第3話 「Webならではの方法論」 | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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2003年に設立された(株)ベースメントファクトリープロダクションは、メインであるWeb制作業務においてデザイン、サウンド、映像、プログラム、サーバー構築まで、クリエイティブに関するすべてを自社で手掛ける「トップクリエイター集団」として注目されている会社である。
「トヨタ自動車」「アサヒビール」といった大手クライアントをはじめ、様々な業種から高く評価されているのは、彼等が表層的なデザインだけではなく、ユーザー側のことをきちんと考えた広告をつくることができる、真面目に広告に取り組むクリエイティブチームだからでもある。今回はそんな(株)ベースメントファクトリープロダクションの代表である北村 健氏に話を伺った。

第3話 「Webならではの方法論」



ーー会社設立以来、変化してきたことはありますか?

●北村:スタッフの人数も増え、仕事の進め方やハード面等、細かい部分では多少の変化はありましたが、基本的なスタンス、軸の部分はなにも変わっていないですね。常に真面目に取り組む姿勢でWeb制作に臨んでいます。

例えば「PIP」という技術を世界市場で最初に商用化したことで多方面で取り上げられて、注目された部分がありましたが、それ自体は注目されることや、Web業界で高く評価されることを狙ったわけではありません。会社を設立した時から「PIP」というスタイルは広告としては正しいと考えおり、回線やインフラ、コンピュータのスペックの問題が解消され、実現可能になったので実用化に踏み切っただけの事なのです。でもそれが世間的には新しい技術、新しい手法という部分でピックアップされて、広告としての価値よりもそういった目新しい部分だけが独り歩きしてしまった感が少なからずありました。

前回の話にもリンクしてくるのですが、本当に新しいとか古いとか、そういったことはどうでもいいと思っています。高く評価されることは嬉しいのですが、あくまでも広告としてどうなのか?クライアントやユーザーのニーズをきちんと満たせているのだろうか?どのような結果に結びついているのか?そういった事の方がずっと大切で私たちが知りたい事なのです。たまに「賞を取りたい」「話題になる作品をつくりたい」といった相談を受けることがあるのですが、それは私たちの制作に対する姿勢に相反するリクエストですので、もちろん仕事としてお受けすることはありません。




ーーそれはクライアントに親身で接しているということですよね。

●北村:そうです。弊社はお陰様で一度お仕事をご一緒させていただいたクライアントさんから、再度オーダーしていただく事が非常に多いのです。それは前述しましたように私たちの姿勢を評価していただけた結果だと受け止めています。


ーーWebというメディアについてどう考えていますか?

●北村:Webにはメディアとしての高い価値があるのですが、単体のメディアとしての価値ではなく、どちらかといえばインテグレート的な考え方のほうが個人的には強いんです。全てのメディアにはコンタクトポイントがあって、Webの役割、TVの役割といったようにそれぞれ住み分けられていると思うんですね。その辺りをきちんと意識して私たちはものづくりをはじめます。単にWebサイトをつくるということが目的ではなく、他のメディアとの立ち位置やバランスを考え、Webの役割を理解した上で組み上げていくことが重要だと思っています。

メディアに関するコンシューマーの知識は高くなっていますし、メディアに対する見方もシビアになってきているのではないでしょうか。今の世の中、情報が氾濫していますし、企業が一方的に提供する情報に関して、あまり興味を示さない傾向があるように感じます。例えば他人が「これすごいよ」って紹介したもののほうが非常に良く見えて、興味が湧く。こういった状況下で、インタラクティブなメディアであるWebを使ってどのようにコミュニケーションをとって、価値をあげていくかということが重要になってくると思うのです。

近年では人のライフスタイルも大きく変わってきていますよね。昔はTVCMを見て興味を持ち、お店に出向いてカタログをもらって、店員さんに情報を聞くといった流れが当たり前でしたが、今ではTVで気になるものが出てきたら、即座にWebで検索し、様々な情報を引き出す。しかも24時間いつでも好きな時に好きなものだけを好きなだけ調べたり見たりできる。そういうメディアって昔はなかったわけですから、既成概念に捕らわれず、Webという新しいメディアに携わる者は常に新しい発想、切り口でより効果的に表現する事を考えなければいけないですよね。

Web業界にいるとどうしても自分達のリテラシーでものを考えがちになってしまいます。いくらインフラが整備され、インターネット利用者が爆発的に増えたとしても、その多くの利用者と私たち制作側が普段当たり前と思っているリテラシーとはもちろん大きなギャップが存在します。そのギャップを忘れてはなりません。業界で話題だったとしても、現実的には広く知られていなかったり、業界で成功したと言われても、一般の人たちにはまったく無縁であったり。そういった事がたくさんあるというのは認識しておくべきですね。「常にユーザー視点で物事を考える」。この当たり前の事が実は非常に難しかったりするのです。


ーーデザイン的にこだわっていることはありますか?


●北村:ケースバイケースで一概には言えませんが、デザインに関して特に「こだわっている」という感じではないですね。情報誌に求められるようなデザインをしている部分も多くあります。映像や写真がきれいに見ることができ、ユーザーが求めている情報を的確に伝える。ユーザーが欲しい情報へちゃんとナビゲーションできて、その目的地まで迷わずにいける事。それらはイコール使いやすいという事で、私たちにとっては非常に大事なことなのです。デザインを深く追求しすぎたり懲りすぎたりして、結果的に見にくくて、分かりづらいものなってしまっては正に本末転倒。そういう意味でいうと、デザインに関しては必要以上にこだわっていないという事になるのではないでしょうか。ただし使いやすさへのこだわりがデザインへのこだわりと直結したり、リンクしたりする場合があります。その時は逆にとことんこだわりますね。

私たちの考え方としては、分かりやすさ、伝わりやすさは絶対に外せません。TVCMでは面白さやインパクトが必要ということもありますが、それは15秒とか30秒といった限られた時間で表現するといった制約の中で求められる部分であったりします。同じような媒体であっても、そこが違うと、大きく違ってくるので混同しないようにしています。

製品や商品の広告の場合「情報を知り得る」といった意欲をもってユーザーはWebサイトにやってきます。なので情報を伝える事が重要で、そこに面白さを求めている人は非常に少ないと思うのです。クライアントさんの中には、とにかく面白いほうがいいよと言ったりする人もいますが、突き詰めると現実はそうじゃない場合が多いと思います。コンタクトポイントとしてフックはあってもいいし、インパクトも必要かもしれません。しかしそれは手法としてはある程度価値があるけれども、あくまでもケースバイケース。ユーザにとっては、その方法論が逆効果になってしまう危険性も大いにあり得ると思うのです。面白い事だけに終始せず、あくまでも情報を伝えることが大切なんです。

私たちで言いますと、電機メーカーの製品サイトと、自動車メーカーのトータルブランディングサイトでは考え方から作り方まで明らかに違います。自動車メーカーのブランディングサイトでは製品や商品ではなく、その会社のことをよりよく知ってもらい、イメージアップを最大の目的とするわけですから、そこで製品紹介のサイトと同じ表現をするわけにはいきません。ブランディングサイトには、簡単なゲームを入れたり、最初に映像をフルスクリーンで流したりして、「この会社は他とは違うなぁ」「なんだか凄いことをやってるなぁ」といったようにどこか直感的な部分で感じてもらう事が優先順位として上がってきます。なのでここではある種のインパクトが必要になってくるのです。ですが、決してインパクトだけに終始はしません。そのインパクトの裏にはこのメーカーの事をいろいろと知ってもらうための導線をきちんと引いてあるのです。

また、電機メーカーの製品サイトではこういった表現では伝わりにくくなってしまいます。デザイン性とか、技術的なことを知りたい人がやってくるわけですから、そこでいきなりフラッシュでインパクトある事をやってもユーザーにとっては「だからそうじゃなくて・・・」みたいにかえって迷惑だったりすると思うんです。その他でもカタログや雑誌用に撮影された写真が使い回されていたり、商品のリアルな写真が見たいのにCGしかなかったらがっかりしませんか?(笑)でもそういうのって実在したりするんですよね。製品サイトに来る人は、機能のことがもっと知りたかったり、よりリアルな色やデザイン、細部の写真が見たいのに、なかなかそこに行き着けなかったり、それ以前に欲しい情報が欲しい形で存在しなかったらやはりがっかりすると思うんですよ。「売る気あるのか!!」って(笑)。やはり製品のサイトでは購買にきちんと繋げることが最も重要なんです。





(取材:蜂賀 亨 写真:谷本 夏)


北村 健

(プロフィール)
'70年大阪府生まれ。2003年にWeb制作業務をメインとした「株式会社ベースメントファクトリープロダクション」を設立。CEO兼Exective Creaitive Director。
TIAAの審査員や宣伝会議Webディレクション講座の講師等も務める

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