第1話 発想を定着できる場所 | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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旬のアートディレクターをお迎えして、デザインする際の思考プロセスを伺うとともに、創作のスタンスに迫るこのコーナー。第8回目は中村至男氏。第1話では、マガジンハウスの雑誌「relax」や「Casa BRUTUS」に連載され、昨年9月に書籍化を果たした「勝手に広告」を紹介する。



実は広告ではない、
「勝手に広告」は実験的な「表現」




──まずは今回紹介させていただく「勝手に広告」の企画概要について教えてください。

中村●佐藤雅彦さんと一緒に考えてつくってきた、雑誌でのグラフィック連載です。世の中の商品や企業ロゴを使いながら、新しい考え方や表現、解釈などを、実験的に試していきました。タイトルに「広告」と銘打っていますが、広告と言うよりは「表現」の発表の場として、連載を開始しました。



「勝手に広告」マガジンハウス刊 「watertower」Vittel  (c)Norio Nakamura + Masahiko Sato
──タイトルだけ見ると「新しい手法で広告を作っている連載」と受け取る読者も多いと思いますが、あくまでも「作品」なのですね。

中村●そうです。本当に自分勝手なのですが、「表現」を見せるための場として「勝手に広告」という「容れもの」を作ったわけです。勝手に着想しているので、昔からやってみたかったことを試したり、思い切っていろいろなことを実践できました。

──具体的に作品をいくつか紹介してください。

中村●基本的に毎月4ページずつの連載だったんですけど、たとえば最初の見開きで真っ暗な背景の中にNという文字だけがあって、読者は「これは何だろう」と思う、次の見開きで全体像を見せて、その文字が靴のロゴであることがわかるような作品があります。これは「ロトスコーピング(rotoscoping)」という考え方を定着させているのですが、まさに考え方から表現に導いた作品なんです。

──なるほど。そのほかには、どのようなものがありますか?


「カシオの兵隊」カシオ計算機 (c)Norio Nakamura + Masahiko Sato 撮影:ホンマタカシ
中村●おもちゃの兵隊と、めちゃくちゃな数字が打たれている計算機の写真は、おもちゃの兵隊がキーの上を踏んづけて行進したという物語を想起させるのです。これも、このようなアイデアや世界観を表現したかっただけで、その先に他の深い意図があるわけではないんですね。つまり「勝手に広告」の作品は、「広告」として捉えたら不完全なものばかりなんですよね。商品が売れるかどうかまでは考えていないので。だから、タイトルに「広告」と付けておいて申し訳ないのですが、「広告」と勘違いされると困るんです(笑)。このタイトルは、なじみのあるもの(商品やロゴ)が使われているという、その作品世界にはいるための「入口」のようなものなんです。

──これらの作品をはじめ、「勝手に広告」には、さまざまな発想が盛り込まれてきましたが、どのようなプロセスでアイデアを思い浮かべているのでしょうか?


「グリコシティ」江崎グリコ (c)Norio Nakamura + Masahiko Sato 撮影:ホンマタカシ
中村●「グリコシティ」のように、絵から思いつくものもあれば、考え方から絵を導き出すものもあるし、もっと生理的な質感や、理由のつかない思いつきから始まるものもある。特に決まった方法はないですね。考え方の癖はあるかもしれませんが……。

──デザインの進め方として、現在では作るものすべてに対して何らかの「意味」が求められ、その「意味」に向かって制作することが多いように思うのですが、いかがでしょうか?

「鉛筆の森」三菱鉛筆 (c)Norio Nakamura + Masahiko Sato 撮影:ホンマタカシ 中村●「勝手に広告」に関しては、自主的にやっていることですので、単純に「こんな世界を作りたい」「この考え方を定着させたい」との欲求に基づいて作っています。グラフィックデザイナーとして個人的に目指していることは、説明してわかるのではなくて、それ以前にわかるようなこと。たとえば、ある食べ物を「旨い」と思うときに、人間は「この甘みと苦みの混ざり具合が自分にピッタリだから……」と考えるわけではなくて、瞬間的に理屈抜きで「旨い」と感じるはずです。そのような説明以前に“わかる”感覚を視覚化することができたらいいなと思っています。

──普段の仕事で実現できないことも多いでしょうが、この連載で得たものは大きいのでしょうか?

「牛乳石鹸の群れ」牛乳石鹸 (c)Norio Nakamura + Masahiko Sato 撮影:ホンマタカシ 中村●確かに、毎月新しいアイデアをアウトプットできることはすごく幸せなことです。「ほかの仕事で実現できないようなことやって楽しいでしょ?」とよく言われるのですが、そんなことはけっしてなくて、ある意味、規制や条件のある仕事のほうが、もっとやりやすいですね。毎回新しいアイデアを提示し続けなければならないし、レベルは落とせない。そして、そういう自主的なモラルを管理するのも自分だし……。でも、そこで悩むのはお門違いなんです。なにせ「勝手」にやっているわけですから。


──苦労がありつつも連載が続いたのは、やはり「作りたい」という衝動が勝ったのでしょうか。

「リッツトラック」ヤマザキナビスコ (c)Norio Nakamura + Masahiko Sato 中村●そうですね。連載も終盤に差し掛かると、考えては作る自転車操業状態だったのですが、いったんアイデアが空になると、また違うものがなんとか出てくる。打つ手がないから打席に立たないのではなくて、打つ手はないけど取りあえず打席に立たされる状況だと、ボールが来て打ててしまうことも多いんです。追いつめられたからこそ新しいものが出たこともけっこうあります。その意味では、まず最初に「勝手に広告」という「容れもの」を作り、「連載」という「打席」が毎月めぐってくることが、続く原動力としてとても大きかったように感じています。どうしたって締切は待ってくれませんから。

(取材・文:佐々木剛士 人物写真:谷本夏)


次週、第2話は「過去の作品を振り返る作業」について伺います。こうご期待。

[プロフィール]
なかむら・のりお●1967年、川崎市生まれ。日本大学芸術学部卒業後、Sony Music Entertainment入社。97年独立。主な仕事に、PlayStationソフト『I.Q』、『ポケ単』のプランニング・アートディレクション、99年『広告批評』表紙、おもちゃ『ポンチキ』、明和電機のグラフィックデザイン、NHKみんなのうた「テトペッテンソン」の映像、企業ロゴや商品を用いてアートの視点から発表してきた「勝手に広告」などがある。




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