第9回 Web上の活動がリアルにつながるライフストリーム
今、注目のインターフェイスデザイン
文章、写真、動画などさまざまなデータを属性に関係なく時系列に並べる見せ方を「ライフストリーム」という。ユーザーのインターネット活動が多岐にわたってきただけでなく、発信・受信頻度も上がったことで情報の動きが早くなっている。従来、さまざまな情報を一望するためのインターフェイスは、My Yahoo! やiGoogleに見られるようなダッシュボード形式が主流であったが、最近ではリアルタイム性を重視したライフストリーム型のUIの採用も増えている。たとえば、「Facebook」や「Twitter」がこれを採用している。カスタマイズやAPIの利用により、グループ分けや検索キーワードなど詳細な見せ方の設定はできるものの、基本的に時系列に表示され、アクセスするたびに今その瞬間の断片が見られるようになっている。難しい操作は不要で、自分の友達や同僚が今何をしているかを一覧できる手軽さがライフストリームにはある。
さまざまなWebサービスでアウトプットした自分のデータを組み合わせて仲間と情報交換を可能にするライフストリームサービスのニーズが高まっている。その代表格として最近「Facebook」に買収された「FriendFeed」(friendfeed.com/)がある。ほかにも「MyBlogLog」(www.mybloglog.com/)や「Socialthing」(socialthing.com/)など類似サービスはいくつか挙げられる。ソーシャルサイトに多く見られるライフストリームだが、最近では「New York Times」の「Times Wire」(www.nytimes.com/timeswire/)のようなニュースサイトでも採用されるUIになりつつある。
Webコンテンツと利用者の変化
ライフストリームの概念自体は10年以上前から存在する。1996年に米Yale大学が「Yale Lifestreams Project」(cs-www.cs.yale.edu/homes/freeman/lifestreams.html)という、電子文書を時系列に並べるファイルシステムの開発を始めている。膨大なファイルをあえて分類をせず時系列に並べるメリットは過去にも提唱されていたが、なぜここ数年でWeb上で再び注目を浴びるようになったのか。その理由として技術的な側面とユーザーのコンテンツ消費の変化が考えられる。
現在利用できるWeb上のサービスにおいて、データがひとつの枠に閉ざされている場合は少ない。RSSを購読して専用リーダーで読むのはもちろん、APIを利用してアプリケーションからサイト外のデータにアクセスする、といった他のサービスと組み合わせることが低コストで行えるようになってきた。サイトという区切りではなくWebという空間を情報が自由に行き来するようになったことで、情報は大幅に肥大化しただけでなく動きが迅速になり、従来のようにマニュアルで整理するにはユーザーに負荷がかかりすぎるようになった。情報を区分けして見せるダッシュボード形式より、そのまま時系列で見せるライフストリーム形式のほうが今を一望できるという意味では、効率的なソリューションといえる。
さまざまな技術を利用することで行きかう情報量が増えたと同時に、情報の細分化もされはじめている。雑誌からブログのような短いコンテンツへ、そしてブログからTwitterのようなマイクロブログへと短い情報の行き来が増えてきている。また、YouTubeのように2、3分で完結するコンテンツを楽しむのが現在のユーザーの姿だ。ユーザーも“読む”という行為ではなく、ザッピングという斜め読みしてコンテンツを短時間で消費するようになってきた。こうした小さなコンテンツをたくさん早く消費したいユーザーのニーズに対応するには、ライフストリームは最適のインターフェイスだ。
生活そのものがライフストリーム化
ユーザーの変化に伴い、多くの情報を視線を変えずに一覧できるデザインや、ユーザーが他のサイトやデバイスでも情報にアクセスできるための配慮が必要になる。また、マーケティングにも変化が起きている。たとえば、2008年のアメリカ大統領選挙ではオバマ大統領は1日数回更新するブログでは有権者に声が届かないと判断。ソーシャルメディアをフル活用し、いつでもどこでも彼の情報が手に入る状態を整えていた。ライフストリーム上に存在をアピールするには、頻度の高い情報をさまざまな形で提供する必要がある。
多くの情報に早く触れることができるライフストリームは、利便性は高いが課題も少なくない。ライフストリームに慣れ親しむユーザーは、多くの情報に注意を向ける傾向にあり、書籍、TV番組、音楽アルバムのような長いフォーマットのコンテンツは後回しにしたり、短いコンテンツほどには注意を払わない可能性もある。また、流れがあまりにも早くなったライフストリームで、時間に関係なくいかに自分にとって価値のある情報を摘出するかも課題だ。インターフェイス、技術、そしてユーザーの行動に影響を及ぼしているライフストリームだが、今後どのように進化していくのか、そしてどのようにWebデザインに影響していくのか注目である。
2008年秋にライフストリーム形式にリデザインされた「Facebook」(www.facebook.com/)。
2009年8月に買収した「FriendFeed」(friendfeed.com/)により、その傾向はより強まると考えられる
写真、記事、記者のブログが一緒になって表示される「Times Wire」(www.nytimes.com/timeswire/)。
表示させたいニュースの設定や過去どれだけアップデートされたかも確認できる
「Google Reader」(reader.google.com/)はユーザーとフィードを共有することができ、
見せ方はライフストリームになっている
Profile 長谷川恭久
デザインやコンサルティングを通じてWeb関連の仕事に携わる活動家。ブログやポッドキャスト、雑誌などを通じて情報配信中。
URL: www.yasuhisa.com/
本記事は『web creators』2009年11月号(vol.94)からの転載です。