第1話 カルチャーと絡めた広告 | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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旬のアートディレクターをお迎えして、デザインする際の思考プロセスを伺うとともに、創作のスタンスに迫るこのコーナー。第13回目は帆足英里子氏。第1話では、株式会社ポイントの展開しているブランド「LOWRYS FARM」のキャンペーン広告に注目する。



第1話 カルチャーと絡めた広告


テーマを自分で決めて
ブランドを動かせる感覚は面白い





──まずはじめに「LOWRYS FARM」の特徴から教えてください。


帆足●ストリートカジュアル系のファッションブランドで、10代から20代後半くらいまでをターゲットにしています。シンプルだけれど少しだけ流行に乗っている、日常着のような雰囲気が特徴です。


──このブランドの広告デザインには、いつ頃から携わっているのですか?


帆足●2007年の春からです。年間を通じてキャンペーンを任せていただけることになり、季節毎にカタログとポスターを作っています。春、夏と2回の制作が終わって、現在は秋の仕事に取りかかっているところです。


──どのようなコンセプトでデザインなさっているのでしょうか。


帆足●シーズンごとに「映画」「音楽」などとテーマを設け、その切り口に沿って制作しています。商品自体は比較的ニュートラルな方向性なのですが、消費者が「LOWRYS FARM」の洋服を選ぶ意味を強く打ち出したかったのです。そこで、ブランドが情報を発信していくスタイルで、カルチャーとリンクさせることにしました。


──なるほど。カタログにおける各テーマの扱いは、単なるビジュアルのモチーフに留まらず、それ自体が記事になっていることもあるようですね。


帆足●そうです。たとえば春のカタログのテーマは「音楽」ですが、CDを紹介する記事もコンテンツとして盛り込み、読み物のようにしています。こうすることには、単純に洋服が並んでいるだけではなく、読んでいて楽しい印象のカタログにする意図もありました。また、外見も「音楽」を意識して、レコードのような形にしています。


──それぞれの写真が、ストーリー性を感じさせますね。


帆足●ギタリストを目指している女の子の1日を追うイメージにしています。モデルの目線もカメラから外して、まるで隠し撮りしたかのようにナチュラルな雰囲気を目指しました。ちなみに、これらの写真はフランスのニースで撮影したのです。

──ニースで撮影しようとの提案は帆足さんから?


帆足●そうです。暖かい場所でないと春の雰囲気が出ませんし、オシャレすぎる都会ではなく、少しだけ田舎っぽいイメージを匂わせたかったので。


──撮影の際に何か苦労したことなどはありましたか?


帆足●モデルを現地でのオーディションで探し出したのですが、ニースの女性特有のエレガントな雰囲気で、いわゆる「モデル歩き」になりがちでした。ですから、コンセプトに合わせて、男の子っぽく見えるようにディレクションするのが大変でしたね。


──続いて、夏のキャンペーンは、どのようなテーマで制作なさったのでしょうか?

帆足●夏のテーマは「映画」です。カタログのボリュームが小さかったので、映画の紹介記事は入れませんでしたが、見栄えをフィルム状にしています。隅に入っているバーコードなども、実際のフィルムを参考にして作成したのです。


──こちらも、ストーリー性のある写真で構成されていますね。


帆足●8mmカメラで映像を撮るのが好きな日本在住の女の子を主人公に設定して、1本のストーリーに繋げています。電器屋の袋を持って帰宅するところから始まって、カメラで試し撮りをしたり、自分で撮った映像を部屋で観たりするシーンを撮影していますが、所々に、洋服を掃除機で吸ってみたりするなどの変わった構図も盛り込んで、少し笑える要素を加えました。

──フィルムの形状を再現したとのことですが、端が銀のインキで刷られています。本当のフィルムでは黒だと思うのですが。


帆足●夏なので爽やかな印象にしたかったのです。また、フィルムの穴を紙白で表現したのですが、その周りを黒にすると対比で目立ってしまう。穴の部分は、なるべく目立たないようにしたかったので、周囲を銀で刷ることで対処しました。


──ポスターもフィルムのような見栄えになっているのですね。


帆足●ポスターは部数がカタログほど多くなく、穴の数も少なかったので、実際に型抜きで穴を表現できました。A1の横幅で、大胆な長尺にしています。展示する際には途中で丸めて巻きました。


──秋や冬のキャンペーンは、どのように展開されていく予定でしょうか?


帆足●テーマ自体は文化的なもので作っていくつもりですが、見せ方を少し変えてもいいのではないかと考えています。長期間にわたる仕事では、続けていくうちに信頼関係も生まれますし、最初のうちは実現できなかったような面白いことや大胆なことも、積極的に提案できるのです。年間を通じてプロジェクトに携わるのは初めてなのですが、テーマを自分で決めてブランドの方向性の決定に関われることは、とても面白いですね。
(取材・文:佐々木剛士 人物写真:谷本夏)


次週、第2話は「カッコ良さを追究したファッション広告」について伺います。こうご期待。



[プロフィール]
帆足英里子(ほあし・えりこ)
アートディレクター。1975年横浜生まれ。1999年多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒業後、株式会社ライトパブリシテイ入社。ポスター、雑誌広告などのアートディレクションやブックデザインなどを手がける。代表的な仕事の中には、資生堂「マキアージュ」や「LOWRYS FARM」のキャンペーン、ユニクロ「スキニーパンツ」の店内タペストリー、「GOTH/乙一」(角川書店)、「失はれる物語/乙一」(角川書店)、「思いわずらうことなく愉しく生きよ/江國香織」(光文社)のブックデザインなどがある。

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