第1話 ユニバーサルデザインの先駆「カレンダーキューブ」 | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-

第1話 ユニバーサルデザインの先駆「カレンダーキューブ」

2024.4.18 THU

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旬のアートディレクターをお迎えして、デザインする際の思考プロセスを伺うとともに、創作のスタンスに迫るこのコーナー。第17回目は高橋正実氏。第1話では立方体の形状に点字印刷を施した「カレンダーキューブ」を紹介する。




第1話
ユニバーサルデザインの先駆
「カレンダーキューブ」




●要望に応えて自社で制作・販売



隆起印刷による点字を盛り込んだ「カレンダーキューブ」。現在、2008年版が発売されているが、そこに至るまでにはさまざまな困難があった。
「もともと、シルクスクリーンの印刷会社と共同で、10年くらい前から毎年出していた商品なのですが、ここ2年ほどは生産が休止されていたのです。ただ、その間にも多くの方から“もう入手できないのでしょうか”との問い合わせをいただきました。そのような社会的にも意義のある商品ですので、今まで自社では避けていた作品販売の分野にもチャレンジすることで、再び作っていくことを決めたのです(http://www.masamidesign.co.jp/)。今のところ東京書籍(Webショップ)や日本点字図書館で扱ってもらっています」(高橋)


現在、このようなグッズは「ユニバーサル・デザイン」としてカテゴライズされる。だが、その概念が定着していなかった開発当時、コンセプトを語るうえで、なかなか周囲の理解を得られないことも多かったようだ。

「“点字のカレンダー”というと、点字のみで構成されたものをイメージされがちですが、本来であれば1つの部屋に2つのカレンダーは必要ありませんし、なるべく多くの方がものを共有できる社会のきっかけともなる商品を、生み出せないかと考えたのです。このカレンダーは、通常の文字(墨字)を刷った上に、透明で点字印刷を施しています。上方にある点字の箇所だけは文字の上に重ねていませんが、これは、健常者に“点字って水玉みたいでかわいいね”と興味を持ってもらうきっかけのための工夫です」(高橋)


●アイデアと技術を融合する



点字部分にはUVインキが使われている。当時開発されたばかりの印刷で、一般的な手法ではなかった。「アイデアと技術をミックスさせて、社会の問題の解決策となるもの」を目指す高橋さんならではの発想だ。さらに、詳細な仕様を固めていく過程では使い勝手を重視。注目を集める特徴的な立方体の形状も、緻密な計算に基づくものである。
「依頼してくださった印刷会社の社長は、壁に掛けてあるポスター状の仕上がりをイメージしていたそうです。けれども、そのタイプでは、視覚障害者にとって、貼ってある場所が分かりづらいように感じました。また、曜日と日付けの面積も広すぎて、やはり理解しづらいのではないかと思ったのです。ちなみに、このカレンダーは立方体ですが、表裏の6面で計12カ月になります。組み立てる際に、“パチッ”と音が鳴るような仕組みのため耳で確認しながら組み立てられるようになっています」(高橋)


●あらゆる環境下での使用を想定する


これらはすべて健常者と視覚に障害をもたれる方が共有できるコンセプトに基づいて考案された。それは、配色や文字の扱い方に関しても同様だ。単一的な「バリアフリー」ではなく、あらゆる人、さまざまな環境下での使用を念頭に置いている。
「明度や彩度の差を考慮して、なるべく多くの人が読みやすい配色にしています。たとえば、青白いような紙の上では、光が反射する関係で、文字が細く見えてしまうこともあるのですが、それも回避しています。書体についても同様で、太さやエレメントの特徴によって、同じ級数の場合にも大きく見える書体を作り出しました」(高橋)


とはいえ、完成後に「使ってみて初めて気付いた」ことも多い。それらを踏まえ、実際に年月を重ねるごとに、改良していった箇所も存在する。
「1年目のカレンダーには天地を示す矢印の印刷を入れていませんでしたが、立体型であるために、天地が分かりづらいこともあるのでは、と改良に踏み出したのです。しかしその頃、点字には矢印に該当する文字が存在しませんでした。そこで2年目のカレンダーを制作する際には、矢印を隆起させ、印刷をしているのです。さらに翌年には、見た目には片仮名の“ハ”のような形にしました。インキの特性から、見た目に矢印であるよりも、実際に触ってみると、そのほうが矢印のように感じるのです」(高橋)


●当たり前のことを見直してみる


当たり前になっている物事を、再び出発点から見直す姿勢。それを高橋さんは「カレンダーキューブを制作した頃、確立することができた」と語る。
「常に相手の立場になって考えることで、良いものを作ろうと考えていたつもりでしたが、矢印というものの発想自体も健常者からの発想だったと気づいたのです。そう考えてみると、私たちが使っている矢印も、はじめは誰かが考えたものですが、もしかしたら方向性を示す概念として、もっと適した方法があるのかもしれませんね」(高橋)

(取材・文:佐々木剛士 人物写真:谷本夏)
次週、第2話は「教科書のデザイン」について伺います。こうご期待。



高橋正実(たかはし・まさみ)
1974年東京生まれ。桑沢デザイン研究所グラフィックデザイン研究科卒業。デザイン事務所に勤務後、97年に独立。現在MASAMI DESIGN主宰。コンセプトの組み立てを得意とするところから、デザインワークはグラフィック、パッケージ、インダストリアル、エディトリアル、空間など多岐に渡る。主な仕事に、フランフラン10周年記念商品パッケージの総合デザイン、森ビルイベントの広告、持田製薬「コラージュフルフル」総合デザイン、横浜美術館15周年記念展示会総合デザイン、東京書籍の社会科教科書のエディトリアルデザインなど。

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