昨年から、ソフトバンクのCMなどでお茶の間にも徐々に浸透しつつある、パーソナルロボット「Pepper」。2月27日には開発者向けの初回生産分300台に対して約1分間で販売予定数を上回る申し込みがあり、大きな注目を集めています。一般家庭向けの販売は2015年夏頃となる見込みで、いよいよ“ロボットのいる未来”が視野に入ってきました。そんな中、Pepperにインストール可能な“ロボアプリ”開発も盛り上がりを見せています。本記事では、2月22日に行われた「Pepper App Challenge 2015」の決勝大会で審査員を務めたアーティストのスプツニ子!氏と受賞者の方々のインタビューを中心にご紹介していきます。
「Pepper App Challenge 2015」では、最優秀賞の他に、ベスト・テクノロジー賞、ベスト・ユーザー・インターフェース賞など6つの視点での賞が設けられ、それぞれ審査員が独自に選出を行いました。審査員のスプツニ子!さんは「ベスト・クリエイティビティ賞」としてマッキー小澤さんの「Pepperのクロースアップマジックへの挑戦」を選出。まずはスプツニ子!さんにベスト・クリエイティビティ賞選出の経緯から、ロボアプリの可能性についてお話を伺いました。
パーソナルロボット「Pepper」は、デベロッパーが開発した“ロボアプリ”をインストールできることで、多くの開発者から注目を集めています。「Pepper App Challenge 2015」には約100作品の応募があり、決勝大会には予選を突破した10作品が登場。審査員には、山海嘉之氏(サイバーダイン株式会社 代表取締役社長)、安生真氏(Google Developer Expert)、中野俊成氏(よしもとロボット研究所 チーフプランナー)、大和信夫氏(ヴイストン株式会社 代表取締役)といった開発の最先端の方から、MIT(マサチューセッツ工科大学)メディアラボで教鞭をとるアーティストのスプツニ子!氏や、女優でプログラマーの池澤あやか氏など、幅広い分野のメンバーが出揃いました。Pepperのロボアプリは、特にプログラミングの知識がなくても簡単に使える開発環境ということもあり、プログラマーのみならず、デザイナーやWebクリエイターなど、これまでロボット開発とは無縁の分野の方々も続々とチャレンジをはじめています。
──スプツニ子!さんが選ばれたベスト・クリエイティビティ賞の「Pepperのクロースアップマジックへの挑戦」について、どんなところに魅力を感じられたのか教えてください。
スプツニ子! ●今回、決勝まで進んだ作品の中で、このマッキー小澤さんの作品がいちばんPepperのキャラクターや動き、個性などの背景を理解していたと思います。また、Pepperと小澤さんが連携して動かないとマジックが成立しない部分もあって、それも面白かったですね。小澤さんによると、実際にマジックの細かな動きをPepperにさせるために、いろいろな工夫をされているそうです。そういった独創性も良かったと思います。
──確かに、あの作品でのPepperの手の動きは素早く繊細で、人間のマジックにも見劣りしない魅力を感じました。
スプツニ子! ●SF作家として有名なアーサー・C・クラークの言葉に「高度に発達したテクノロジーはマジックと見分けがつかない(Any sufficiently advanced technology is indistinguishable from magic. )」というのがあるんですが、実は、ちょうど今期から「マジックとテクノロジー」をテーマにMIT(マサチューセッツ工科大学)メディアラボで授業を行っています。これは、実際にマジシャンのマルコ・テンペストのマジックショーを、MITの学生が一緒につくるという取り組みです。マジックで鳩を出したりするのをテクノロジーで本当に実現しようと思ったら大変ですけれども、人間の錯覚の力を利用しながらリアルテクノロジーを組み合わせて新しいマジックをつくるという試みです。ですから、マッキー小澤さんにも授業に来ていただいて、何か新しい作品を生み出す取り組みができたらいいなと思いました。
──それはとても楽しみです! その他、今回の選出作品全体をご覧になって感じたことを教えてください。
スプツニ子! ●全体に、もっと激しく脱線して欲しかったという思いはありますね。意外とみんなちゃんとやってきたな、というか(笑)。介護や受付といった利用用途は、みなさん結構考えられるところなんですが、マッキー小澤さんの“マジック”というアイディアは、彼自身の独創性、はみ出したクリエイティビティを感じられて、それがとても良かったと思います。テクノロジーがハイスペックかどうかは、そこまで重要じゃないんですよね。そういう意味で誰もが制作に参加できる“ロボアプリ”を搭載したPepperは進化する余地がありますし、アイボの時代とはまた違う、新しい時代が始まったという感じがします。
──私たちが子供の頃にSF作品で夢見ていた“ロボットと共存する社会”がほぼ実現することになるわけですが、まだあまり一般の方は実感を伴わないかもしれません。
スプツニ子! ●テクノロジーって、とりあえずつくってからできることが見えたり問題点が見えたりすることがありますよね。たとえばロボットが社会に本格的に出てくるとなると、きっとルール作りを先に始める人が出てくると思います。でも、何か規制をかけられちゃう前に、やれることを全部やってみることが大事なんじゃないかなと思います。それで価値観やモラルがガラっと変わるかもしれないという気がします。たとえば、Facebookでプライバシーがほとんどない状態になったけれども、もうそれは「ポイント・オブ・ノー・リターン(帰還不能点)」といいますか、そういう時代に生きていくという心構えでみなさん利用していますよね。そういったことは、ロボットの未来でも似たようなことが起きるのではないかと思います。
──受賞おめでとうございます! 手に持ったスポンジボールが現れたり消えたりするマジック特有の動きを、ディスプレイと手の巧みな動きで表現する作品で、会場の注目を集めていましたね。
マッキー小澤 ●最初は、Pepperにマジックをさせる考えは全くなかったんです。ロボットに何をさせたら面白いのかわからないまま開発ツールを入手し、何もわからないまま、昨年の12月に行われた第3回目の「Pepper ハッカソン」に参加しました。その時に、若いエンジニアのお二人が私のアイディアを手伝ってくださって、透視マジックの作品を完成させることができたんです。その時、私はなすすべもなく見ているばかりで……彼らの能力の高さに驚き、刺激を受けたと同時に、自分の能力のなさを思い知らされました。そこで、自分も独自の作品をつくりたいと考えて、今回の「Pepperのクロースアップマジックへの挑戦」に至りました。
──マッキーさんは、普段マジシャンとして活動されていらっしゃるのですか?
マッキー小澤 ●いえいえ、完全に趣味ということでステージは数えるほどしか立つ機会がありませんでした。ただ自分で練習して、職場や周りの数人に時々見てもらうくらいで……、普段は普通の会社員です。今回のマジックもおもしろ動画として投稿して見てもらおうと気軽に考えていたのですが、何人かの方に見ていただいたら、「これはいい」と評価いただいて、それで僕もその気になって1〜2週間でシナリオをつくって、作品として応募することになりました。
──マジックというのは、老若男女、世界中の人が楽しめるエンタテイメントですね。
マッキー小澤 ●マジックの世界では個性5割、技術4割、ネタ1割と言われるぐらい、個性が重視されるんです。同じマジックでも、マジシャンによって全く違ったものになります。ペッパーはロボットですから、人間に似せた動作でマジックを演じるよりも、ロボットの動きからくるぎこちなさを活かす方が、ペッパーが一生懸命にやっている姿として見ている方にうつり、それが彼の個性となれば良いなと思いました。
──スプツニ子!さんは、マッキーさんにぜひMITの授業にゲストとしてお呼びしたいとおっしゃってました。
マッキー小澤 ●光栄です。何ができるかはわかりませんが……。
※実際のマッキーさんのマジックを見たい方はこちら
見事、最優秀賞とベスト・ソーシャル・イノベーション賞のダブル受賞をしたのがプロジェクトチーム・ディメンティアによる認知症の改善に役立てる「ニンニンPepper」です。このロボアプリは、認知症の高齢者に対して会話によるコミュニケーションを取りながら、毎日決められた時間の薬の摂取や、孫の写真をきっかけに認知症の程度を探るなど、さまざまな試みを行うもの。会場では実際にPepperと対話する様子が実演され、その受け答え内容をPepperがポジティブ、ネガティブなど判断するところまでを見せてくれました。
プロジェクトチーム・ディメンティアは、2014年12月に開催されたPepperをテーマとしたアイデアソンに参加したメンバーを中心に構成されており、高齢化社会、医療の分野にそれぞれ問題意識を抱えたメンバーが揃っています。今回はリーダーである吉村英樹氏(フューブライト・コミュニケーションズ株式会社・取締役)と、アイデアソンを企画した阿久津靖子氏(LMDP代表/MTヘルスケアデザイン研究所代表取締役所長)、坂田信裕氏(獨協医科大学教授)の3人を中心にお話を伺いました。
──2014年12月のアイデアソンは阿久津さんが発起人だそうですね。
阿久津靖子 ●私は2006年から「LMDP(LIFE & MEDICAL DESIGN PLATFORM」という団体で、“デザイン”をキーワードに健康や医療、福祉の分野をより良くするための活動を行ってきました。Pepperを初めて見た時に、認知症などの高齢化社会が抱えるさまざまな問題を解消できる可能性を感じ、アイデアソンを企画しました。アイデアソンではチームを5つに分け、それぞれにエンジニア、デザイナー、医療関係者が入るように振り分けました。ここにいるメンバーはその中のチームのひとつです。Pepperのアイデアソンで出会った人たちなので、いわばPepperが繋げてくれた縁です。
──リーダーの吉村さんにお伺いします。今回の開発チームは大所帯ですが、どのように意見を集約し、まとめていったのでしょうか。
吉村英樹 ●みんなそれぞれ仕事を持っているのでアフター5を使っての開発ですし、住んでいる場所も東京、栃木、仙台とバラバラだったので苦労する部分もいろいろありましたが、開発期間としては1ヶ月半ほどでつくることができました。アイデアソンでベースとなるものをつくり、その上で、各自が長年温めてきたものを持ち寄ってつくり上げていった感じです。チーム内に実際に医療関係者がいて、そのリアルな意見をもとに、つねに「現場のためにどうするか」ということでみんな動いていましたね。
──介護などの現場におけるロボットの需要というのは、どの程度、期待されているのでしょうか?
坂田信裕 ●ロボットがそのまま介護士の代わりをするのではなく、介護士が離れているほんの少しの時間、20分とかそういった隙間の時間に、レクリエーションとしてPepperがみんなを惹きつけて落語をしたりゲームをしたりすることで、介護士の業務の負担を少しでも軽くしてあげることができるのではないかと、そういった可能性を考えています。授賞式では審査員の方に「これだけ熱いチームはない」とおっしゃっていただきましたが、メンバーみんな、この先もずっとプロジェクトにたずさわって実現したいと思う気持ちにあふれています。それがみなさんに伝わったのではないかと思います。
「Pepper App Challenge 2015 ~ スペシャルムービー」。2月22日(日)に開催された決勝大会の様子です。ダイジェストで閲覧できます。また、「第2回 Pepper App Challenge Winter(仮称)」の年内開催が決定!! 次はどんなロボアプリが登場するのか!? 乞うご期待。
スプツニ子!氏が語るように、Pepperのロボアプリにおいて重要なのは、クリエイターや企画・演出家、またはある道の現場のプロの視点からの独創的なアイディアがキーになると言えます。Pepperをいわゆるロボットとして見るのではなく、人の形をしたデバイスと見たときに、その可能性は無限大になるはず。また、スマートフォンを代表する既存のデバイスと比べ、ユーザーに主体的に働きかける点も大きな特徴です。ソフトバンクロボティクス株式会社代表取締役の冨澤文秀氏は、最後のあいさつで、今年、再度「Pepper App Challenge」を開催することを明言していました。今後の展開がますます楽しみです。
クリエイターのみならずPepperに興味をお持ちの方は、実物のPepperに触れながらアプリ開発の体験ができます。ソフトバンクロボティクス株式会社が運営する「アルデバラン・アトリエ秋葉原 with SoftBank」では、Pepperの開発の基本を学ぶワークショップやタッチ&トライなどを随時開催しています。アプリ開発の基礎が学べるワークショップや、自由にアプリ開発を体験できるタッチ&トライで、まずはアルデバラン・アトリエ秋葉原でPepper開発の楽しさや面白さを体験してみましょう。
※参加費は無料です。どなたでもお楽しみいただけます。
●アルデバラン・アトリエ秋葉原 with SoftBank
url. http://www.softbank.jp/robot/developer/atelier/akihabara/
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