マグナム・フォト東京支社ディレクター小川潤子氏。「マグナムが撮った東京」を開催するにあたっておよそ3年前から準備を進めてきたとのこと

多彩なスタイルの作品を楽しめるのも本展の見どころだ
all photographs ©Magnum Photos
これまで、数多くのマグナム・フォトの写真家が東京を訪れて作品を撮影してきました。そこで、今回は東京におけるマグナムの活動を振り返る意味も込め、マグナム草創期から現在までを年代ごとに6つのチャプターに分けて、彼らの視線から見た東京がどのように変わってきたのかがわかる構成にしています。
マグナムのメンバーには、1950年代にカラー写真を撮影していたロバート・キャパのような人もいれば、ブルース・ギルデンのように現在でもモノクロ写真作品を生み続けている人もいます。基本的に新しもの好きの人たちですから、デジタルカメラやデジタルプリントを積極的に取り入れている作家も少なくありません。また、ドキュメンタリーという共通項はありますが、報道系の作品ばかりではなく、夜をテーマにプライベート写真を撮り続けているアントワン・ダガタのような芸術系の作家もいます。このようにさまざまな視野、角度からマグナムの写真を見ていただけるのが本展のみどころのひとつです。
今回、こうした多彩なスタイルの作品を作家の意図に忠実に表現するため、大判インクジェットプリンタを展示する多数の写真作品の出力に使用しました。とくに、モノクロ作品をインクジェットで出力して展示するのは、これが初めての試みです。こうしたデジタルならではの可能性と表現も、現代ならではの本展のみどころのひとつでしょう。
半世紀にわたって東京がどのように変遷を遂げていったのか、マグナムの作品を通してみなさんそれぞれに感じ取ってもらえたらうれしいですね。ぜひみなさんに楽しんでいただきたいです。
「マグナムが撮った東京」は、マグナム・フォトが創立された戦後から現在までに撮られた作品を、10年単位の期間ごとに分類し展示している。あわせて6つの時代に分けられた各チャプターには、その時代性というものが色濃く反映されており、在りし日から現在までに東京がどのように姿や形を変えていったのかが手に取るようにわかる構成となっている。ここでは、各時代のテーマと会場のゾーン構成を紹介しよう。
第二次大戦終結後、連合国軍の占領下にあった日本の首都・東京にマグナムの写真家は多く訪れた。街頭で歌って日銭を稼ぐ傷痍軍人や、自転車で赤坂の街を走る進駐軍兵士などを写した戦争の傷跡生々しい写真から、美麗な洋装をまとって銀座の街を闊歩する婦人を撮影した復興への希望を感じさせる作品など、内容は多岐に渡っている。日本が主権を回復し「もはや戦後ではない」と当時の首相が言ったのもこの時代。カラー作品も多く、50年前の姿とは思えない残像が新鮮に甦ってくるゾーンとなっている。
建設ラッシュ、東京オリンピック、車社会化、ビートルズ来日、核家族化──いわゆる“高度経済成長時代”の中心となった1960年代。戦争の傷跡も癒え始め、人々が希望をもって生きてきた時代を写した作品群のゾーンがここだ。カラーテレビが急速に普及し、日本人が好きなものとして「巨人・大鵬・卵焼き」などの流行語も生まれた。ダグアウトから撮影したスーパーヒーロー長島茂雄、東京オリンピックで金メダルを受賞する柔道選手、市川團十郎の告別式で泣く婦人たちなど、成長し続ける東京の明と暗が切り取られている。
中東危機による影響でオイルショックに陥り、高度成長時代の終焉を迎えた1970年代。安定成長期に入って人々は豊かになり、スポーツ、音楽、デザイン、マンガやアニメなど日本ならではの文化が花開く一方で、三島由紀夫の自決やあさま山荘事件、ロッキード疑獄による首相の逮捕、成田空港の開港反対闘争など、同時に暗い影も落としていた。学生と機動隊の衝突シーンや、市場で競られたマグロを大きく写した作品など、このゾーンに展示されている作品群はまさにこの時代の両極を捉えた作品群で構成されている。
日経平均株価が史上最高値を達成し、日本企業が欧米企業をM&Aするなど“バブル景気”の中心となった1980年代。世相は、JRやNTTの発足、東京ディズニーランド開園、「おしん」ブーム、CDやファミコンの登場、男女雇用機会均等法の成立など、現在の日本の礎となる動向や事象が無数に続いた時代だ。昭和天皇が崩御し、元号が昭和から平成に変わったのは1989年。マグナム・フォト東京支社代表でもある会員・久保田博二氏による「大喪の礼」を間近から撮影した作品もゾーンの重要な一画を占めている。
80年代から続くバブルの狂乱が突如、終幕を迎えた1991年。それまでの空虚な馬鹿騒ぎから一転、「失われた10年」という呼び名がついたのもこの時代だ。阪神大震災や地下鉄サリン事件といった大きな事件が発生、インターネットが普及。“公”から“個”へと人々の関心が移行していったのにつれ、東京のカルチャーもまさしくカオス──混沌とした様相を呈している。そんな時代性を反映してか、マグナムの作品にもドキュメンタリーでありながら、アーティスティックな色彩を帯びた写真がこの年代には増えている。
「2000年問題」や「ミレニアム」などと騒ぐほどには大きな影響はなく、普通に突入していった新世紀。その語感とは反して、明るい話題はけっして多いとはいえず、「少子化」や「格差社会」といったネガティブな物言いが目立つそんな時代だ。六本木ヒルズのような美しくも、旧世代にはなんとなく威圧感のあるような建造物が新しく登場し、いままでとは違う日本の姿に誰もが気づき始めた。ここでは2006年までに撮影された新しい世紀の写真が展示されている。ひとりの作家による組み写真もあり、見どころのひとつだ。
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2007/4/6 FRI 00:00


