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ウェブアクセシビリティ・レポート 第10回 LD(学習障害)に対するアクセシビリティの配慮

ウェブアクセシビリティ・レポート

文=KeiYu HelpLab石田優子
ユーザーの視点に立ったサイト構築、運営に関するユーザビリティ、アクセシビリティの向上などのコンサルティング、調査などを行っている。


第10回
LD(学習障害)に対するアクセシビリティの配慮


Webを利用するうえで問題を抱えている人はたくさんいるが、日本ではまだ身体障害以外の人に向けたアクセシビリティの配慮についてはあまり言及されていない。今回はLD(学習障害)、特にディスレクシア(読み書き障害)の人に対するアクセシビリティの取り組みについて紹介していく。

記事協力
日本アイ・ビー・エム(株)
アクセシビリティ・センター 飯塚慎司 氏
東京工業大学教育工学開発センター 准教授:西方敦博 氏 博士課程学生:田中健太 氏


日本では遅れているLDとディスレクシアへの取り組み
LD(Learning DisabilitiesもしくはLearning Disorders)は、学習障害と訳される場合が多く、文字どおり学習に関係する障害だ。全般的な知的発達に遅れはないが、聞く、話す、読む、書く、計算する、推論するなどの特定の能力の習得と使用に著しい困難を示す、さまざまな障害を指す。中枢神経系に何らかの機能障害があると推定されている。米国では全人口の約15%がLDと認定されており、作家や、医師、法律家、ビジネス界の著名人などでもLDの人は数多くいる。

LDの中でも、文字を読んで認識すること、文字の読み上げ、書くことについて困難を伴うディスレクシア(読み書き障害)は中心的症状のひとつで、LDの中での割合も多く、Web閲覧との関連が深いので、今回はディスレクシアの人のアクセシビリティに焦点を当てる。

日本では障害者人口にはカウントされておらず、包括的な調査報告はないが、全人口の4~9%程度はディスレクシアではないかと考えられている。まず、それだけ多くの人が日常の読み書きに支障がありながら暮らしていることを知っておいてほしい。

ディスレクシアの人が文章を理解するうえでの問題
文書を理解するためには、次のような脳のプロセスがあるが【1】、ディスレクシアの人には、このプロセスのどこかがうまくいかないと考えられる。

【1】脳内での文章理解のプロセス
【1】脳内での文章理解のプロセス


1.文字を視覚的にとらえる
2.読み(音韻)に変える
3.その読み(音韻)から語を特定する
4.特定された語に、一般的知識、語彙、理論付け、概念形成などして、単語の意味を理解する

また、ディスレクシアの人にとって文章がどのようにとらえられるのかは、当事者以外わからないが、概念的には文字がだぶったり、漢字が分解されたり、あるいは、順番が入れ替わったり、鏡に映したようにとらえられたりする場合もあるという【2】。しかし、これは文字に限ったことで、絵を見たり、テレビを視聴したりする点には支障がない。

【2】ディスレクシアの人に見える文章の概念的なイメージ
【2】ディスレクシアの人に見える文章の概念的なイメージ


では、音韻処理に問題があると、なぜ文字が見えていても読めない(認識できない)のだろうか。実は、大抵の人は見た文字を頭の中で音声に変えて読んでいる。実際に声に出さないにしても心の中で声に出して読んでいるのだ。そうすることで、スムーズに文字を理解できる。この文字を音声に当てはめる機能が音韻処理だが、ディスレクシアの人はこの処理がうまくいかない場合があるという。そのためスムーズに文字を読み進められない。 ディスレクシアの人にとってひとつの単語を読むという行為は、たくさんの要素(文字の位置、形、色、大きさ、前後のつながりなど)を少しずつ考えて絞り込んで理解にいたるということになるため、非常な集中力が必要となる。

DAISYによる従来からのIT支援
DAISY(Digital Accessible Information SYstem)は、視覚障害や発達障害、その他の印刷物を読むことが困難な人のためのデジタル図書の国際標準規格で、専用の機器かソフトをパソコンにインストールすることで、デジタル図書ファイルを音声で再生できる。

さらに、マルチメディアDAISY図書では、音声にテキストや画像をシンクロでき、読み上げられている文字列がハイライトされる【3】。音声のみの従来のDAISY図書もディスレクシアの人に活用されているが、マルチメディアDAISYによる視覚的な文書の理解の支援はディスレクシアの人にとっては有効と思われる。DAISY自体はWebページの読み上げには使われないが、ディスレクシアの人のWeb閲覧への配慮を考えるうえで参考になる。

【3】パソコンにインストールした無料ソフトでマルチメディアDAISY図書を再生している画面
【3】パソコンにインストールした無料ソフトでマルチメディアDAISY図書を再生している画面


ディスレクシアの人に向けたWebアクセシビリティの配慮
ディスレクシアの人の支援手段として、音声読み上げソフトや音声入力ソフトも使われおり、音声読み上げユーザー向けのアクセシビリティへの配慮も有効だが、併せてビジュアル面への配慮が大切で、時には音声情報よりも視覚情報が有効な場合もある【4】。以下にポイントを挙げてみよう。

【4】ディスレクシアの人向けに配慮をしたサイト(特に認知に障害のある人向け)。完結に文章をまとめ、また耳のアイコンで音声、目のアイコンで人物動画解説を表示し、テキストを読む以外の方法も提供している(thedesk.info/)
【4】ディスレクシアの人向けに配慮をしたサイト(特に認知に障害のある人向け)。完結に文章をまとめ、また耳のアイコンで音声、目のアイコンで人物動画解説を表示し、テキストを読む以外の方法も提供している(thedesk.info/)


1行文字数を半角60~70(全角30~35)文字程度にする。さらに一段落を数行ぐらいに簡潔にまとめ、段落ごとにスペースを入れるとよい。長い文章は、行頭を見失いやすく、同じ行を繰り返し読んだり飛ばしたりする場合がある。

背景色をユーザーが変更できるようににし、文章の背景に画像を入れない。色覚障害や白内障の人などと異なり、ディスレクシアの人が読みやすい配色は個人差が大きい。背景色が白に黒文字では読みづらく、少し変えてクリーム色にすると読みやすい人もいれば、グレーやピンクがよいという人もいる。このためユーザーの好みによって変えられることが重要だ。

明朝体を使わず、ゴシック体を使う。明朝体は修飾的な要素が文字認識を妨げるので、ゴシック体が読みやすい。英語も同様にTimes News RomanよりはArialなどが読みやすい。

フォントサイズを12ポイント以上にする。ディスレクシアの人の場合、水晶体や網膜の視覚の問題ではなく、脳で文字を文字として理解する作業が、小さな文字だとより困難になるため、大きな文字が読みやすいということになる。

難しい漢字などには、正しく読めるようにルビをふる。

リスト表示で短くまとめる。行頭はビュレットよりも数字の番号がわかりやすい。

テキストボックスや吹き出しで、ページの中の重要個所をつかみやすくする。

静止画像はディスレクシアの人の文章理解を助けるのに有効なので、ビジュアル化できる情報はビジュアルにする。これは、ディスレクシアの人だけでなく、母国語でない言語で書かれた文章を読む人などにも役に立つ。

動く画像は停止できるようにする。ディスレクシアの人にとって動く画像は文章理解の大きな妨げになるので、ページ内に動くテキストや画像を入れないか、すべて停止できるようにする。

ナビゲーションは簡潔なテキストリンクがわかりやすい人が多いが、画像リンクがわかりやすい人もいる。

また、Easy Web Browsing【5】というアクセシビリティ支援ツールでは、文字拡大、文字色と背景色の変更、ルビふりのほか、マウスポインタを置いた部分の文字列だけを画面下部に表示して読み上げることができる。この、自分が見てわからない文字列を、マウスで指すことによって読み上げることができる点が、視覚障害の人向けの音声読み上げの場合とは異なり、ディスレクシアの人にとって重要になってくる。

【5】Easy Web Browsingは、ディスレクシアの人にとって便利なアクセシビリティ支援ツールだ(www.pref.saitama.lg.jp/)
【5】Easy Web Browsingは、ディスレクシアの人にとって便利なアクセシビリティ支援ツールだ(www.pref.saitama.lg.jp/)


視覚シンボルを使った文意理解支援システムの研究
ディスレクシアの人に対しては音声読み上げによる支援が中心であるが、文章を見ながら音声を聞き取っていくのが困難な場合もある。

そこで、東京工業大学教育工学開発センターの田中健太氏が取り組んでいるのは、視覚情報である文字を視覚情報のまま伝えるための支援システム【6】の研究だ。Firefoxの拡張機能で単語を日本版PICシンボル(ピクトグラム=絵文字)に変換し、読字のヒントとする。まだ研究途中の段階だが、このようなビジュアル面からの取り組みは、ディスレクシアやLD以外の人に対するアクセシビリティ支援の手法としても今後注目される分野だ。

【6】文意理解支援システムの研究。Firefoxの拡張機能とcgiの組み合わせでWebページのテキストを解析し、単語に該当する日本語版PICシンボルをルビ的につけ、文意(文章のごく基本的な意味)を伝える
【6】文意理解支援システムの研究。Firefoxの拡張機能とcgiの組み合わせでWebページのテキストを解析し、単語に該当する日本語版PICシンボルをルビ的につけ、文意(文章のごく基本的な意味)を伝える


ディスレクシアやLDに関するWebサイト
Designing web pages for dyslexic readers (www.dyslexia-parent.com/mag35.html)
Web Accessibility for Dyslexia
(www.websupport.man.ac.uk/accessibility/Disabilities/dyslexia.html)
日本LD(学習障害)学会 (www.soc.nii.ac.jp/jald/)
全国LD親の会 (www.normanet.ne.jp/~zenkokld/)


本記事は『Web STRATEGY』2007年7-8 vol.10からの転載です



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