第1話 用紙選びに特徴のある作品集 | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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旬のアートディレクターをお迎えして、デザインする際の思考プロセスを伺うとともに、創作のスタンスに迫るこのコーナー。第13回目はartlessの川上俊氏。第1話では、こだわりの紙使いが光るアートブック「WOW10」を紹介する。



第1話 用紙選びに特徴のある作品集



普遍的に。「捨てられない」作品を目指す





──まず今回ご紹介いただける作品集の概要から教えてください。


川上●映像プロダクション「WOW」の設立10周年を記念して制作されたアートブックです。この本だけに留まらず、今回のプロジェクトでは、様々な場所での展覧会も行われています。ロンドンでのエキシビジョンも予定されているんですよ。だから、作品集だけではなく、プロジェクトに関するグラフィック全般のアートディレクションを手がけています。


──アートブックには、どのような作品が収録されているのでしょうか。


川上●WOWがこれまでに辿ってきた10年と、これから先の10年を展望できる作品を掲載するとともに、DVDが同梱されています。さらに、WOWのメンバーのほかにもゲストとして5組のアーティストが参加しています。インテリアデザインに携わるgrafの服部滋樹さん、ファッションデザイナーの久保嘉男さん、建築デザインのグエナエル・ニコラさん、生け花の池坊である石渡雅史さんなど、さまざまなジャンルで活躍する方々です。artlessもprojectorの田中耕一郎さんとともに、インタラクティブ作品を提供しました。


──10周年にちなんで、10章で構成されているようですね。


川上●そうなんです。それに合わせてグラフィク作品を0から10まで制作し、章トビラのような扱いで本に挟み込んでいます。これらのグラフィックは「生け花」をモチーフにしていて、数字をフラワーベースに見立てながら、松や梅、桜など四季を感じさせる花をセレクトして飾りるコラージュ作品です。小山泰介くんによる写真のコラージュや、浦正さんの水墨画やイラストレーションなどを描いてもらったりしています。また、このグラフィックを再構築したポスターも制作しました。


──生け花をモチーフにするのは難しくなかったですか?


川上●昔からコラージュのような作品を作ることが多かったので、生け花には興味があったのです。僕のコラージュと生け花は似ているところがあるように感じます。それは、足しているようで。要素を削ぎ落としていくことを意識する「引き算」。僕のデザインにも共通していることです。


──「引き算」でのデザインとは、どのようなことでしょうか?


川上●要素を足していくだけではなく、思い切って捨てる行為を大切にするのです。余白によって生まれるシルエットが美しく見えるように配慮することも重要ですから。さらに、要素を引いていくことで、必然的に一番大切な捨てられないものだけを残すことにも繋がります。これは、デザインの細部だけでなく、完成した作品にも当てはまることですよね。僕は受け取った人が捨てられないようなものを作りたいと考えながらデザインしています。


──具体的に、捨てられない作品にするためには、どのような工夫をするのでしょうか。


川上●たとえば、紙にこだわったり? また、流行に左右されない普遍的なものを目指すことも大切だと考えています。今回のアートブックでは「日本」というテーマも意識しながら、至るところで工夫しました。本文用紙の色は「雪」ですし、トビラは「くるみ」色、表紙には松の木を薄く削ったシート状の紙を貼っています。日本では長寿を表す縁起のよい木ですし、日本という意味でも最適なものだと考えました。


──本文用紙には、エンボスの入っているエコジャパンが用いられていますが、作品集としては異例ですね?


川上●たしかに写真を印刷する際には扱いづらいのですが、WOWの映像にはCGが多用されているので、そのままキレイな紙に印刷してしまうと、いかにも作り物のような雰囲気が強調されてしまうのです。それを避けたかったので、エコジャパンを採用しました。


──それにしてもコストがかさみそうな紙使いですね。


川上●今回の仕事はWOWとartlessにとって、ただ本を売るための利益ではなく、自分たちの作りたい物を作る。残る物を作るという考え方で生まれています。結果的にお互いのブランディングやプロモーションの意義にもなります。だからこそ実現した作品といえるでしょう。クライアントワークとしての側面もありながら、自分のためにデザインした本でもあるので、「やり切れた」ように感じます。(取材・文:佐々木剛士 人物写真:谷本夏)



次週、第2話は「リスクの負担で実現した写真集の装丁」について伺います。こうご期待。




[プロフィール]
川上俊(かわかみ・しゅん)
1977年、東京生まれ。2000年に独立、artless設立。アートディレクション、グラフィックデザイン、インタラクティブデザイン、CI、ブランディング、映像/モーショングラフィック、空間造形など、分野の枠を越えて活動中。国内外でのエキシビション参加や各メディアへアートワークの出品、独自のアートプロジェクトといったアーティスト活動も精力的に行っている。http://www.artless.gr.jp

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