第1回 IAの成り立ちとタイプ分け - 実践的インフォメーションアーキテクト論 | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-

第1回 IAの成り立ちとタイプ分け - 実践的インフォメーションアーキテクト論

2024.4.25 THU

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IAになりたい人、IAと仕事をしてみたい人必見!
実践的インフォメーションアーキテクト論


文=清水 誠文=清水 誠
実践系Webコンサルタント。DTP・印刷・ネットビジネスの分野を中心に、ITとIAによる業務カイゼン を手がける。印 刷物とWebへ画像をシングルソースするためのカラーマネジメント、文字情報をシングルソースするECM・XML・自動組版、ビジネスを加速するITイノ ベーションが最近のテーマ。1995年国際基督教大学卒

第1回
IAの成り立ちとタイプ分け

Webサイト構築の付加価値としての期待が高いインフォメーションアーキテクト(IA)だが、その定義は組織や人によって異なるため、すれ違いも多い。経緯を整理したうえでタイプ別にまとめてみた。現在Webデザイナーで将来IAになりたい人や、優秀なIAと一緒に仕事をしたいと思っているWEBディレクターなどは、この記事で正しいIA像を理解するとよいだろう。


米国におけるIAの歴史と呼称問題

Webの進化に伴い制作側の役割が細分化
米国でも昔は、ひとりのWebマスターが企画、デザイン、コーディング、アップロード、集客などすべての作業をこなす、というスタイルの時代があった。しかし90年代後半に入って、ネットビジネスが進化したことによって、ひとりですべてをこなすというスタイルは廃れる。それは、多機能かつビジネスに直結するようなサイトが増え、個人の力量では対応できなくなったためだ。特に1999年のドットコムブームでは、要件が複雑化し案件が大規模化したため、制作サイドの役割の細分化と手法の体系化が進む。数千人規模の従業員を抱えるいわゆるSIPS企業(Strategic Internet Professional Service)が台頭したのもこのころである。

呼称は議論の的。いっときは“Web Architect”とも呼ばれる
分業化が進む中、情報構築に携わる者たちにとって、自分たちの価値を正しく伝えるために、呼称をどうするかについての議論が絶えなかった。一時は“Web Architect”という名称も使われたが、1990年代の後半になると、リチャード・S・ワーマンの定義にあこがれて“Information Architect”を名乗る人が増えていった。

米国ではプロジェクトにIAはほぼ必須である。ただし、案件によってはワイヤーフレームとサイトマップをつくる狭義のIAであったり、日本でいうWebディレクターに近い場合もある。特徴的なのはコンサルタント的なIAであり、EIA(Enterprise Information Architecture)に注力するIAもいる【1】。

【1】分業化の流れ
【1】分業化の流れ


日本に輸入されたIAという名称と現状

“IA”が2000年に日本へ輸入される
IAの理論と体系が米国から輸入されたきっかけは、SIPS企業が2000年に次々と日本に参入したためである。IAを武器のひとつとしてマーケティングした結果もあり、徐々に広まっていった。

ただし、体系的で責任を明確にするアプローチは日本人にはなじまず、細分化されたチームだと役割の間に穴があくことがあった。また、日本ではWebプロジェクトの規模がまだ小さく、契約よりも柔軟な対応が重視されたため、幅広く動けるWebディレクター的なIAが重宝された。

名称としては普及企業側で採用されるケースも
2002年ごろから、IAが元クライアントなどの企業側に採用される傾向が世界的に強まった。数年遅れて日本でもそうなりつつあるようだ。IAはビジネスの根幹を深く理解する必要があるため、この流れは必然的といえる。

企業側にIAがいる場合、制作サイドは労働集約的な受注ビジネスになってしまうため、制作側もIAをサービスのひとつに取り入れる取り組みが増えている。

また、本社で使う用語を日本支社でも使うようになった外資系企業が、RFPやコンペの選定条件にIAを含めるようになってきたため、名称として普及してきた。

名乗ればIA? 求められるIA像の揺れ
最近では、IAといってもWebディレクターの呼称をIAに変更しただけであったり、ユーザビリティに特化した専門家であったりと定義が人や組織によって異なるため、採用活動やプロジェクト受注においてすれ違いも多い。

プロジェクトはIAのみによって遂行されるものではない。IAの定義や役割が組織やプロジェクトによって体制が異なり、その結果IAの担うべき役割が変わるからである。この点を明確化すべく、下記で典型的なIAの分類をしてみたので参照してほしい。


IAとWEBディレクターとの違いはどこにあるか

付加価値を訴求するためにさまざまな分野に目を配る
IAの存在目的は、Web構築の付加価値を高めることにある。その付加価値を世の中に訴求することに関心をもつ人が、IAを目指す場合が多い。そのため、手法の体系化や先行事例の研究が進んでいる。近年フォーカスされる分野としては、ユーザビリティ、アクセシビリティ、CMS、Web2.0、Ajaxなどがある。

他分野から英知を結集 IAをタイプ別に分類
前述の付加価値を高めるため、IAはほかの分野でのノウハウを吸収・昇華させることが多い。その分野は個人の前職や学術的背景により異なり、次のように分類できる。「ユーザビリティ専門家タイプ」「UIエンジニアタイプ」「編集者タイプ」「SEタイプ」「コンサルタイプ」「デザイナータイプ」【2】。

【2】IAのタイプ別分類
【2】IAのタイプ別分類


タイプ別 IA、それぞれの特徴を斬る!

ユーザビリティ専門家タイプ
ソフトウエア工学で発達したユーザビリティをWebで展開。破たんプロジェクトをユーザー中心主義で救うという使命感が根底にある。分析的で細かい点を見逃さない。英語に強く、米国の動向やレポートに詳しい。デザイナーと時折衝突するが、このタイプのIAは理論武装によりつねに勝つ。

行動範囲
・ユーザーテスト
・サイト診断
・ログ分析
・提案書、報告書作成
・プレゼンテーション

学術的背景
・心理学
・認知科学
・プロダクトデザイン
・ソフトウエア工学
・統計学・経営(たまに)

UIエンジニアタイプ
ユーザーインターフェイスは、ソフトウエアやプロダクトデザインの分野で地道に研究が進んでいる。このタイプは人間行動の構造化や効率改善をつねに考えていて、人とモノとのあり方を追求することをライフワークとしている。文具やカバンなど身につけるものには自分なりのこだわりをもつが、他人はそれに気がつかない。Apple社の提供するユーザーエクスペリエンスを信奉するが、Windowsをキーボードのみで操作する鍛錬も欠かさない。

行動範囲
・UIプロトタイピング
・コーディング(HTML、Flash、JavaScript、CSS)
・デザイン(時々)

学術的背景
・心理学
・HCI(Human-Computer Interaction)
・情報処理
・情報デザイン

編集者タイプ
リチャード・S・ワーマンのIA宣言に感化されてIAを目指した。「情報」を広くとらえていて、世界は何でも編集できると信じている。混沌の中からパターンを見つけ出して分類することが多い割には、しっくりこないので分類し直すことも多い。コンテンツの中身にまで範疇を広げるべきかについてつねに悩んでいるのは、「編集者」であることを認めたくないため、という説もある。

行動範囲
・情報の分類(ナビゲーションとサイトマップ)
・ラベリング設計
・コピーライティング
・コンテンツ企画

学術的背景
・言語学
・図書館学
・情報デザイン

SEタイプ
技術者として生きてきたが、視点がユーザー側にあるため、周囲の人たちに違和感を感じていた。ユーザビリティの概念を知って転身、ISO13407をふりかざしてプロジェクトの要件を覆すことに生きがいを感じている人も。図解が得意。

行動範囲
・要件定義
・サービスやプロダクトの評価
・新技術の導
・啓蒙
・プロジェクト管理

学術的背景
・情報処理

コンサルタイプ
SEタイプに近いが、関心が組織におけるコミュニケーションにある点が大きく異なる。eビジネスを成功に導くため、組織の間の壁に立ち向かい、合意形成のために走り回る。ROIとCMSが最近の口癖。パワーポイントのビジュアルには自信がある。

行動範囲
・要件定義
・提案書作成 
・プレゼンテーション

学術的背景
・経営
・情報処理

デザイナータイプ
論理的なデザインやコミュニケーションへの関心を、Webでの情報デザインとして生かしているタイプ。論より証拠、と完成度の高い作品を生み出すが、その価値を認められないことも多い。留学経験あり。

行動範囲
・クリエイティブブリーフ
・プロトタイピング
・デザイン

学術的背景
・情報デザイン 
・コミュニケーション


今回のまとめ

さて、今回はIAという職業の成り立ちを振り返るとともに、揺れるIA像各タイプについて、人物像が頭に浮かぶようになるべく具体的に記述した。このタイプ分けは、アラン・クーパーが世に広めた「ペルソナ」という手法でもある。ターゲットユーザーを「30代後半の富裕層」などではなく具体化することで、プロジェクトチームメンバー間でのユーザー像を統一するために使われる。似顔絵や名前をつけることもある。

なお、上記のうち対応できるタイプが多いほど、より幅広いプロジェクトにおいてIAとして活躍できる。
次回は、IAの活用方法や探し方について悩む組織のために、IAを含むチーム体制をプロジェクト別に解説したうえで、IAのよくある前職やキャリアパスについて紹介したい。


本記事は『Web STRATEGY』2005年 創刊号 vol.1からの転載です


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