさらいすると、①その人の考えなど(思想・感情)を②オリジナリティをもって(創作的に)③表現したものには、著作権があります。

ところで、外国人の著作物でも、日本では日本の著作権法に基づいて保護されます。これは、日本が著作権に関する条約(ベルヌ条約・TRIPs 協定など)に加盟しており、条約上、加盟国の国民の著作物やこれらの国で最初に発行された著作物を保護する義務があるためです。この条約には、ほぼ全ての国家が加盟していることから(例えば、エチオピアやイランは加盟していません)、基本的には外国人の著作物も日本で保護されることになるのです。

次に、日本で保護されている著作物でも、それが保護期間を経過していれば誰でも自由に利用することができます。著作権の保護期間は、原則著作者の死後50年です。日本で保護されている著作物で、著作権の保護期間内であれば、基本的に著作者に利用の許諾を得なければなりません。 Book しかし、例外的に許諾を得ずに著作物を利用できる場合があります。これがどのような場合かは、著作権法がそれぞれ個別に、かつ詳細に定めています(「著作権の制限規定」といい、その数は30以上もあります)。ここでは、この制限規定のうち、代表的な「引用」の規定と、最近の法改正で挿入された「写り込み」の規定を紹介します。


■ どこまでが許される「引用」か


他人の著作物を利用できる代表的な場合として、「引用」があります。「引用」の語感からは出典さえ明記しておけばどれだけ使っても問題ないと誤解しがちですが、法律上の「引用」が認められるためには、もう少し厳密に検討しなければなりません。

検討すべき要素についてはいくつか考え方がありますが、おおむね、①公表された著作物であること、②引用された作品が明瞭に区別できること、③あなたの作品が「主」、引用される作品が「従」であること(主従関係)、④引用することに必然性・関連性があること、⑤作品を改変しないこと、⑥出典の明示などがあり、これらの要素を総合考慮して引用に該当するか判断されます。

一例として、他人の写真を引用して自分のブログに掲載する場合を検討してみましょう。写真は撮影者の著作物となるケースが多いと思われます。そのため、古い作品を除いて、無許諾でブログにアップすることは原則としてできません。しかし、たとえば写真撮影の技法を紹介する記事の中で、ある技法を使用している代表的な写真として小さく紹介をするようなケースでは、比較的引用が認められやすいと思います。一方、まったく関係ない記事で突然「記事のイメージに合うから」といって他人の写真を掲載したような場合には、当然ながら「引用」は認められないでしょう。


■ 写すつもりのないキャラクター


街角での写真撮影やビデオ撮影を行う際に、たとえば交差点の広告のキャラクターなどが写り込んでしまうこともあるでしょう。多くのキャラクターは著作物ですから、たとえ意図的に写していないとしても、権利者の許諾がなければその写真自体をアップロードなどができないとも考えられます。

ただ、そのような場合でも、掲載されたものがごく小さいときには著作物の利用には当たらないケースもあります。裁判例では、カタログに掲載された和室のモデルハウスの写真に、掛け軸が約縦2cm× 横1.5cmのサイズで写っていた事案で、掛け軸の美的要素がわかるほどには再現されていないため著作権侵害にはならないとしたものがあります。

また、このような場合でなくても、交差点での写真や映像はそのキャラクターを紹介しようとしたのではなく、本来意図する撮影対象とともに、たまたまキャラクターも撮影されてしまったに過ぎません。このときには、著作物の利用の程度は軽微であり、かつ写り込んでしまった作品の著作権者の利益を害するわけでもないと思われます。そのため、著作権法では、本来の撮影対象の背景に小さく人の作品が写り込んでいるような写真や映像は許諾なく利用することができると定めています。

この規定は平成24年に改正された著作権法で追加されたもので、より正確には、撮影対象と分離が困難である、軽微な構成要素であるなどの要件が定められています。あくまで写り込んでしまった場合の規定ですので、最初からキャラクターを撮影対象とした写真の場合には、原則に戻って許諾が必要となります。


■ フリー素材の利用上の注意点


仮に以上で述べたような「制限規定」にまったく該当しない場合でも、著作権者の同意があれば当然、その素材を利用することができます。それでは、ネット上のいわゆる「フリー素材」は、「著作権者の同意」があるのでしょうか。もちろん、フリー素材の制作者が「どんな利用目的の場合でも、どんな改変をしても無償で利用することができます」と明記しているならば、自由に使用することができるでしょう。

しかしながら、フリー素材といっても、通常は著作権までは放棄せず(著作権は制作者に残しながら)、ある範囲での利用を許しているケースが多いのではないかと思います。多くみられるフリー素材の利用制限としては、①商業目的で使用することはできない、②改変して使用することはで きない、 hat ③使用した場合には著作者名を掲載すること、などが挙げられます。利用条件に拘束されるかはさておき、このような場合に利用可能な範囲を確認せずに使用してしまうと、(特に改変を行う場合など)後日素材の権利者から著作権侵害と主張される可能性がありますので、きちんと確認してから使用しましょう。

最後に、素材を使用する場合には、その素材が本当に相手のオリジナルかどうかという点も注意が必要です。実は他人の作品が無断で使われていたケースでは、素材配布サイトはもちろん、素材を使用したユーザーも著作権侵害となる可能性があります。

例えば、フリー素材ではなく一から素材の制作を委託する場合には、素材制作者との間で、「素材制作者は第三者の著作権などの権利を侵害していないことを保証する」という条文が入った契約を締結して、制作された素材に著作権侵害があったときには素材制作者に責任を追及できるようにすることが多いのですが、Web 上のフリー素材の利用ではそもそもそのような契約を締結しないのが通常でしょう。本当にオリジナルか否かを確認するのは実際上難しい場合も多いとは思いますが、他でも同じ素材を見かけたような場合には、特に注意が必要でしょう。


  アートと権利、今月の話題 

  動向(2013年9月分)

 「ネット企業7社が『アジアインターネット日本連盟』を設立」

2013年9月25日、アジア地域でインターネット政策の提言を行う団体である「Asia Internet Coalition(AIC)」の日本支部として「アジアインターネット日本連盟(AICJ)」が設立された。設立時の会員はGoogle、Yahoo、eBay、Facebook、Amazon、GREE、DeNAと、そうそうたる7社。同時に、プライバシー保護に関する提言と知的財産・コンテンツ振興戦略の提言も公表。提言には、日本版フェアユース条項の導入、オーファンワークス(孤児著作物)対策、コンテンツの流通を促進するための契約の見直し、海外違法コンテンツの規制強化などが並び、今後の台風の眼になる予感を漂わせる。


  判決

 「書籍の『自炊』代行訴訟、差止請求が認められる」

「自炊」とは、書籍を裁断してスキャナーで読み取り、電子書籍化することをいう。ユーザーが自ら楽しむために自炊することは「私的複製」に該当し適法。しかし、自炊代行業者(有料で自炊を請け負う業者)が行う自炊は問題が多く「私的複製」ではないとして、浅田次郎・東野圭吾など著名作家たちが業者を提訴していた。2013年9月30日、東京地裁は自炊代行業者2社が行うスキャンは著作権法上違法であるとして、スキャンの禁止及び損害賠償を認めた。

●参考文献:福井健策『著作権とは何か―文化と創造のゆくえ』(集英社新書、2005)
●参考文献:松島恵美=諏訪公一『クリエイターのための法律相談所』(グラフィック社、2012)

※本コラムは、弊社の連載「デザイナーのための著作権と法律講座」(月刊MdN 2013年12月号)の記事に、一部加筆修正したものです。



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さて、次回の第6講では「パブリシティ権との付き合い方」をお送ります。あまりなじみのない言葉かもしれませんが、スポーツ選手や俳優といった著名人の名前や肖像写真などを用いた商業コンテンツと深く関係している権利です。「パブリシティ権とは何か」や「パブリシティ権侵害となるパターン」など、商業コンテンツの権利について解説していきます。


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2014/4/2




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骨董通り法律事務所

“For the Arts”を旗印に2003年に設立され、法律家としての活動を通じてさまざまな芸術活動を支援する法律事務所。出版、映像、演劇、音楽、ゲームなどのアート・エンタテインメント業界のクライアントに対する「契約交渉の代理」「訴訟などの紛争処理」「著作権など知的財産権に関するアドバイスの提供」を中心的な取扱業務としている。また、幅広い業種のクライアントのための企業法務,紛争処理にも力を入れる。


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