第1話 ドラマチック+ユーモラス | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
【サイトリニューアル!】新サイトはこちらMdNについて









旬のアートディレクターをお迎えして、デザインする際の思考のプロセスを伺うとともに、創作のスタンスに迫るこのコーナー。第26回目は制作会社「E.」に注目。第1話では、2007年のJAGDA新人賞を受賞した小林洋介氏による2つの仕事を紹介する。



第1話
ドラマチック+ユーモラス
「三菱UFJ信託銀行」「東京エレクトロン」新卒採用ツール





ストーリーを感じさせる


今回最初の作品は、三菱UFJ信託銀行が新卒採用の会社説明会などで配布したツール。タブロイド判の誌面には、会社の魅力や信託業の特徴などを分かりやすく伝える記事が盛り込まれている。

「銀行が日々動いているライブ感を表現するために、新聞の形態を採りました。2007年度から2年連続で、僕がアートディレクションを手がけています。初年度の表紙のビジュアルはカブトムシの角のイメージ。“信託銀行”は英語で“Trust bank”なので、その頭文字Tをモチーフにしたのです。2年目の表紙では同じくTの形をスーツ姿の人がかたどりました」

 信託業のスケールの大きさを感じさせるビジュアル。どちらの背景も、スッキリ晴れた空ではないことが興味深い。
「映画のワンシーンのようにドラマチックなデザインを目指しているのです。クリーンな青空より少し曇っていたり暗かったりするほうが、より多くのストーリーを感じさせられますし、そのほうが人の心を動かせるのではないでしょうか。鳥を飛ばせて、時間の流れや動きを感じさせたことも理由は同じです」


ひねりのある表現によるアプローチ


 こうした手法で写真を見せたのは、東京エレクトロンの新卒採用ツール「TOKYO ELECTRON TRIP!」でも同様だ。大きな岩に追いかけられるなど非現実的なシーンが楽しい「危険な旅シリーズ」だ。

「東京エレクトロンは半導体のメーカーです。営業の方は世界中を飛び回ったりとハードな仕事のようですが、それこそがこの仕事の面白み。“一緒にそれを楽しんでいこう”と訴求することが求められました。そこでドラマチックな社会人生活を、やや大げさにユーモアを交えながら表現しています」

 堅くなりがちな内容を柔らかく伝えるための「ユーモア」。これは三菱UFJ信託銀行の誌面とも共通している要素。その必要性を小林さんは次のように語る。

「信託銀行も半導体メーカーもBtoB企業ですから、学生にとっては地味な存在かもしれません。しかし、そのような業界へ少しでも学生の目を向けるために、何ができるかを追求した結果です。相手が若者なら、少しひねった表現でも受け入れられやすいので、受け手が興味を持つ引っかかりを設けることを念頭に置いたわけです」


品格とユーモアの共存


  これら作品にはさまざまなユーモアが垣間見れるが、これらは小林氏がデザインをするうえでの個人的なテーマとも一致している。

「すべてを格好良く決めすぎることには抵抗があります。だから少しだけ外すのです。そのバランスを考えることも楽しいですね」

とはいえ、ときにクライアントが堅い企業の場合は、そうしたユーモアを理解してもらうことは難しいのではないだろうか。それに対しては、小林氏は異をとなえる。
「もちろん闇雲に面白くすれば良いわけではありません。しかし目的に合っていて必要性が認められれば受け入れてもらえるはずです。ユーモアがあるからといっても、下品に仕上げず品を保つことも大事でしょう。その意味でもこの2つの仕事にはドラマチックな写真のトーンが不可欠でした。これが単なる明るい写真だったら、もっと抵抗のある仕上がりになっていたでしょうからね」

(取材・文:佐々木剛士 人物写真:谷本夏)

次週、第2話は「メディア特性の活用」について伺います。こうご期待。




●小林洋介(こばやし・ようすけ)
1975 年新潟県生まれ。明治学院大学在学中に亀倉雄策のポスターと偶然出会い方向転換。卒業後、2000年有限会社E.に入社。現在、広告を中心に、パッケージデザイン、エディトリアルデザインなどの方面でも活動中。2007年JAGDA新人賞受賞。
http://www.e-ltd.co.jp/

twitter facebook このエントリーをはてなブックマークに追加 RSS
【サイトリニューアル!】新サイトはこちらMdNについて

この連載のすべての記事

アクセスランキング

8.30-9.5

MdN BOOKS|デザインの本

Pick upコンテンツ

現在