第1話 観光写真っぽくない風景写真を | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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グラフィックデザインと関係性が強い写真の世界。なかでも風景写真は、広告をはじめ様々な媒体の「空気」を映し出す。しかし、オーソドックスでありながら、実は扱いが一番難しいのが風景写真……という声も、よくデザイナーから聞かれる。そこで今回は、大和ハウスグループ「共創共生シリーズ」を例に、撮影を手がけた写真家の久家靖秀さん、アートディレクターの岡本学さん(サン・アド)のお二人に話をうかがった。風景が呼び起こす広告デザインとは?


第1話 観光写真っぽくない風景写真を



久家靖秀さん(右)と岡本学さん(左)

久家靖秀さん(右)と、岡本学さん(左)


気軽にお願いできない写真家?



──お二人の出会いは?

岡本●去年、この仕事(大和ハウスグループ/共創共生シリーズ)で初めてご一緒させていただきました。

久家●そもそも、サン・アドさんとの仕事が初めてで。

岡本●僕が以前から、久家さんの写真のファンだったんです。すごいなと思ったのは写真集『LIFT』で、そのあと小さい作品集が2冊出たじゃないですか。

──コクヨのノートシリーズ『塩ノ花』と『三宅島』ですね。

岡本●あれも、すごく好きだったんです。当然『Ku:nel』や『ハイファッション』などの雑誌を見ていて、いつか久家さんと仕事したいと思っていました。で、ちょうど大和ハウスさんの新聞広告の企画がありまして、どなたに撮影を頼もうか……と考えたときに、思い切って久家さんにお願いしようと。でも久家さんって、僕からすると広告写真家ではなくて“アーティスト”なんです。

久家●それはあんまり自覚がないんだけど……。

岡本●いや、みんなそう思っていますよ。だから、気軽にお願いできない方って(笑)。

久家●依頼があれば広告も普通に撮ってますよ。しかしそういうイメージ、雑誌の仕事が多かったことが原因なのかな? 雑誌って予算も時間もなかったりするから、結構おまかせなところがあるじゃないですか。どういうふうに見せたらいいか、ディレクションに近いことまで考えながら撮ることが多い。その結果、好き勝手やって、そういうふうに思われちゃったのかもしれない。

──どのように依頼を?

岡本●まず僕の会社の先輩にあたるイラストレーター、川原真由美さんに相談してみたんです。久家さんと交流があるから。

久家●川原さん、同人誌仲間なんですよ。

岡本●そうしたら「いい人だし、この企画は適任」とのお墨付きをもらった。そこで、勇気を振り絞って(笑)連絡したわけです。

──岡本さんは、サン・アド内で大和ハウス担当なのですか?

岡本●はい。2年ぐらい前からやっています。住宅メーカーですが、このときは大和ハウスグループ全体の企業広告。住宅だけでなくいろんな事業をやっていますから、それをひとつにまとめたものですね。大和ハウスグループの「共に創る。共に生きる」という理念で企業広告を打ちたいと依頼があった。もちろん何案か提案したのですが、選ばれたのが日本に古くからある暮らしの知恵をピックアップして、それがいまも人と共生している。そういう精神を大和ハウスグループはお手本にしている……というアプローチでやりましょうと。


大和ハウスグループ「共創共生シリーズ」水舟編

大和ハウスグループ「共創共生シリーズ」新聞広告より、
岐阜県郡上市八幡町で撮影されたシリーズ第一弾「
水舟編」(2006年8月)
その後の「草屋根編」「通り庭編」と合わせて、
第55回朝日広告賞 部門賞(不動産・建設部門)、
第74回毎日広告デザイン賞 優秀賞を受賞。

写真:久家靖秀 イラストレーション:川原真由美
クリエイティブ・ディレクション:古居利康 アート・ディレクション:岡本学
デザイン:長谷川美幸 コピー:蛭田瑞穂













いい意味で“変わっている”構図



──3パターン、素晴らしいですね。久家さんにもぴったり。

久家●ええ。ちゃんと考えた形で仕事をいただいて嬉しかった。

岡本●でも、最初から全部のパターンが決まっていたわけではなかったんです。とりあえず1回目の「水舟編」だけ決まっていて、その後は取材を進めながら「このテーマで」と探っていった。ただ、日本の地方の風景を撮るというのは一貫したことになるだろうと想像していたから、あまり観光写真っぽくしたくなかったんです。

──ちょっとクールな視点が欲しい、と?

岡本●クールというか……そもそも僕は、久家さんの写真の構図が好きなんです。いい意味で変わってる(笑)。僕がデザイナーだからかもしれませんが、雑誌をパラパラめくっていてパッと目が止まる写真があると、久家さんだったりする。やっぱりそういう変な構図が意識にあったんですね。

久家●ハハハ。

岡本●それを活かせないかなと。でも、真面目な企業広告なので、あんまりヘンなこともできない。

──その中間ぐらいで。

岡本●そうですね。

──確かに、久家さん特有の角度ってあります。いま雑誌の話が出ましたが、久家さんの写真を雑誌に載せるとき、実は編集者やデザイナーは苦労すると思うんです。トリミングできなしい、ノドのことも考えないから(笑)。

久家●昔は考えていたんですよ(笑)。

──でも、そういうのが意外に、苦労してハメ込んだら……

岡本●エッジが立つんですよね。

久家●それは『Number』みたいな雑誌の経験が大きかった。ポートレートにせよ風景にせよ、エデイトリアルの写真を撮る場合、グラフィックの要素を入れながら記号性のある撮り方ってあると思うんです。ただ、それを追いかけてしまうと、一冊になったときの伝わり方も、一枚の写真の伝わり方も、軽くなるというか。

──そこで、どこかフックが残るような構図を。

久家●そう。僕はデザインの専門的な勉強をしたことないですが、そういうことを雑誌の仕事を続けながら、少しずつ自分の中で整理できてきた。特に風景に向かうときは、記号的なものからの距離の取り方を考えようになりましたよね。


次週、第2話は「良質なマガジンワークのような取材」を掲載します。

(取材・文:増渕俊之 写真:FuGee)



久家靖秀さん

[プロフィール]
くげ・やすひで●1962年福岡県生まれ。90年よりフリーとなり、雑誌や広告など幅広く活動。「交叉/配列シリーズ」をはじめ、個展も多数開催。2002年、日韓共催W杯日本代表選手公式写真の撮影を担当。作品集に『Aliens』『HONDA絶対速度』『cover/girl』『LIFT』『塩ノ花、三宅島』がある。


岡本学さん

おかもと・まなぶ●1967年京都生まれ。アートディレクター。数社の広告制作会社、デザイン事務所を経て、97年サン・アド入社。広告のアート・ディレクションから、装丁等のグラフィックデザインまで幅広い仕事を手掛ける。サントリー環境広告「水と生きる。SUNTORY」シリーズで東京ADC賞、大和ハウスグループ「共創共生」シリーズで朝日広告賞部門賞、毎日広告デザイン賞優秀賞など受賞多数。


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