ガムテープで文字を書こう ほか3冊
周りを驚かせるようなカッコいいアイデアやデザインは、一朝一夕で生まれるものではありません。情報や技術を取り入れつつ、日々感性を磨きながら、実践(現場)で鍛えていく。インプットとアウトプットのサイクルが大切。多忙なデザイナーのインプットを助けるべく、MdN Interactive編集部がオススメ本を紹介していくコーナーです。
心から伝えたい「新書体」作りを学ぶ
『ガムテープで文字を書こう』
監修・佐藤修悦/世界文化社1,429円+税
DTPアプリケーションのおかげで、誰でもやる気があれば独自の新しいタイポグラフを作れる現代。一時期のタイポ・ブームも一段落したが、それでも様々な媒体のクリエイションに「書体」というものはオリジナリティに書かせないエレメンツのひとつだ。本書はそんな現状を発想の転換で覆す、ガムテープで独自の書体を作ろうと勧める一冊。駅の案内板からはじまり、映画『まぼろしの邪馬台国』の題字に発展した「修悦体」を編み出した監修者による、ガムテープで心なごむ書体作りを指南する。
考えてみればタイポグラフィの“手作り”が基本となるが、ガムテープを素材に文字を編み出すというのは、たとえば学校の文化祭などでよくあること。しかし、アールを築いたり、構図などに微細な技術も必要となる。本書では必要となる道具や設計図を例に古典的かつチャーミングな新書体を作り出す技術を網羅する。PCディスプレイ上では醸し出せない“心から伝えたいメッセージ”を目指すデザイナーは必見かもしれない。そうした技術を学ぶマニュアルとしてだけではなく、修悦体を見いだした古書店経営者、美術評論家、修悦体にあふれたクリニックの方々のインタビューも併録。手作りの優しさに触れてみよう。
誰でもフォトグラファーの時代に必須なテクニック集
『デジカメ撮影のネタ帳』
荻窪圭/エムディエヌコーポレーション1,600円+税
10年前に比べると、デジカメの機能は格段に進化した。値段の手頃さにもびっくりするが、かつてお遊び程度だった画質のクオリティ・アップには驚くばかりで、プロ顔負けの新家電と言えるのではないだろうか? しかし、機能の高低にかかわらず、撮るのがうまい人はうまい。下手な人は下手。その違いはどこにあるのか……言ってしまえば携帯電話のカメラ機能でもプロ顔負けの写真を撮れる人はいるわけで、そこにテクニックのあるなしは愕然とあるのである。そうしたコツを学ぶには、感性だけではなく明らかにテクニックが必要とされるのは言うまでもない。
本書はデジカメを使い、ちょっとしたコツで「これイイじゃん」と誰もが褒めるような素敵な写真を撮るためのノウハウ集。人物、身の回りの日常、夜景や自然などの風景、旅先でのスティルライフなど、様々な場面に応じた“ベストショット”を撮るためのTIPSにあふれている。オートフォーカスや自動フラッシュなどの高機能にまかせず、そのときどきに最適なテクニックを学ぶことができよう。ビッグミニから始まった「誰でもキュートなフォトグラファー」時代。自分だけのオリジナル写真集も作ることが容易な時代に一冊手元に置いて損はない。
こんな時代だからこそ、生き残る“術”を切り拓こう
『デザイン業界はこれからどうなるのか』
山名一郎/ビー・エヌ・エヌ新社1,800円+税
なんとも言いがたい、身につまされる書名。副題は「明るい未来は見えるでしょうか」——出版不況は言うに及ばず、スポンサーとなる企業、代理店、私事になるがライター業界や写真業界だって「どうなるのか」わからない時代において、その突破口につながるきっかけを皆、探りあぐねているのが現状だ。どの仕事先でもしょっぱい話しか聞こえず、雑誌や書籍や広告、モノを作る商売は危機に面している。本書はそうした現状に直面しているデザイン業界の未来を“厳しく”かつ“希望を持ちながら”リポートしたものである。
業界を取り巻く現在の姿、現場における台所事情を挙げ、印刷会社との新たなインフラ&ワークフロー、デザイナーから提案するリ・デザインの力を実直に紹介。そして、それでもなお「デザイナーになりたい」と希望する若者たちへの提言をまとめ、前述したような厳しい時代を生き残る“術”を伝えようとしている。何度も言うが、この時代、苦労しているのはデザイン業界だけではない。ライターにしても編集者にしても、新機軸となる企画を考えなければならない現状にあり、本書の提言するテーマは形はどうあれ、あらゆる産業に当てはまるのではないだろうか。
異形の日常性と群像の息吹
『若き日本人の肖像』
吉永マサユキ/リトルモア2,800円+税
吉永マサユキ氏の大判プリントを、小1時間かけて眺め回したことがある。2006年、水戸芸術館で開催された企画展『ライフ』でのことだ。そこで吉永氏は、会場のド真ん中の大きな一室において暴走族のヤンキーたちを撮った『族』シリーズを多数出品していたのだが、茶髪のキュートな女子2人がタンデムした1枚に目をヤラれた。水戸美術館に行ったのは他の理由があったのだけど、あの1枚のプリントの前で私の時間は止まってしまったのを思い出す。そして吉永氏の写し取る「異形の日常性」を深く考えたものだ。
1964年大阪に生まれ、水商売やテキ屋、運送業などの職歴から写真家となった吉永氏。前述した『族』は氏の代表作として作品集にもなっているが、その以外にもチーマー、コギャル、在日外国人など、いわゆる日本のマイノリティ(しかし非日常ではない)を撮り続けてきた無頼派カメラマンである。そんな氏が新たな写真集を刊行。『若き日本人の肖像』と題し、消防団、子供会、ボクシングジム、暴走族、ホスト、ホステス、ちんどん屋、お祭り、レースクイーン……といった“TRIBE”の群像を集合写真として活写している。氏が10年あまりの日々を通して撮り続けてきたライフワーク集とも言える本作、そのどこにも生々しい人間の息吹が感じられるようだ。
(文・増渕俊之)
更新日:2009年5月20日