第3話 Web.2.0以降の話 | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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タイトル画像、第11回Webプロデューサー列伝 中村博久

ECサイト構築ソフト「Zen Cart」などオープンソースソフトウェアによるソリューションの提供、また、今年の春には「Twitter」のマッシュアップサービスである「ecoったー」「necoったー」サービスを開始するなど、新しい技術をWebサイトに積極的に取り入れてデベロップするWeb制作会社アークウェブ。今回はアークウェブのCMO(最高営業責任者)/Webプロデューサーである、中野 宗氏に、最新のWeb情報、Web2.0などについて話を伺った。

第3話 Web.2.0以降の話


僕たちにとってWeb2.0的な価値観は体感済みだった



——中野さんにとってWeb2.0の登場はやはり画期的なことだったのでしょうか?

中野●いや、それがそうではなくて。最初にWeb2.0って言葉を聞いたときには、うさんくさい言葉だなあって(笑)。ただ、今Web2.0と呼ばれているような価値観というのは、それ以前から自分たちが体感していた部分があったのですね。ひとつはオープンソースのZen Cartとの関わりの中で。オープンソースのコミュニティというのは、僕は入りたいって手をあげると、基本的に誰でも入れます。そのなかでは、誰が偉いとか、誰が下だといった序列や階層はあまりないのですね。僕らは企業としてZen Cartのローカライズに取り組み、Zen-Cart.JPというコミュニティの土台を作りました。その上で一般の人たちといろいろなコミュニケーションが行われることになったんですが、最初は、個人的にはそれに抵抗があったのですね。こちらは企業の人間で、会ったこともないプログラマーさんたちと対等にコミュニケーションをすることに意外に抵抗があって。ただやっていくと、こちらからなにかを投げかけると、向こうも返してくれる。そのうち抵抗感とかはなくなってきて、フラットでオープンな関係が構築できるんだなっていうことが体感できてきましたね。

Web2.0でいわれるオープンさとか、ユーザーの貢献を大切に扱うといったことは、企業の中にいると受け入れにくいことなんです。Webサイトを運営する企業側は、これだけ頭使って構築したのに、エンドユーザーからコメントがきたらかといってなんで直さなきゃならないんだ、という意識があります。たとえば企業サイトにBlogを導入する際でも、顧客からは「コメント欄はなしにしたい」と言われることが多いですし。でもそれはそうじゃないって時代になってきた。ユーザーの意見や行動、そのダイナミズムをうまくとりいれたほうがいい結果になるという共通認識が広がってきました。そのことを早いタイミングでつかめたこと、そして、それを自然なものとして受け入れることができたこと。これは大きかったと思います。

あともうひとつ。2005年1月に、うちの会社で「Snippy」というソーシャルブックマークサービスをリリースしました。まだ日本ではWeb2.0ブームなどといわれる以前のことで、ソーシャルブックマークというサービス自体としても、日本では最も早い方だと思います。ちなみに「はてなブックマーク」よりも早い。(笑)2004年の後半から、北米でも、また日本のギークたちの間でもdel.icio.usというソーシャルブックマークが注目を集めていました。ソーシャルブックマークは、皆がブックマークを共有することで、Webのツァイトガイスト的なものが可視化される、流行りがすぐわかる、という点が画期的でした。

一番の肝は、Social Tagging、ユーザーに自由なラベル付けを許す仕組みを提供したということですよね。それまでの情報分類といえばYahoo!のディレクトリサーチのような考え方が主流だったわけですから。このSocial Taggingというものについて、僕たちは2004年の後半、Snippyの機能を考える際にかなり議論しました。これってどういう意味?実装したら本当に効果的なの?ってことを何度も話したんです。Taggingという方法がWebサービスの定番になるのかどうかもわかりませんでした。Snippyというのは、Webクリエイター向けのソーシャルブックマークなのですが、いろいろとシュミレーションしてみて、やはりスタート時点で完璧と思えるディレクトリを用意しても限界がある、ユーザーが直感的なキーワードで分類できるようにした方がいい、じゃあTagging機能を付けてみることにしよう。そういう結論を出したんですね。

ただ一点、見通しの間違いがありました。TaggingとかTagという呼び方ですが、ご存じの通り「タグ」といえばWeb業界ではHTMLのタグのことですね。なので、ぼくはTaggingとかTagという言葉がそのまま浸透するはずはないと判断して、Snippyではタグを「ワッペン」というネーミングにしました。そのあと日本でもTagging機能を備えたWebサービスが沢山出てきて、日本でもTagという言葉は定着しました。ああ、こういうもんなんだって思いましたね。今でもぼくは、集合知やFolksonomyについて考えるとき、当時「ディレクトリかTagか」で迷った末にTagging機能を選んだことを思い出します。こういった葛藤を早い時期にできたこともよかったと思っています。「ユーザーにまかせる」という考え方にスイッチするためのリハーサルができたわけですから。だからWeb2.0というコンセプトが出てきた時には、ま、当たり前だよねっていう感じはしましたね。なんで今さらそんなキーワード付けてるの?とも思いました。ただ、状況に名前が付けられたことによって、新しいタイプのWebサービスなどが爆発的にたくさんでてきたので、とても面白くなったなあって思いますけど。


ユーザーコミュニティが勝敗をわける



——Web2.0の今後はどうなっていくと思いますか?

中野●そもそも僕は、あまり先のことを予測してもしょうがないかなって思っていて。(笑) さきほどのTaggingの話じゃないですが、予測って結構はずれたりもするので。そこで、やはり重要なのは、予測よりも柔軟性だなと思っています。なにか変わる兆しが現われた時に、いつまでも自説に固執しないで、ぱっと別の場所に移るという身軽さを備えておけば、あまり三年後はこうなる、五年後はこうなる、といった予測にエネルギーを使う必要もないかな、やっても仕方ないかなと。そのためには、情報収集をして早めに兆しをつかめればいいと思っています。たとえばBlogツールでシェアを二分しているソフトウェアにMovable TypeとWordPressがあります。今後どちらが勝つか?ということを考える際に、なにが鍵になるかというと、ユーザーに支持されるかどうかってことですよね。昨日まで大人気だったのが、今日いきなり失墜ってことはありません。ですからユーザーコミュニティがどうなっているのかを見ていればいいわけで。Movable Typeも4からはオープンソース版が出ると発表されていますが、それが成功するかどうかもユーザーコミュニティがついてくるかどうかにかかっていると思いますね。Web2.0の今後にしても、こういった兆しをきちんと見ていれば、大きく誤ることはないと思います。

——「ecoったー」と「necoったー」について教えて下さい

中野●Web2.0以降、マッシュアップサービスは大流行です。最近大流行のミニブログサービスTwitterにはぼく自身もはまっていまして、そこで立ち上げたマッシュアップサービスが「ecoったー」と「necoったー」です。ecoったーは、TwitterのIDとパスワードを入れて、My箸を使った、レジ袋を断ったというような環境に貢献する行動をとったら投稿できるという、シンプルなサービスです。御存知のように、TwitterはSNS的な要素があって、自分の投稿は多くの人に見られることになる。で、そういう風に友達の友達にちょっといい環境貢献がバイラルで広がっていくことも期待してつくったサービスです。

弊社の最近のテーマのひとつは「Web屋らしい社会貢献・環境貢献ってなんだろう?」なんですが、その答えのひとつでもあります。necoったーは、自分のパートナーにしたい「neco」という架空の動物を選んで、Twitter上での会話を通じて育成をしていくというサービスです。Twitter上にはbotやエージェントプログラムがもう結構いますが、Twitterの面白さのひとつはそこにあるんじゃないか、というところからアイデアを広げたのです。

Twitterはいま、日本で爆発的にはやってきましたよね。APIを公開してくれているので連携サービスがつくりやすい。また、マッシュアップサービスをつくるメリットというのは、元のサービスにすでに沢山のユーザーがいることです。サービスをリリースしても、新たに自分達でユーザーを募る必要がない。かつTwitterのようなソーシャルインフラが優れているのは、こういうサービスができたよってこと自体もそのサービス上で口コミでひろがっていくということですね。たとえば「necoったー」は、当初はTwitter上でしかサービス開始告知をしていませんが、いきなり200人くらいの人が登録してくれたりしましたから。

Twitterはあっという間に火がついたし、マッシュアップサービスもほんの短期間で沢山できました。これを見ても、やはりこれからのWebサイトは、APIを公開するかどうかが非常に重要だと思っています。ecoったー、necoったーというふたつのサービスは直接利益があがるものではないのですが、自らプレーヤーになることでインパクトを体感したり、API活用のためのノウハウなどをどんどん取り入れたりしたいと思っています。



(取材:蜂賀亨  撮影 谷本夏)






中野宗(なかのはじめ)

株式会社アークウェブの取締役副社長/CMO(最高営業責任者)。Webプロデューサー。

オープンソースのECサイト構築ソフトウェアの日本語化プロジェクトである「Zen-Cart.JP」の立ち上げ、Web制作者コミュニティ「WebSig24/7(WebSig 24/7)」のモデレーター、Web屋の“楽しい”社会貢献を志す「WebSigエコ&ピース」代表などを務める。最近ではTwitterのマッシュアップサービス「ecoったー」「necoったー」(いずれも自社サービス)の企画など、Webの新しいことにのめりこむ毎日

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