すでに始まっているクラウドへのデータ移行 - WEBデザイン×ITフォーカスノート 第12回 | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-

すでに始まっているクラウドへのデータ移行 - WEBデザイン×ITフォーカスノート 第12回

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WEBデザイン×ITフォーカスノート

第12回 すでに始まっているクラウドへのデータ移行

従来のWebといえば独立したサイトが存在し、個々に訪問するという利用方法が主流だった。次第にWeb技術が発展するに従ってサイトとサイト同士が有機的につながり合い、観覧するサイトから利用するサイトへと変化し始めた。仕組みを理解しなくてもWebというひとつの大きな情報世界を自由に利用できるのがクラウドコンピューティングである。
(文=長谷川恭久)

無駄を減らすことを可能にするクラウドの力

2009年ごろから頻繁に聞くようになったキーワードのひとつに「クラウドコンピューティング」がある。特定の技術を指しているのではなく、インターネット(クラウド)を利用した技術開発の総称としてこの言葉が使われている。また、利用者は技術や仕組みを理解せずとも、インターネットという“雲”から自由に情報を抜き出したり利用できるという意味合いとしても使われることがある。

代表的なクラウドコンピューティングとして「Gmail」や「Dropbox」のようなWebサービスが挙げられる。利用者はインターネットに接続できる環境であれば、いつでもどこでもデータへアクセスすることが可能だ。クラウドコンピューティングは、最近よく耳にするようになった言葉とはいえ、数年前から私たちが使い続けている技術であることがわかる。

今ではEメールでのやりとりを「Gmail」や「Hotmail」といったWebサービスで行う利用者が多数を占めているが、従来は家電店でパッケージを購入したり、Webサイトからダウンロードして利用するのが一般的だった。ソフトウエアをひとつの製品と見なして販売していた形態から、ソフトウエアをサービスと見なし、利用者はライセンス料ではなくサービス料を支払うというビジネスモデルに変化した。これにより、利用者は利用したい分だけ料金を払うことが可能になっただけでなく、Web経由なので導入・構築・管理が不要になる。

中・大企業では自社にサーバを設置してデータ管理やサービス運営がなされているが、これが多大なコストになる場合がある。米Rackspace社が実施した調査によると、IT部署の仕事のうち26%がトラブルシューティングに割り当てられているといわれている。また半数以上の回答者が必要以上の仕事が増えることを恐れ、新たにサーバを購入することを避けている。クラウドを利用することによる効率化とコスト削減は、個人利用だけでなく企業向けにもいえることだ。また、新たなビジネスモデルをつくり出しているという意味でもクラウドコンピューティングは注目すべき事項といえる。

利用者にも身近なAmazon Webサービス

コスト削減ができるだけでなく、より速くサービスの提供を可能にし、利用者数が増えても柔軟に対応できる拡張性の高さもクラウドコンピューティングの魅力だ。代表的な例として米Amazon社が提供するストレージサービス「Amazon S3」(https://s3.amazonaws.com/)とアプリケーションの実行が可能な「Amazon EC2」(aws.amazon.com/ec2/)のふたつがある。

2006年3月に開始したS3は、拡張性が高い自社のインフラ構造と同じものを利用できるのが特徴で、低価格で大容量のストレージを確保できる。サービス開始以来、利用者数と格納されているデータは数倍規模で増え続けている。2009年11月現在、Amazon S3には820億ものオブジェクトが格納されているといわれている。2009年第一半期の520億オブジェクトから、わずか半年で2倍近くのオブジェクトが増えていることになる。Amazon S3の構造設計は公に出ておらず、ひとつのオブジェクトにつき最大5GBと正確な数字は発表されていない。しかし、「Twitter」、「SlideShare」、「Dropbox」といったおなじみのWebサービスもS3を利用していることでもわかるとおり、われわれにもすでに身近なサービスといえる。

S3の半年後にスタートしたEC2にはストレージはないが、急激なアクセスにも自動的に対応できるアプリケーション動作環境を提供していることで定評がある。同じ地域で稼働しているS3とEC2とのデータのやりとりは無料で利用できることから、両サービスともに利用して運営しているサービスも少なくない。小規模の企業でも大企業と変わりない環境でWebビジネスに参入できるのもクラウドコンピューティングの力といえる。

すべてをクラウドはまだ少し先

米Amazon社が提供しているようなサービスを利用して、クラウドにデータを保管することでシステムの運営・管理費用の低下が見込めるが、課題はいくつかある。クラウドサービスでの障害が発生したときに対処が難しいだけでなく、クラウド上では他社のデータとどのように分離されているのか明確にわからない場合があるため、安全性が気になる場合もある。また、利用しているクラウドサービスが運営停止してしまったときに、どこへ移行するのか、どのように対処するかといったリスク対策も考慮しなければならない。

そこで、現状は自社運営のサーバとクラウドサービスを両立させたハイブリッド構成を利用する企業も少なくない。しかし、数多くのデータベースやメディアサーバの提供、バックアップやプライベートコンテンツの配信といったサービスの充実化など、クラウドサービスを利用する価値は上がり続けている。たとえ開発目的で利用しないかもしれないとはいえ、私たちWeb利用者にとってなくてはならない存在になりつつある。

12-004
米Rackspace社が実施したサーバに関する意識調査の結果はPDFでダウンロード可能だ
ir.rackspace.com/phoenix.zhtml?c=221673&p=irol-newsArticle&ID=1353663&highlight=

12-005
S3やEC2のほかに数々のデータ管理サービスを提供している「Amazon Web Services」
aws.amazon.com/

12-006
2008年Web2.0に収録された著名人が考えるクラウドコンピューティング
www.youtube.com/watch?v=6PNuQHUiV3Q

Profile 長谷川恭久

デザインやコンサルティングを通じてWeb関連の仕事に携わる活動家。ブログやポッドキャスト、雑誌などを通じて情報配信中。
URL: www.yasuhisa.com/

本記事は『web creators』2010年2月号(vol.98)からの転載です。

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