第1話 意識を共有するサイト作り | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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昨年秋より公開されている能登の老舗旅館「多田屋」のサイトが話題を呼んでいる。美麗で奥深いビジュアル&デザイン、ストレスフリーで簡潔なシステム構築、そして心地よいアンビエント・サウンド……。今回はその制作チームスタッフである鎌田貴史さん(spfdesign Inc.)、ウラタダシさん(gleamix)、内田郁夫さん(void productions)による座談をお送りしながら、Web制作における「現場」の一端を再現してみよう。

第1話 意識を共有するサイト作り


左から、鎌田貴史さん、ウラタダシさん、内田郁夫さん

左から、鎌田貴史さん、ウラタダシさん、内田郁夫さん

シームレスに繋がる絵による“ひらめき”


——多田屋のサイトがインターネット広告推進協議会、第5回東京インタラクティブ・アド・アワードのコーポレートサイト部門で入賞されたそうで。おめでとうございます。

鎌田●ありがとうございます。ここにいるみなさんにご協力していただいた結果です。まあ、受賞することがすべてだとは思っていませんが、なにかしらの観点で評価されたというのは純粋にうれしいですね。

——そもそも、能登の老舗旅館のサイトを手がけるきっかけは?

鎌田●たまたま紹介してくれた人が若旦那さんと共通の友人だったんです。旅館も世代交代が進み、新たに継がれる経営の一環としてサイトをリニューアルしたい……という話をいただいて。それが一昨年の夏前だったと思います。若旦那さんが東京に来られてお会いして、お話を聞いたら、すごくいい人で熱意が伝わってきた。

——お若いんですか?

鎌田●ええ。30歳になったばかり。で、やりましょうと引き受けたのですが、それぞれ忙しくて、なんだかんだ1年ぐらい空いてしまって。本格的に着手したのは、昨年の春から夏前ぐらいのことでした。

??老舗旅館とはいえ、斬新なものを……というオーダーもあったのですか?

鎌田●最初はどういうサイトにするか、お互い具体的にはまったく見えてませんでした。とりあえず、これから旅館経営していくにあたって、Webは必要だろうという意識は漠然と共有してましたが。だからヒアリングして、視察を重ねながら徐々に具体化していったような形ですね。実は当時、やはり白銀屋という石川県にある旅館のサイトがすごく話題になっていたんです。僕の知り合いが作ったものなのですが、それがよく出来すぎているから、とりあえず路線を変えなくてはならないな、と(笑)。

——イラストを担当したウラさんは、いつぐらいから参加を?

ウラ●いつでしたっけ? たぶん去年の夏頃でしたよね?

鎌田●僕が視察をして、一回東京に持ち帰って考えていたら、ちょうどウラさんが自分のサイト内にギャラリーを作ったんですよ。その中にいろんな世界観の風景が横長でシームレスに繋がっている作品があって。それを見て「あ、これだ!」とひらめいた。で、ウラさんに連絡する前、若旦那さんに「こういうのどうですか?」とプレゼンしたら同意を得られて、そこでウラさんに声をかけたんです。

——サイトで描かれたような“和”テイストの絵だったんですか?

鎌田●その絵は“和”という感じでもなかった。ああいうの、なんて言うんですか?

ウラ●色味はちょっと“和”なんですけれど、それを前面に押し出したものではないですね。無国籍なモチーフがシームレスに、奇妙な感じで場面が変わっていくもの。

鎌田●インドの建造物っぽいものが入っていたり、近代的な都市の風景が入っていたり、湖や木が生えていたり……ほんと、いろんな世界観が繋がってて。あの絵との出会いがアイデアの基礎として大事でした。

——サイトもシームレスに繋がる構築をしてみよう、と?

鎌田●ええ。やはり旅館のサイトを作る場合、いろんなコンテンツがある。海と山に囲まれた和倉温泉、能登半島の自然の良さとか、歴史的な背景、文化などの世界観を絵で現してもらって、それがシームレスに繋がれば……と思いましたね。


「多田屋」サイト 能登乃國 和倉温泉 多田屋
開湯1200年、石川県能登の和倉温泉にある旅館「多田屋」サイト。その歴史、客室や温泉、料理、館内施設の案内、宿泊予約や料金、アクセスといったベーシックなコンテンツはもちろんのこと、ウラさん渾身の絵世界、内田さんによるBGMにより、チルアウト気分を味わえるシステム構築が見事


フィルターを通さない“直”の利点


——サイトを見ると壮大な感じがしますよね。

鎌田●絵の世界が壮大だからこそです。同時に、音の表現も不可欠なものでした。

——音はサイト設計が全部できてからつけたんですか?

内田●いや、全部はできあがってなかったですね。とりあえず、コンテンツをクリックすると絵が流れていくところまでできた段階。でも、鎌田さんのほうから熱いメッセージが書かれたメールが届いて(笑)。

鎌田●熱かったですか?

内田●情熱がこもっていましたよ。僕自身は、視察に行く時間がなかったんです。だから鎌田さんが感じたイメージ、キーワードみたいなものを元に音を作っていったという感じでした。本来は行くべきですが、それでも仕上がったものが間違いなかったというのは、鎌田さんの指示が的確だったんですね。

——ウラさんは視察に行かれたのですか?

ウラ●ええ。素材集めでカメラ持って、旅館にも泊まらせていただいて。そもそも石川県自体、行ったことがなかったですから。

鎌田●結構、あのへんは行く機会が少ないんですよね。

ウラ●あと最初に話をもらったときに、コンセプト的なところを打ち合わせしたじゃないですか。たとえば、旅館を訪れた人が能登を第二の故郷みたいに感じて、リピーターになってくれたら……とか。その土地がお客さんの大切な場所になるように……というのが肝にあったので、一度行かないことにはダメだなと思った。で、実際行ってみたら、すごくいいところというのがわかって。そう感じたままに描かせてもらえました。

——普段の仕事でも、そうした取材は大切ですね。

鎌田●まあ、ケース・バイ・ケースですが。商品の場合は実際に見て触って、その特徴をつかんで理解してみないと。

——多田屋の場合、クライアントが老舗旅館で、代理店も入らずに直に受けた仕事ですよね。仲間うちで自由にできたという雰囲気も大きかったですか?

鎌田●まさにそうですね。若旦那さんも「これから」という意識だったから、信頼できる制作チームみたいなものを作って、そういう間柄でやりたいって言ってくださった。一回バッと仕事して「ありがとうございました」っていうのではなくて、長い目でずっと付き合いが続くような関係性でやりたい、と。

——直にやりとりもできる安心感も?

鎌田●そう。だから僕の中ではすごく楽しかった。なかなか、できないですよ。そもそも直というのが少ないし。普段はなにかしら間にはさまってしまうので、僕の思っていることとクライアントさんが思っていることが、仕事の途中でふるいにかけられるようなことが多いですから。

——フィルター通すことで、全然違うものになっちゃうとか。

鎌田●伝言ゲームみたいに(笑)。そういうことを考えると、多田屋のサイトはダイレクトにスタッフと話ができて、共通意識が持てたのが大きかったと思います。


次週、第2話は「ターゲットをつかむ個性とは?」を掲載します。

(取材・文:増渕俊之 写真:谷本 夏)



鎌田貴史さん

[プロフィール]

かまだ・たかし●1979年兵庫県生まれ。神戸市立工業専門学校卒業。カナダ留学後、デザインプロダクション勤務を経て、2003年に「.SPFDESIGN」として独立、2006年に「spfdesign Inc.」を設立。現在、中村勇吾氏のオフィス「tha」にも席を置きながら、Webデザイナーとして数々活躍中。http://spfdesign.com/


ウラタダシさん

うら・ただし●1972年長崎県生まれ。1995年よりデザイン会社勤務を経て、2000年に独立。Web、広告、雑誌、音楽プロダクトなど、多彩なタッチによるイラストレーションを制作している。鎌田氏などと共に、クリエイターズ・ユニット「null*」にも参加。http://gleamix.jp/


内田郁夫さん

うちだ・いくお●1974年東京都生まれ。PCソフト開発会社のサウンドスタッフを経て、2003年に独立。フリーランスのサウンド・クリエイターとして、様々なWebサイト、店舗などのBGM/SEを制作中。www.void-productions.com/



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