第1話に引き続き、浜田武士氏によってデザインされた作品を紹介し、その制作過程における思考のプロセスに迫る。第2話では、歌手の一青窈さんが執筆した書籍『明日の言付け』(河出書房新社)のブックデザインに注目。
第2話
内容を“感じさせる”書籍『明日の言付け』
完全に「和」ではない絵柄
過去にも一青窈さんにまつわるデザインを数多く手がけてきた浜田さんが、その経験を踏まえながらデザインしたのが『明日の言付け』だ。装画にはイギリスのエージェントを介して、北欧のイラストレーター、Petra Borner氏の作品を採用したという。
「表1には、イラストの一部をトリミングして使用しました。彼女はヨーロッパのイラストレーターなのですが、作品のある一部分をピックアップすると、不思議と日本語のタイトルにマッチすることに気がついたのです。表紙案は全部で7パターン提出しました」
今回の装丁で配慮したのは、読者を女性だけに限定しないこと。ピンクがかった本文用紙は女性らしさを感じさせるものの、一方ジャケットでは「中高年の男性などが手にしていても違和感がない佇まい」を意識した。
三部構成の本文レイアウト
カバーデザインと並んで手がけたのが中面のデザインとレイアウト。本文は大きく分けて三部から成り立っている。
「第1章は歳時記のような内容でしたので、ページを捲っているだけで、それが何月のテキストなのかわかるように数字を配しました。第2章は恋愛について書かれているパートです。その中の注意書きの箇所には、星座を模したイラストを用意しました。基本的に本文組みは統一されているのですが、装飾で変化を与えています」
続く第3章は、歌詞とともに歌詞の生まれた背景が書かれている複雑な構成だ。それを明確にするためにはひと工夫が求められた。
「標題があるのと同時に、歌詞自体のタイトルも併記されていたりしたので、そのまま流し込んでしまっては、歌詞とそれ以外のテキストとの境が不明瞭になる。そこでは罫線を活用し、歌詞とそれ以外のテキストを区分するなどの工夫をしました」
著者の気持ちを想起させる組版
依頼された時点では、本文組みに関しては「フォーマットだけ作成して、DTPオペレーターに渡してください」と指示されたという。だが浜田さんは、その方法では不十分だと考えた。
「フォーマットでは対処できない箇所も出てくるでしょうし、原稿を読んで感じ取った印象を大切にしながら組まないと、改行の位置やページの股がり方が変になってしまうと思ったのです。文字ボックスを用意して機械的にテキストを流し込んでいけば作業効率はアップできますが、それでは言葉を大切にしている一青さんの本としては適切でないと感じたのです」
歌詞の中には、1行に1文字だけが置かれたような箇所も見られる。すると行間を広く設けすぎると、間の抜けた印象を与えるに違いない。だからといって読みやすさを追求するだけではない。浜田さん曰く「感じやすさを意識した組み方」が実践された。
「もちろん可読性を無視しているわけではありません。しかし文字そのものが単に見やすいだけでは、意味が伝わっているとは言えませんよね? パーソナルなことが綴られた本なので、執筆している人の気持ちを感じさせるデザインにすべきです。それが本当の意味での“伝える”ことではないかと思います」
(取材・文:佐々木剛士 人物写真:谷本夏)
(取材・文:佐々木剛士 人物写真:谷本夏)
次週、第3話は「ディレクションとアートワーク制作」について伺います。こうご期待。
●浜田武士(はまだ・たけし) |