旬のアートディレクターをお迎えして、デザインする際の思考プロセスを伺うとともに、創作のスタンスに迫るこのコーナー。第25回目はcanariaの徳田祐司氏。第1話では、不動産会社モリモトの企業広告およびブランディングに注目する。
第1話
トータルブランディングの極意
「株式会社モリモト 企業広告」
企業の哲学を伝える広告
US3の代表曲『Cantaloop(Flip Fantasia)』をバックに、次々と積み木が組み上げられていくTVコマーシャル。その印象的なCFをはじめとする株式会社モリモトのブランディングに、徳田氏は携わっている。
「CFだけでなく、モデルルーム用のポスターやWeb、同社が発行しているフリーマガジン『SUMAU(住まう)』の誌面広告など、さまざまな媒体を手がけています。モリモトは、ハイクラスかつ個性ある不動産を扱っていることで有名です。いわゆるデザインマンションの先駆けとなった会社でもあります」
物件個別の宣伝ではなく、企業の知名度を上げるための広告。制作にあたって重点が置かれたのは「しっかりとモリモトのフィロソフィーを伝えること」だった。
「社長からのメッセージは“迎合せずに自分たちらしい不動産を作る”というもの。このフィロソフィーを元に、“無難な住まいは無難な人生しかくれない”“良いものは油断すると退屈なものになる”など、いくつかのコピーを開発し、マスメディアを中心に独自のコミュニケーションを展開しました」
受け手を「選ぶ」構造
自分たちの感性に共感してくれる人とビジネスをしていきたい。そのような思いを表現するため、通常では採用されないであろう不安定な積木をあえてモチーフにし、モリモトの住宅の特徴である「自由にデザインできるカスタマイズ性」を伝えている。
「“大人の遊び”をテーマに、自由自在に築いていけるコンセプトを、黒の積み木を使って表現しています。なかには木やアルミ、桜色の大理石、コンクリートなどの建材を忍ばせることで建物のイメージを付加しています」
さらに、モリモトのメッセージは、TVコマーシャルのBGMにも託されている。最新のヒット曲ではなく1993年の音楽を使用。そこにも明確な意図がある。
「住まいにも遊び心を入れていこうと考える30代後半から50代くらいの方々が、ちょうど遊んでいた頃の曲を選んでいます。US3はブルーノートの音源のサンプリングで知られていますが、本物を使って自在に遊ぶといったメッセージも含まれています」
「住まいにも遊び心を入れていこうと考える30代後半から50代くらいの方々が、ちょうど遊んでいた頃の曲を選んでいます。US3はブルーノートの音源のサンプリングで知られていますが、本物を使って自在に遊ぶといったメッセージも含まれています」
一貫したモチーフでのブランディング
遊び心があり媚びないスタイル。その最も訴えかけるべきコンセプトは、すべてのメディアで踏襲された。そこでは媒体ごとの特性にも配慮している。
「映像の特性は、動きと音。それを活用して、意志を持った積木が一つの造形物に組み上がっていくストーリーを展開しました。途中必ず登場する手は一緒にデザインを楽しむユーザーを意味しています。一方、紙媒体では、伝えられる情報が限られるので、最も伝えたいシンボリックなもの、黒い積木だけを残す方法を採っています。さらにWebでも同じモチーフを使い、CFを面白いと感じて検索してくれた人を裏切らないためにも、ファーストインプレッションを重視して、インタラクティブ性が高く遊び心のあるコンテンツを用意しました」
ブランディングの極意を「続くこと」と語る徳田さん。その言葉通り、印象的なモチーフで統一することによって、モリモトのメッセージは着々と浸透しつつある。そこで気になるのは次のステップだ。
「デザインに配慮している企業だからこそ、当然ながら新しいことを取り込んでいくことも必要です。ただ、残すことと新しくしていくことを組み合わせることで、どのように進化させていくかが大切。それが今後の課題になると思います」
(取材・文:佐々木剛士 人物写真:谷本夏)
(取材・文:佐々木剛士 人物写真:谷本夏)
次週、第2話は「広告の担う役割」について伺います。こうご期待。