第1話 ブック・デザイナーを志すまで | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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様々なジャンルで活躍するデザイナーの来歴をたどるシリーズ、今回は幻冬舎デザイン室の平川彰さんを取材し、出版社のハウス・デザイナーとして多くの書籍装幀や広告などを手がける今日までの足跡をたどります。


第1話 ブック・デザイナーを志すまで



平川彰さん

幻冬舎デザイン室の室長・平川彰さん


乱歩が「本の虫」を呼び覚ましてくれた



——小さい頃は、どんな子供でした?

平川●おとなしくて、家の中で本を読んでいたり、絵を描くのが好きでした。親からしてみたら、全然手間がかからなかったそうです。たまに外に出ても、運動神経がいまいちよくないので、すぐ転んで骨折したり(笑)。そういうのもあって、家で一人で遊ぶほうが多かったんです。

——どんな本が好きでした?

平川●子供ですから絵本、あとは図鑑ですね。花や植物が好きだったんです。そこから段々、文字ものを読むようになりました。当時、テレビで江戸川乱歩のドラマを放映していて、その影響で児童向けの明智小五郎シリーズを読み始めたんです。そこで「本って面白いんだな」と目覚めました。

——その後は?

平川●芥川龍之介とか夏目漱石とか、有名なものを片っ端から手当り次第。中学から高校にかけては、とにかく本ばかり読んでましたね。いま思い出すと恥ずかしいですが、自分でもお話を書いたりしていた。そういうのがずっとあって、大人になったら本に関わる仕事をしたいと漠然と思っていたんです。でも、デザイナーという選択肢は、まったく頭の中になかった。デザイナーという職業があるなんて知らなかったですからね。

——むしろ編集者とか?

平川●そうですね。中学時代から出版の仕事に興味がありました。……ほんとを言うと物書きになりたかったんです。高校生ぐらいの頃、文学青年に憧れるところがあって、太宰治とか単純にかっこいいなって(笑)。文章で自分の身を立てられたら……と、夢見ていました。同時に、その頃出会った本で印象的だったのが、稲垣足穂や澁澤龍彦……いわゆる幻想文学ですね。そういう世界にどっぷり浸かって、高校卒業後は文学部に進んで勉強したいと思うようになりました。


『吉原手引草』松井今朝子『私一人』大竹しのぶ


平川さんの仕事より、装幀でもセールス面でも満足な結果を残した作品。

(左)
『吉原手引草』松井今朝子
幻冬舎/1680円(2007年3月)

(右)
『私一人』大竹しのぶ
幻冬舎/1575円(2006年1月)


模索の挙げ句「装幀」に辿り着く



——美術的なものへの関心は?

平川●子供の頃から美術の成績はよくて、絵を描くのは得意でした。当時聴いていた音楽のLPレコードをテープにダビングするとき、インデックスにアーティストの絵を描いたりしてたんです。いま思うと、それがデザインの原点だったのかもしれませんね。自分にとって絵を描くことや何かを構成して画面を作ることがごくごく自然のことで、これが将来にどう繋がるか、これをどう勉強するかなんて、まったく想像がつかなかったんです。でも、あるとき、ふと本棚を見ると、それまで集めた本のカバーがどれも視覚的に面白いものばかりであることに気づいた。高校2年を過ぎた頃のことです。

——進路を決めたのは?

平川●とりあえず、美大を目指そうと決めました。将来のことは大学に入ってから考えればいいか……と。そこで高校3年の夏から予備校に通い、デッサンと平面構成の勉強を半年して、武蔵野美術大学を受けたら合格したんです。

——在学時、将来をどう考えました?

平川●一応デザイン学科に入りましたが、最初はデザイナーになろうとはまったく考えてなかったですね。文学と音楽の他、フェリーニなどのヨーロッパ映画が大好きで、映画監督にも憧れていたんです。

——なんでも憧れますね(笑)。

平川●そうなんですよ(苦笑)。でも映画監督って、いろんなスタッフを配下に指示するボスじゃないですか。子供の頃から人と遊んだり話すことが苦手でしたから、それは自分には向かない……と。じゃあ一体、何ができるか? 小説も書き続けてましたが、書いたものを人に見せてたら「あまりにひどい」と(笑)。作家が無理なら、編集の仕事はどうか? しかし編集者も、多くの人の間に立ってコミュニケーションをとっていく仕事ですよね。性格的にそれも厳しい。さんざん模索した挙げ句、本が好きで絵を描いて、デザインの勉強をしているなら、装幀の仕事があるじゃないか……と。流れ流れて自然と辿り着いた感じですが、それまでの道のりは「これもできない、あれもできない」というコンプレックスばかりでしたよ。苦悩しました(笑)。

——ようやく、落ち着くところに行き着きましたね。

平川●ええ。それまで親しんできた本の世界が、そこで初めて自分と合わさった。結局、ブック・デザイナーを志そうと決めたのは大学4年、卒業の直前のことでした。


次週、第2話は「アシスタント、そしてフリーランス時代」についてうかがいます。お楽しみに。

(取材・文:増渕俊之 写真:FuGee)


平川彰さん

[プロフィール]

ひらかわ・あきら●1969年神奈川県生まれ。武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科を卒業後、装幀家のアシスタント、フリーランスでの活動を経て、98年に幻冬舎入社。現在、同社デザイン室の室長として書籍装幀、広告を数多く手がけている。2006年、自身の企画展「11人の作家による仮構幻想小説装幀&幻冬舎デザイン室の仕事」を開催。また「ギャラリーハウス・マヤ2003」「ペーターズギャラリーコンペ2007」の審査員を務めている。



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