WEBサイト制作者だから知っておきたい「EPUB」の基礎 - WEBデザイン×ITフォーカスノート 第15回 | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-

WEBサイト制作者だから知っておきたい「EPUB」の基礎 - WEBデザイン×ITフォーカスノート 第15回

2024.4.20 SAT

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WEBデザイン×ITフォーカスノート

第15回 WEBサイト制作者だから知っておきたい「EPUB」の基礎

2010年1月下旬に米Apple社が発表したタブレット型コンピュータ「iPad」。電子出版に新たな可能性を示していることで注目されているのが、電子書籍リーダーとストアが一体化されたアプリ「iBook」だ。ここで利用されている「EPUB」と呼ばれるファイル形式は、Webサイト制作者にとって親和性の高いのが特徴だ。
(文=長谷川恭久)

電子書籍の標準形式を目指す「EPUB」

「EPUB」は、1999年からいくつかのeBook機器で利用されていた「Open eBook形式」の後継にあたり、2007年に「International Digital Publishing Forum(IDPF)」 の公式ファイル形式として発表された。

電子書籍向けのファイル形式はシンプルなテキストファイルからビデオや音声が入る独自フォーマットまで20種類以上が現在市場に出回っている。さらなる市場の混乱を避けるためと発行者が効率よく手軽に電子書籍を配布・販売できることがEPUBがつくられた目的である。EPUBは複数のXHTMLとメタデータファイルがZIP形式でパッケージングされたもので、Webサイト構築のようにCSSや画像を使って文字や画像でページを装飾できる。DRM(デジタル著作権管理)機能は実装されていないものの、各ベンダーが実装するための構造も備わっている。XHTML(テキストベース)であることから、スクリーンサイズが異なるデバイスにも柔軟に対応できるだけでなく、文字サイズの変更も可能だ。音声機能が実装されているデバイスなら、本の読み上げもできるだろう。

広がり続けるEPUB市場

EPUBは無料で利用できるオープン形式であることから、すでに多くのデバイスやソフトウエアがEPUBに対応している。デバイスでは、「ソニー・リーダー」や米大手書店Barnes&Nobleが開発した「Nook」(www.nook.com/)。ソフトウエアではiPhone/iPod touch向けの「Stanza」(www.lexcycle.com/)やFirefoxでEPUBを読める「EPUBReader」(https://addons.mozilla.org/en-US/firefox/addon/45281/)のようなアドオンもある。

EPUBを作成するためのソフトウエアもいくつか出回っており、オープンソースの無料ソフトウエアなら「Sigil」(code.google.com/p/sigil/)がある。ワープロソフトのような感覚で文章が書けるだけでなく、コードビューからXHTML/CSSの記述も可能だ。また、Adobe InDesign CS4にはEPUB形式の書き出し機能が実装されている。現在はソフトウエアを使わず手軽にEPUBを作成する方法もある。「BookGlutton」(www.bookglutton.com/api/convert.html)は、HTML文書をアップロードするだけで自動的にEPUBに変換するサービスだ。また、「Feedbooks」(www.feedbooks.com/)のようなEPUB形式の書籍作成から配布まで、オンラインでできるサービスもある。このようにデスクトップ上だけでなくオンラインでもEPUBをつくる方法が出そろってきているので、今すぐにでも電子書籍を配信できる。

EPUBは今後“標準”となるのか

広く支持されているEPUBだが、課題点もいくつかある。画像を貼り付けられるものの、基本的にテキストベースでシンプルなレイアウトの電子書籍に向いている。したがって変則的かつ複雑なレイアウトで画像を豊富に扱う雑誌や漫画のようなコンテンツはそのまま再現できない。また、ビジネス書などで見られる注釈が加えられない、電子書籍の章から章へのリンクや複数の電子書籍間のリンクがつくれないなども問題点として挙げられている。iPadのプレゼンテーションでは目次から書籍の途中のページへ移動するシーンがあったが、これは米Apple社がEPUB形式に独自機能を加えたものと考えられる。現状、読者が満足いく使いやすさと魅力的なデザインを提供するには、EPUB形式をそのまま利用するだけでは難しい。よってオープンとはいえ何かしらの機能が追加されている場合、それぞれ独自のデバイスでしか読めないだろう。

標準化を目指しているとはいえ、機能と表現が少ない点や独自形式を採用している「Amazon Kindle」のようなライバルもいるので、今後市場を獲得できるか注目だ。2007年前に登場したKindleは、「Amazon.com」(www.amazon.com/)の持つ豊富な品ぞろえとサービスを利用して着実に利用者数を増やし、2009年のクリスマスシーズンでは本よりKindleの電子書籍が売れたと発表している。また、出版社・著作権保有者との値段交渉の進展も見逃せない。出版社は利益を得ると同時にコンテンツのコントロールを欲している。米Apple社、米Amazon社のような配信チャンネルを持つ企業と出版社のパワーバランスが崩れるとコンテンツ提供者側が撤退する場合もある。2010年のはじめ米Amazon社との値段交渉が難航した米Macmillan社は一時期、Amazon.comのストアの店頭から姿を消したというエピソードもある。こうしたせめぎ合いは以前から音楽やTV番組配信でもあったが、EPUB形式の普及も技術的な側面ではなく、電子書籍ビジネスがこれからどう動くかで決まるだろう。

Webサイト制作者の視点からいえば、XHTML 1.1とCSS 2.0のサブセットという若干古い仕様を採用している点が気になる。現在、W3Cのほうで動きが活発になってきているHTML5の動向やCSS 3の実装され方次第で、より操作性が高く表現豊かな書籍をつくれるかもしれない。今後、iPadのような魅力的な製品とiBookのようなソフトウエアがさらに充実することがEPUBの今後の発展の鍵だ。

IT15-1
「IPDF」の公式サイトにてEPUBの仕様文書を読める。
特にメタデータの記述方法に注目しておきたい
www.idpf.org/2007/ops/ops2.0/download/

IT15-2
国内発売が決定したiPadをはじめ、
EPUB形式をサポートしたデバイスがどれだけ普及するかが注目
www.apple.com/jp/ipad/

IT15-3
「Feedbooks」には個人出版したものからパブリックドメインの書籍まで
全5カ国言語1万冊以上の電子書籍が並んでいる
feedbooks.com/

Profile 長谷川恭久

デザインやコンサルティングを通じてWeb関連の仕事に携わる活動家。ブログやポッドキャスト、雑誌などを通じて情報配信中。
URL: www.yasuhisa.com/

本記事は『web creators』2010年5月号(vol.101)からの転載です。

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