第2話 「編集レイヤー」の必要性 | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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タイトル画像、第11回Webプロデューサー列伝 中村博久

誰もが、ブログのように簡単にWeb上で本を作れる新しいCGMサービス「BCCKS」(ブックス)が12月からスタートする。そのコンセプトデザイン及びアートディレクションを手掛けているのは、グラフィックデザイナーあり、これまでにも「ポップアップコンピュータ」、「ジャングルパーク」、「動物番長」といった数々のメディアデザインに取り組んできた松本弦人氏。いったい「BCCKS」とはどのような新しいサービスなのだろうか? 松本弦人氏に話を伺った。


第2話 「編集レイヤー」の必要性


過去の仕事が「BCCKS」に生きている


——以前作った「ポップアップコンピュータ」とかの想いもあったのですか?

松本●はは、懐かしいなあ(笑)。いや、特に想いとかはないはずなんだけどね。でもそれなりの規模のモノを作ろうとすると、どうしても最後は個が出ちゃうんですよ。だから、なんだか似たような答えになりますね。「ポップアップコンピュータ」は飛び出す絵本をメタファーにしたCD-ROMエンターテイメントメディアで、当時、それなりに評価されたんですが、ちょっと調子に乗っちゃって、今度は「ポップアップメーカー」っていう「飛び出す絵本を作れるツール」ってのを出しちゃったんです。もちろん失敗しました。あれは「飛び出す絵本」じゃなくて「本」にすればよかったなとずっと反省してました。つまり「ブックメーカー」です。

——それはなぜでしょうか?

松本●当時はWebがまだ完全に文字ベース。画像も音も動画もフラッシュも一切なし。そんな時代のコンピュータって箱の中に初めてエンターテイメントを持ち込んだのがCD-ROMっていう怪しいメディアでした。まあ、出来ることなんか限られていて、小さなモニターの中にちんけな3D空間をレンダリング(リアルレンダリングじゃないですよ)して、その空間の中を「前に進む」「右に進む」「左に進む」の三択を駆使して冒険を味わうという、それはそれは今から考えると、ちんけなエンターテインメントだったんですね。でも、そんなモノでも、普段、派手な3D空間もきれいな写真も美しい音源もエロ動画もなんにも入っていないコンピュータにとってはすごく刺激的なことだったようです。

「ポップアップコンピュータ」はそんなちんけなメディアに対して、やっぱりちんけなアンチ魂を持って作られました。どんなアンチかっていうと、前、右、左って三択の移動を「ページをめくる」という移動に置き換えたんです。そしてそれは「移動」であるからには楽しくなければならなくて、楽しいページめくりといえば飛び出す絵本なわけですね。そこまではよかった。それを一般ユーザーに解放しようとしたのが「ポップアップメーカー」です。その解放の仕方を間違えたんですね。当たり前だけど「飛び出す絵本」を作るのは大変だし考えないといけない。なにより「飛び出す絵本」を作りたくてしょうがない人なんてそんなにいないじゃないですか。でも「本」ならどうですか? Webとツールの違いこそあれ「ブックメーカー」と「BCCKS」の根本は、かなり近いところにあったんじゃないでしょうか。

他にも、オイラが今まで経験してきた本、カタログ、広告などのデザインや、ゲーム、映像などのディレクションなどの、ある意味集大成的なメディアがBCCKSなんだと思います。今は。

「編集する」ということ


——CGMを「編集する」というのは?

松本●「片付けられない部屋」の責任は、住人や部屋にもあるんだけど、そのモノ自体にも責任があります。そのモノ自体がどこにしまわれたいのかがわからないんです。部屋はWeb空間やブラウザーやサービスで、住人はオイラやユーザーのことですね。モノとはもちろんブログをさします。

どこにしまわれたいのかわからないブログとは、たまたま昨日食べたカレーの話が書かれてる「ラーメンブログ」のことです。その「ラーメンブログ」にはもしかしたら5年間毎日のように食べ歩いたラーメンの話が書かれているかもしれないですし、ほとんどカレーの話かもしれません。ラーメンについて際立った情報が欲しくて時間がないオイラにはその賭けに出る勇気なんかないんですね。なにしろ確率は百分の一とか千分の一とか一万分の一なんだから。
猫で検索して安達祐実が引っかかり、ラーメンで検索してラーメンブログが当たってもカレーの話が書かれてるかも知れない。もーやってんらんないですね。そりゃ。

じゃあ、それが本だったらどーですか?赤くて太くて丸くてかわいいロゴが入った猫の表紙の本だったら。オイラが著者だったらそこにカエルの話は書かないですね。カレーの話も。キャットフードの話は書くかもしれないけど安達祐実の話は知りもしない。そーして書かれたその本は、写真はそれほどでもないかもしれないし、文章も誤字脱字だらけでテニオハもおかしいと、とても売り物にはなりそうにない本かもしれないけど、立派な猫のCGMになってる確率は高そうじゃないですか。なにより「かたづけられる場所」ははっきりしますよね。本屋で言えば地下一階の生物・動物コーナーですかね。モノがはっきりすれば片付け方がはっきりする。片付けられた部屋なら、探すのも簡単だし、探す気も起きる。


上:猫の写真が表紙のブックビューワー画面。「CAT」というかわいい雑誌風ロゴの表紙イメージ


上:猫の写真と記事が掲載されているブックのビューワーページ画面

——松本さんにとって編集とは?

松本●綴じることです。
いろいろなことのなかから取捨選択してある指針にそってまとめる作業が編集です。編集という行為は、普段誰もがやっていることです。写真をアルバムにまとめるのも、家計簿を付けるのも、今日の献立を考えて買い物に行って料理を作るのも、合コンのメンツを考えるのも、洋服をクローゼットにしまうのも、すべて編集じゃないですか。編集があるから合コンがうまくいくんです。

編集ということの意味が何だかわからない人でも、洋服をクローゼットにしまうのはプロだったりします。パンツはここ、シャツはここ、少しでも沢山入るように、取り出しやすいように、着る頻度順に、あげく彩りとか並びの美しさとかまできたら、下手なファッションエディターより実力ありですよ。きっと。

なんらかの編集がされてるものは、されていないそれより明らかにわかりやすく美しいし、時に新しい意味を持ちます。そして、わかりやすくまとめたモノは多くの人にもわかりやすく、美しくまとまったものは人に見せたくなり、新しい意味を持ったものは一人歩きを始めます。そしてそれを人に見せるには綴じるんです。言い換えれば綴じるために編集がなされるわけです。

そして、綴じるためには箱が必要です。アルバムがなければ写真はばらばらだし、クローゼットがなければ部屋が洋服だらけです。ジャストなサイズで程よいページ数のアルバムがあるから人は写真をまとめるし、ハンガーとクローゼットがあるからきれいに服を片付けられるんです。BCCKSは片付けられない部屋にクローゼットをおくだけです。あとは住人が勝手に綴じてくれます。


(取材/服部全宏 撮影/谷本夏)

[プロフィール]
松本弦人

デザイナー/BCCKS チーフ・クリエイティブ・オフィサー

コンピュータによるグラフィックデザインの黎明期から積極的に先端技術を取り入れ様々なメディアへのデザインに取り組む。主な作品としては「ポップアップコンピュータ」「ジャングルパーク」「動物番長」など。
これまでの主な受賞歴としては、マルチメディアグランプリ、通産大臣賞、日本ソフトウェア大賞、読売新聞賞、ADC賞、TDC賞他受賞。
[ 関連サイト ] BCCKS http://bccks.jp

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