日常的な距離感を保つユニークなSNS「Path」(前編)
日常的な距離感を保つユニークなSNS「Path」(前編)
2011年5月30日TEXT:小川 浩(株式会社モディファイ CEO 兼クリエイティブディレクター)
Path(パス)は日本ではまだ本格的な上陸こそしていないが、Twitterへの投資で知られるデジタルガレージが出資したことでも分かるように、近いうちに日本でも話題になるであろう新しいSNSだ。
Pathとは、英語で小径を指す。その名が示すように、FacebookやTwitterなどとは異なり、非常に小規模なコミュニティをつくるサービスモデルだ。具体的には、5000人まで友人を増やすことができるFacebookに対して、Pathではわずか50人までに制限されている。写真を中心としたシンプルなコンテンツを50人に制限された仲間内で共有し、コミュニケーションをとる――それだけのサービスがPathである。
TwitterがBlogのアンチテーゼとして登場し、140文字・タイトルなし・非マルチメディア対応という制限だらけで、一見素っ気ないほどのサービスを提供したことがかえってブレイクのポイントになった。Pathもまた、Facebookによって実名制のソーシャルネットワークの重要性が社会に認知されたことにより、逆にFacebookでできることを強く制限することで強力な差別化を果たすことに成功しているといえる。
この考えはマーケティング的に理にかなっている。たとえば、ディズニーランドは非常に安全かつ快適で、やや過保護的なテーマパークであるが、ユニバーサルスタジオは逆に危険や荒々しさを織り込みディズニーランドと差別化することで、新たなテーマパークとして非常にうまく市場参入を果たした。強者の強みに対して真逆なアプローチをとることは、マーケティング的な観点からとても有効なのである。
また、Facebookは人脈や出会いを求めて、たくさんの名刺ととびっきりの笑顔を用意して参加する華やかなパーティのようなものだ。米国内で先行していたMyspaceはFacebook以上に巨大なパーティであり、自分自身を目立たせることに誰もが狂躁する世界だったが、Facebookは学生同士、かつ実名のネットワークという制限を与えることでMyspaceよりも排他的で親密度を高めやすいパーティとしてのコミュニティを成立させた。
逆に日本においてFacebookがmixiの牙城をまだ崩せていない理由は、mixiがパーティとまではいかない小規模な仲間内の飲み会のような大きさのコミュニティにフォーカスしたことで巨大化しているためだ。つまりFacebookとmixiは本質的に異なるコミュニティであり、別の言い方をすると、補完関係をつくりやすい状態にあるからだ。
この意味でPathもまた、Facebookとは補完関係に落ち着くことが十分に可能だ。むしろ、サメとコバンザメのような共存を果たすことで、両者にメリットが生まれるかもしれない。ところが本格的な日本上陸を果たしたときには、mixiがPathの成長を阻む、もしくはPathが新たなmixiの競合になるだろう。
それにしても米国ではFacebookが君臨していても、その間隙を縫うようなSNSが誕生し、新たな可能性を追求する起業家や投資家の挑戦が続く。日本ではmixi以降、SNSに挑戦するような若者が絶えて久しい。この彼我の差はいったいなぜなのだろうか。
(後編に続く)
iPhoneアプリ版のPath
【お知らせ】MdN Design Interactiveのコラムも読める無料iPhoneアプリ「MdN News Reader」を公開しました、ぜひご利用ください。
MdN News Reader
URL:http://www.mdn.co.jp/di/newstopics/17571/
■著者の最近の記事
ネットベンチャー企業に浸透するイグジット戦略(後編)
ネットベンチャー企業に浸透するイグジット戦略(中編)
ネットベンチャー企業に浸透するイグジット戦略(前編)
iPad2で市場を席捲するAppleに死角はあるのか
Amazon EC2の障害で露呈したクラウドの留意点
オバマ大統領はソーシャルメディアマーケティングで再び奇跡を起こすのか(後編)
オバマ大統領はソーシャルメディアマーケティングで再び奇跡を起こすのか(前編)
[筆者プロフィール]
おがわ・ひろし●株式会社モディファイ CEO兼クリエイティブディレクター。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)、『仕事で使える!「Twitter」超入門』(青春出版社)、『ソーシャルメディアマーケティング』(ソフトバンククリエイティブ/共著)などがある。
twitter:http://www.twitter.com/ogawakazuhiro
facebook:http://www.facebook.com/ogawakazuhiro