第1話 蓄積によるイメージの確立 | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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旬のアートディレクターをお迎えして、デザインする際の思考プロセスを伺うとともに、創作のスタンスに迫るこのコーナー。第10回目はBluemarkの菊地敦己氏。第1話ではファッションブランド「Sally Scott」に関するポスターやDMなど、一連のグラフィックデザインを紹介する。



第1話 蓄積によるイメージの確立





企て過ぎずに集積された
自然なイメージ



──今回ご紹介いただくのは、菊地さんが長期間にわたり手がけてらしゃる「Sally Scott」関連の制作物です。携わっている期間は何年くらいになりますか?


菊地●このブランドを始めたのが2002年の春で、僕はスタート当初から関わっていますので、ちょうど6年目に入ったところです。


──「Sally Scott」とは、どのようなブランドなのでしょうか?


菊地●「ミナ ペルホネン」のデザイナーである皆川明さんが、洋服のディレクションをされているブランドです。アパレルでは、スクラップ&ビルドによってイメージを作っていくブランドも多いのですが、このブランドのコンセプトは違います。市場に合わせてイメージを変えるのではなく、お客様にしっかりと約束できる内容を蓄積していくスタンスで開始されたのです。だから、ポスターやポストカードなども、ある程度の期間は同じフォーマットで続けていこうと当初から考えていました。











──ころころと方向性を変えるのではなく、年月をかけて育ててきたわけですね。そのイメージとは具体的にどのようなものですか?

菊地●「Sally Scott」という架空の女の子を設定して、その子が洋服を作っているイメージです。だから、店舗の内装も、彼女の部屋を想像できるつくりになっています。僕はこのプロジェクト全体が、彼女の伝記映画のように捉えています。










──DMのグラフィックに関しても、その女の子のイメージで統一されているわけですね。


菊地●そうです。イラストのモチーフに少し季節を感じさせるようなものを選んだりしながら、旅先から手紙を書くイメージで仕上げています。パーソナルなコミュニケーションの雰囲気を伝えたいと考えています。












──シーズンごとの商品に合わせて、モチーフを選ぶことはないのですか?

菊地●その時々の商品とは、あまり合致させていません。あるシーズンの商品を広告するために、同じコンセプトで展開するビジュアルは、奥行きがないように感じられたからです。もちろん短期的なレスポンスを得るためには、そのような手法も有効ですが、この仕事に関しては長い期間をかけてブランドに愛着を持ってもらうことが目標でしたので。


──それでは、毎回のモチーフを決める際には、何を基準としているのでしょうか。


菊地●「今日はアイスクリームを食べた」「散歩をしていたら薔薇を見つけた」など、女の子の小さな日常の発見を感じさせるものを意識しています。ただ、個別に見ていくと、それほど「女の子」を意識させるものではないんです。全体的に俯瞰したときにブランドのイメージとして成立していることが重要であって、個別のモチーフがかわいい必要はない。むしろ、1つ1つをかわいいものでベタに固め過ぎてしまうと、全体で見たときに広がりがなく、ただの再生産になってしまいますしね。そうするとイメージが風化してしまう。











──モチーフを選ぶ際には、それまでの作品を見直しながら考えるのでしょうか?


菊地●あまり改めて見直すことはありません。それ以前の作品を並べながら次のモチーフを考えると、どうしても作為的になってしまいますので。その時々に考えたことを集積させるほうが自然なんですね。

──なるほど。あまり企て過ぎないように配慮されているわけですね。

菊地●そうです。ただ、印刷の版の設計などはすごく細かく計算しています。毎回、3色か4色くらいの特色を使用していますが、各版を個別に描いて、印刷時に重ねています。つまり、版のズレのようなものが、データ上ですでに描かれている。それによってノスタルジックな雰囲気や質感が表現されているのです。

──そのようなプロセスで「Sally Scott」のイメージが蓄積されてきたわけですが、最新のポスターでは、やや趣を変えたそうですね。


菊地●もう少し違う方向にも奥行きを広げていこうと考えました。角度を変えることで、今まで面で見えていたイメージを、立体的に広げたかったのです。だから、ブランドのコンセプト自体を大幅に変えたわけではありません。たとえば、これまでのポスターでは、一貫して「ショップの窓」をコンセプトとしていて、そこから見える風景を想像しながら描いていたのですが、もう少し具体的な内容をもたせていくなど、許容範囲を広げていくつもりです。初回では馬をモチーフにしていますが、次はまったく違うことをやってもいいかもしれません。












──そのように、何らかの変化を加えられるタイミングを見極めることは、長期間にわたって携わるアートディレクションでは重要ですね。


菊地●幅を広げるための器を今までの5年間の蓄積によって確立できたからこそ実現できるわけです。初めからそれをやってしまうと、ブランドの世界観が明確でなくなってしまいますからね。

(取材・文:佐々木剛士 人物写真:谷本夏)


次週、第2話は「個人的な探究心と仕事との合致」について伺います。こうご期待。







[プロフィール]
菊地敦己(きくち・あつき)●1974年東京生まれ。武蔵野美術大学彫刻科在学中の1995年に「ネオ・スタンダード・グラフィックス」を設立。1997年「スタジオ食堂」のプロデュースを経て、2000年に「ブルーマーク」を設立。ロゴマークやポスター、書籍、音楽CDなどのデザインのほか、長期に渡るブランディングも得意とする。展覧会企画や出版など非営利な活動、カフェのプロデュースなども手がける。2006年日本グラフィックデザイナー協会新人賞のほか東京ADC賞、NY ADC賞などを受賞。




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