第1話 韓国から日本へ | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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様々なジャンルで活躍するデザイナーの来歴をたどるシリーズ、今回は白銀屋、KDDI auのサイトなどを手がけるイム・ジョンホさんを取材し、韓国生まれの経歴から現在に至るまでの足跡をたどります。


第1話 韓国から日本へ



イム・ジョンホさん

端正で理知的なイム・ジョンホさん


14歳を襲ったカルチャーショック


——小さいとき、どんな子供でした?

イム●僕が子供の頃の韓国は、遊ぶものが日本のように豊富ではありませんでした。ファミコンも、クラスで一人持っているかどうか。そもそも学校が厳しかったんですね。勉強はもちろん、しつけの面で。だから朝から夜まで学校にいて、帰宅してからも勉強するという生活。日本の子供は放課後、個々に自由に遊べる文化があるじゃないですか。でも韓国はそういうところが厳しくて、限られた休み時間に友だちとサッカーやバスケをするぐらいでした。

——韓国のどちら?

イム●釜山です。チャガルチ市場という大きな海鮮市場があって、そのど真ん中に家があったんです。家を一歩出るとリヤカーが行き交って、うなるような喧噪が鳴り響いている下町。道路はいつも水浸しで生臭い。でも夜になると市場から人がいなくなって、一緒に暮らしていた親戚のいとこたちと鬼ごっこしてました。

——文系と理系、勉強はどちらが得意でした?

イム●子供の頃は、どちらかというと理系でしたね。でも、特に何かに没頭して学ぼうという意識もなかったし、将来何をやりたいという目標もなかった。

——日本で暮らすようになったのは?

イム●1991年からです。それまで母親が日本で商売をしていたのですが、やっと僕を呼べるようになって、中学3年になる年に日本に来ました。でも、2年生のクラスに編入です。すぐ受験が始まるのと、言葉をまず喋れるように……ということで。

——それまで日本語の勉強は?

イム●全然してません。日本に来てから一から勉強。でも家庭教師をつけてくれて、子供だったから憶えるスピードも早かったと思います。とはいえ中学卒業前までは、友だちのことを「あなた」と呼んだり、自分のことを「わたし」とか、いま振り返ると、たどたどしい言語水準でしたね。

——環境の変化への戸惑いは?

イム●もちろん、カルチャーショックでしたよ。ちょっとした冗談を言われても、それを真に受けてしまってました。韓国人って基本的に短気なんですね。だから、言った友だちはそんなつもりじゃないのに、僕のほうは馬鹿にされていると思って、取っ組み合いの大喧嘩(笑)。まあ、文化の差と言葉の理解の問題ですね。そのへんは高校入学後、徐々に慣れていきましたが。


KDDI au : NEW COLLECTION 2007 SUMMER

KDDI au : NEW COLLECTION 2007 SUMMERよりKDDI au : NEW COLLECTION 2007 SUMMERより

イムさんの最近の仕事から
KDDI au : NEW COLLECTION 2007 SUMMER
今年春に引き続き、夏のラインナップ・コンテンツのCD、AD、デザイン、プランニングを担当。
機種によってシチュエーションの異なる実写映像を撮影、それぞれの設定から「十人十色」の夏を描き出す
(制作スタッフのクレジットは、イムさんのサイトをご覧ください)


ウェブデザイン・アワード1999の衝撃


——美術などへの興味は?

イム●それもまったくなくて、中学は剣道部、高校はバスケ部でスポーツばかり。

——趣味でコンピュータをいじったりは?

イム●韓国にいた頃、ちょこっとBASICをやったりしてました。でも、日本に来てからは、ほとんどしてなかった。大学に入学後、授業でホームページを作る授業があって、そこからのめり込んでいったんです。

——高校卒業後の進路を決めたのは?

イム●将来、漠然とコンピュータを使った仕事につきたいと思ってました。でも勉強を継続的にやるのが苦手で、つねに一夜漬けタイプなんですね。だから偏差値も低い。浪人していい大学を目指すか、そこそこの大学に入るか……僕の性格上、浪人したら絶対ダメになると思って(笑)とりあえず大学に進みました。

——専攻は?

イム●情報学科。システムエンジニアとかを目指すところですね。でも入ったら、期待したほど面白くない。なんとなく通って、やっと単位をとるぐらいの普通の大学生でしたね。

——大学の授業でサイト作りを学んだ?

イム●97年ぐらいだから、ちょうど10年前ですね。その当時、ダイヤルアップがまだ52Kとか……それでも結構贅沢な時代。だから勉強というよりも、ホームページ素材集みたいなサイトを検索して、アップされていたGIFアニメを見て「おー凄い!」というレベル。単純に素材を並べて、喜んでいたんです。

——でも、これは自分にとって有効だと?

イム●そのときは特に……まあ、面白いなっていう程度。本格的に目が向いたのは、99年に開催された「ウェブデザイン・アワード」がきっかけですね。そのとき、ぶ厚い年鑑が出たんです。後に僕が勤めることになる会社、ビジネス・アーキテクツのクリエイティブ・ディレクターだった福井信蔵さんが金賞で、そのほか当時の日本で優良なサイトのスクリーン・キャプチャが数々載ってて。

——それを見て触発された?

イム●ええ。でも、それもたまたま。当時『デザインプレックス』という雑誌が大好きだったのですが、千葉に住んでいるとそれくらいしかデザインの情報源がなかった。で、都内の電気量販店まで買いに行ったらウェブデザイン・アワードの年鑑があって、立ち読みしたらまんまと感動してしまいました。そして、本の巻末を見たらウェブデザインMLが紹介されていたので、早速加入したんです。すると、いままで雑誌でしか名前を見なかった人たちが、いろんな会話を交わしている。……いま振り返ると、すごく恥ずかしい質問をしてましたね。「どうやって勉強するんですか?」的な(笑)。


次週、第2話は「ビジネス・アーキテクツ在籍時代」についてうかがいます。お楽しみに。

(取材・文:増渕俊之 写真:FuGee)


イム・ジョンホさん

[プロフィール]

イム・ジョンホ●アートディレクター。1977年韓国・釜山生まれ。1991年来日。2000年に(株)ビジネス・アーキテクツ入社。アートディレクターとしてイオングループ、積水ハウスなどの大規模サイトを手がける。2004年に独立後、写真と言葉を中心とした表現に取り組み、2007年「toconoma inc.」 設立。

映像表現をはじめ新しい領域に挑戦中。http://7779.net



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