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第1話 ミックス・カルチャーの象徴『STYLE DEFICIT DISORDER』

2024.4.20 SAT

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旬のアートディレクターをお迎えして、デザインする際の思考プロセスを伺うとともに、創作のスタンスに迫るこのコーナー。第18回目は米津智之氏。第1話では、2008年に刊行される洋書『STYLE DEFICIT DISORDER』(CHRONICLE BOOKS)を紹介する。



第1話
ミックス・カルチャーの象徴
『STYLE DEFICIT DISORDER』




洋書でも基本的なスタンスは同じ


個人で受ける仕事と並行して、デザインユニット「絵露帝華(EROTYKA)」名義でも活動している米津氏。今回注目する書籍では、そのユニットでパートナーを組んでいるTiffany Godoyさんが、執筆やコンテンツの選定も含めた「編集責任者」の役割を担っている。
「Tiffanyはアメリカ人なのですが、エディターとして日本のファッション関係の仕事に携わっているのです。この本では、彼女の好きな原宿の文化を扱っていて、僕はアートディレクションを担当しています。アメリカでの発行だけではなく、イギリス版発行の確定や日本版発行の予定など、いろいろな展開が予想されています」


当然ながら、記述言語は英語。デザインの手法としては、日本語を中心とした通常の仕事と何らかの違いがあるのだろうか。そんな疑問に対し米津氏は「それほど大きくは変わらない」と答える。

「見出しやキャッチコピーなど、キーワードと対応させて、あえて和文を盛り込むような工夫はしています。ただ、アートディレクションの基本的な考え方として“ビジュアルメッセージを創る”というスタンスは、日本語で行う仕事の場合と同様です。海外で出版される本だからといって、特別な意識を持つことはありません」

「ミックス・カルチャー」の表現


所々に日本語が記載されていることをはじめ『STYLE DEFICIT DISORDER』には、タイポグラフィでの「遊び」が満載である。本文書体などを除き、見出しのような部分で使用した書体はすべて、この本のために作成したものだ。
「日本のポップな文化を紹介している本なので、それに見合った色や文字の使い方を意図しました。この本は“THE ROOTS”、“KAWAII”、“CYBER & BEYOND”、“GOTH-LOLI”、“URA-HARA”、“POST-HARAJUKU”と6つの章で構成されているのですが、カテゴリーごとに色や文字を使い分けています。それぞれの章ごとにオリジナルで制作した書体をシンボリックに使用していくことで、原宿の文化がミックス・カルチャーであることを象徴する構造にしているのです。このような全体の方向性と骨格を決めるまでには、とても多くの時間を費やしました」


セクションの区切りを示す、章と章の間に挿入されたコラージュ写真も印象的だ。米津氏曰く、これも同じく「ミックスカルチャーを表現するための手法」である。
「章ごとのコラージュでは、その章に登場している人物のみを使用しています。いろいろな人が集まって、1つの文化になっていることを表現しているのです。さらに、本の最初と最後の部分には、章のごとのコラージュをさらにコラージュしたものも掲載しています」

客観的に情報を提示する姿勢


書体と色、コラージュ処理によって、明確に区分された各カテゴリー。一方で、本文中に掲載されている数多くの写真に関しては特別な処理は行われていない。
「原宿に関する辞書のような本に仕上げたかったので、味付けは色と文字と扉のみに留め、本文の写真はシンプルに見せていくことにしたのです。章ごとの写真の見せ方まで必要以上な力を注いでしまうと、個人的な思い入れが込められてしまいますから。それぞれのカルチャーを客観的に紹介するために不必要なメリハリは付けず、すべての情報を平等に提示したわけです」

このような客観的な発想は、エッジの効いた印象深いカルチャー媒体に深く携わっているアートディレクターの言葉としては、少し意外に感じられるかもしれない。だが次の言葉からは、あくまでも「作り手」としての米津氏の姿勢が強く感じられる。

「何らかの特定の文化に強い思い入れがあるわけではないんです。もちろんカルチャーの動きは好きですが、主観的に入り込み過ぎず、かといって完全に外側から観察しているだけでもない。デザイナーとしてはその間の微妙なバランスを保ちながらビジュアルコミュニケーションをしています」
(取材・文:佐々木剛士 人物写真:谷本夏)


次週、第2話は「客体を生かすデザイン」について伺います。こうご期待。




米津智之
1974年、愛知県出身。1998年、多摩美術大学グラフィックデザイン科卒業。ヒロ杉山氏の「エンライトメント」にて設立時よりチーフデザイナーを務める。2002年、独立。Tiffany Godoyとのディレクターユニット「絵露帝華」を結成。ファッション関係、音楽関係、広告関係を舞台に、アートディレクター、グラフィックデザイナーとして活躍中。マネージメントオフィスFemme所属。http://www.femme-de.com/

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