第1話 邪魔にならないデザインを | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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オブジェ作家・勝本みつるさんの作品集を、以前「これがデザイナーへの道」に登場した坂本志保さんが手がけている。今回の対談では、編集者の加藤郁美さん(月兎社)を加えながら、その制作過程をたどってみよう。

第1話 邪魔にならないデザインを


坂本志保さん(左)と、勝本みつるさん(右)

坂本志保さん(左)と、勝本みつるさん(右)

甘くない“オブジェ”世界


——まず今回、みなさんが仕事を一緒にするきっかけからお話を。

坂本●最初、月兎社の加藤さんからお話をいただいたのですが、実はそれまで勝本さんのことを知らなかったんです。だから、私もどうして今回お声をかけていただいたのか、聞きたかったのですが(笑)。

加藤●漫画家の鳩山郁子さんと親しくしていて、月兎社でも彼女の豆本を出しているんです。以前から、坂本さんが鳩山さんや岡崎京子さんの本の装幀をされているのを拝見していて、いつか仕事をご一緒したいと思っていたんですね。

坂本●お話を受けてから、月兎社のサイトで勝本さんの作品を見て「よくぞ私に振ってくださった!」と舞い上がっていたんです。私の好きな世界のもので。

勝本●当初それをうかがって、ホッとしました。

坂本●函の中に物を入れるオブジェって、普通は甘くなりがちじゃないですか。

——甘いというのはスウィート?

坂本●ええ。少女趣味というか……

勝本●趣味的になりがちですよね。

坂本●勝本さんの作品の場合、ひとつひとつの要素はスウィートだったりするかもしれませんが、全体的にそうではない世界観を持っているところが好きな理由で。

——失礼ながら最初、お名前だけで男性かと。

勝本●いえいえ。普段からそう思われがちなんです。名字も堅いから。みんな、頭から男性だと思っている(笑)。

坂本●だから私も、ご本人と最初に打ち合わせでお会いしたとき、びっくりしたんです。仕事を先に見ていたから、もっと違う感じの人物像を想像していて。

勝本●どのような?

坂本●言い方悪いのですが“不思議でちょっと怖い”ような感じ(笑)。

勝本●魔女系?

坂本●そうしたら、そそっと入ってこられて。クールな感じで。「美人じゃん!」と。ご本人にお会いしたので、仕事が非常にスムーズで楽しくなったと思います。


living things / a birth







勝本さんの作品より
living things / a birth
2004(243x365x100mm)


引き算、プラスαを嫌味なく


——勝本さんは、坂本さんの装幀にどのような印象をお持ちでしたか?

勝本●前回の作品集『Childish Ark チャイルディッシュ・アーク』は加藤さんご自身が編集だけでなくデザインもされたわけですが、そのほかでは主に文芸書の装画に仕事が使われることがわりと多くて、そこで関わってきた装幀家の方々とは、坂本さんはまた違うジャンルで活躍されている。そういった意味で、これまでにない期待感がありました。あと、加藤さんの狙いどころを拝見する愉しみもあった。

加藤●最初は予算の都合もあり、カバー回りだけお願いしようと思っていたんです。内容的にはごくシンプルに、作品の写真とキャプションがあるだけなので、前作同様、私がDTPで作ればいいかな……と。でも、坂本さんは気前よく「中もやりますよ」と。で、お願いしたら、やっぱりさすがだと感銘しました。

勝本●まだ作業の途中ですが、このようにタイミングよく、内容的にもちゃんとしていただけるとは思っていなかった。

坂本●ええ。すごくタイミングがよかったんです。

——最初の打ち合わせでは「どのような感じにしよう」と?

坂本●一番最初に思ったのは、あまり邪魔にならないデザインをしないとダメだなと。あらかじめ、加藤さんのほうからどの作品をどう使うとか、大体の流れをいただいていたのですが、自分の“デザイン魂”はどこかに入れなくてはならないと思ってしまいがち(笑)。で、最初は中ページにもデザインしたものを軽く入れていたのですが、自分でも「ちょっと邪魔だな」と思ってシンプルに引き算していった。そうなると、やっぱり書体選び、ノンブルなどが一番重要になってきました。

——個々の作品自体に訴えかけてくるものがあるから、情報をなるべくつけないということですよね。

坂本●そうです。最初に作品が目に飛び込んでくるのが前提で、プラスαを嫌味なく添えられれば、と。


勝本みつる展 a field, a home [野と家]DM





勝本みつる展 a field, a home [野と家]
2007年6月4日(月)?16日(土)
東京銀座「galleria grafica bis」にて開催
11時?19時(日曜休廊/最終日17時まで)
http://www.galleriagrafica.com

本展にあわせて、今回の対談のテーマとなっている初期作品集『one day 或る日』
(B5版カラー80ページ/月兎社)が刊行。会場では普通版と特装版を販売
詳細は特設サイトへどうぞ


次週、第2話は「素材が“何かを語りだす」を掲載します。

(取材・文:増渕俊之 写真:FuGee)



坂本志保さん

[プロフィール]
さかもと・しほ●グラフィック・デザイナー。安齋肇氏のアシスタントを経て、1985年に独立。岡崎京子、いとうせいこう、ナンシー関、戸梶圭太、中村うさぎなどの書籍装幀、竹中直人、吹越満をはじめとする演劇ポスターやパンフレットなどを手がけている。


勝本みつるさん

かつもと・みつる●美術家。2004年「living things」(ガレリア・グラフィカ)、2006「a birth」(MA2ギャラリー)など、ほぼ年1度のペースで個展。小川洋子の著作、江戸川乱歩全集など、書籍の装画も多い。

http://www5d.biglobe.ne.jp/~calico/05-rocaniwa/

rocaniwa01-top.htm


かとう・いくみ●出版・編集「月兎社」を主宰。

http://www.gettosha.com


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