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ウェブアクセシビリティ・レポート 第7回 ポッドキャストの可能性

2024.4.20 SAT

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ウェブアクセシビリティ・レポート

文=KeiYu HelpLab石田優子
ユーザーの視点に立ったサイト構築、運営に関するユーザビリティ、アクセシビリティの向上などのコンサルティング、調査などを行っている。


第7回
ポッドキャストの可能性


音楽などの趣味の分野から、最近はニュース、ビジネスまで幅広い分野で利用されるようになってきたポッドキャスティング。音声での情報提供ということで、すでに音声読み上げユーザーなどにも利用され始めているが、アクセシビリティの観点からポッドキャスティングの可能性を考えてみよう。


聴覚障害者とネット

ポッドキャストを利用する環境の問題
ポッドキャスティングといえば、iTunesにダウンロードし、iPodに転送するというのがもっとも一般的な使い方だろう。しかし、視覚障害のある人がこの使い方をするのは難しい。

まず、iTunesがスクリーン・リーダーなどの音声読み上げソフトに対応していないため、操作が困難だ【1】。海外ではメジャーなスクリーン・リーダーで、日本語版も出ているJAWS用には、iTunes Accessible Interface for JAWS for Windows【2】というJAWSでiTunesを操作するためのソフトが販売されており、これを購入して組み込めば操作可能だが、それ以外の音声読み上げソフトではiTunesを使えない。このため、iTunesからアクセスする必要があるAppleのiTunes Music Storeで楽曲を購入したり、ポッドキャスト番組を選択するといったこともできない。

【1】iTunesの画面は音声読み上げソフトだけでは操作できない
【1】iTunesの画面は音声読み上げソフトだけでは操作できない

【2】iTunes Accessible Interface for JAWS for Windowsのサイト(www.tandt-consultancy.com/itunesscripts.html)
【2】iTunes Accessible Interface for JAWS for Windowsのサイト(www.tandt-consultancy.com/itunesscripts.html)


またiPodのハード面についていうと、iPod Shuffle以外の機種はボタンがフラットで触覚による判断が困難で、画面を見ながらの操作を前提としている部分が多いため、視覚障害者にはほとんど使えない。

しかし、ボタンに凹凸があり、操作もシンプルなiPod Shuffleは、視覚障害者も無理なく使うことができる。また、iPod以外の携帯オーディオプレーヤーには視覚障害者でも使えるものがたくさんあり、実際愛用されている。iTunes以外のオーディオプレーヤーソフトで再生し、iPod以外のオーディオプレーヤーに入れて持ち運ぶといった方法で活用している人が多いようだ。単に再生するだけでなく、編集ソフトを使ってファイルを自分で編集する人もおり、音声ファイルに対する関心は高い。

ポッドキャストサイトのアクセシビリティ
ポッドキャスト番組で、iTunesへのドラッグ&ドロップ用のアイコンひとつだけをページに貼り付けただけのものは、アイコンをドラッグ&ドロップができない人や、iTunesを使えない環境の人には利用できない。

また、ポッドキャストを再生、ダウンロードするためのインターフェースには定型がなく、さまざまな機能やデザインのものがあるが、再生やストップをキーボード操作で行うことを前提としていないものが多く、音声読み上げソフトでも使いにくい。

海外には視覚障害者向けのポッドキャストサイトがいくつもあるが【3】【4】、これらでは音声ファイルへのテキストリンクの方法をとっていて、キーボード操作で音声を再生できる。日本では広島市が声の広報「ひろしま市民と市政」【5】を配信しており、iTunes用のドラッグ&ドロップアイコンのほかに、「音楽を再生」リンクを押せば、Windows Media PlayerとQuickTime Playerでもすべての番組を聴くことができるように工夫されている。さらにこの声の広報を視覚障害者にカセットテープで貸し出すサービスも行っており、パソコンを使えない人にも配慮している。

【3】海外の視覚障害者用ポッドキャストサイト。Assistive Media - Podcasting for the Blind(podcast.assistivemedia.org/)
【3】海外の視覚障害者用ポッドキャストサイト。Assistive Media - Podcasting for the Blind(podcast.assistivemedia.org/)

【4】海外の視覚障害者用ポッドキャストサイト。Blind Cool Tech Podcast(www.blindcooltech.com/)
【4】海外の視覚障害者用ポッドキャストサイト。Blind Cool Tech Podcast(www.blindcooltech.com/)

【5】声の広報「ひろしま市民と市政」(www.city.hiroshima.jp/riyou/pod/podcast.html)
【5】声の広報「ひろしま市民と市政」(www.city.hiroshima.jp/riyou/pod/podcast.html)


よりアクセシブルなポッドキャストへ

視覚障害者自身が発信するポッドキャスト
ポッドキャストを楽しむだけでなく、視覚障害をもった人が自らポッドキャスト番組をつくって発信することも始まっている。

全盲の西尾憲一氏の「こころ と からだ イエラ治療室」【6】は、録音からファイルのアップロードまですべて独りでこなされているものだ。録音機材としてのマイクは、本体に内蔵のステレオマイクとサンヨーのICレコーダー・ICR-S310RMを使用。このICレコーダーはボタン操作のほとんどを音声で案内してくれるので視覚障害者でも使えるという。USB経由でパソコンに取り込んだMP3ファイルをAudioEditorというフリーの音声編集ソフトで編集。細かい編集になると画面を見なければ操作が難しいが、カットや結合などは音声読み上げソフトでも操作できる。

【6】「こころ と からだ イエラ治療室」(www.voiceblog.jp/nishio2409/)
【6】「こころ と からだ イエラ治療室」(www.voiceblog.jp/nishio2409/)


作成したファイルはケロログという音声投稿が可能な無料Blogに掲載している。ケロログへの音声ファイルのアップロードなども特に音声読み上げソフトで困った点はないと西尾氏は語る。

情報提供手段としてのポッドキャスト
ポッドキャスト番組を自ら発信している西尾氏はパソコン歴が長いベテランだが、携帯電話からパソコンへの音声ファイルの取り込み、パソコンでの音声ファイルの再生、編集、ファイルフォーマットの変換といったテクニックについては視覚障害者メーリングリストでもよく話題になっている。

視覚障害者にとって音声配信は親和性や興味が高い分野だ。ポッドキャストとは何か、ポッドキャストを聞きたいといった質問も聞かれるようになってきた。また、高齢でパソコンの文字を見づらい人、パソコン操作ができない人、学習障害で文章を読むのが苦手な人などがオーディオプレーヤーなどでより手軽に音声から情報を得ることができるようになればメリットは大きい。

アクセシビリティという観点からはまだほとんど取り上げられることのないポッドキャストだが、さまざまな人への情報提供手段のひとつとして今後注目すべき分野だろう。また、それとともにiTunes自体の音声読み上げソフト対応、あるいは音声読み上げソフト側でのiTunes対応も、今後より進むことが望まれる。


本記事は『Web STRATEGY』2007年1-2 vol.7からの転載です
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