旬のアートディレクターをお迎えして、デザインする際の思考のプロセスを伺うとともに、創作のスタンスに迫るこのコーナー。第19回目は山田英二氏が代表を務めるウルトラグラフィックス。第1話では「コピー07 TCC広告賞展」の会場制作、および告知ビジュアルを紹介する。
第1話
集客力をアップする告知ポスター
「コピー07 TCC広告賞展」
コピーを見せるための工夫
2007年5月22日から6月9日まで、カレッタ汐留にあるアド・ミュージアム東京にて、東京コピーライターズクラブ(TCC)主催による「コピー07 TCC広告賞展」が開催された。山田氏は、このイベントで告知ポスターなどのグラフィックを手がけた。
「バリエーションを変えながら全部で数10パターンを用意したポスターで、カレッタ汐留の館内各所をジャックしました。コピーライターが出してくれた言葉にグラフィックを組み合わせて、1枚ごとに異なるビジュアルを用意したのです。ただし、あらかじめ1つのフレームを作成し、それはすべてのポスターに共通して使用しています」
同時に会場のレイアウトも担当。TCC賞に選ばれたキャッチコピーがズラリと並んだ本会場では、告知ポスターとは違う見せ方を採用した。
「キャッチコピーの展覧会であることを意識して、会場に展示された作品には、余計なビジュアルを組み合わせませんでした。フレームだけはポスターと同じものを使用することで額縁のように見せ、その中にテキストだけを配置したのです。すぐれたキャッチコピーは、文字のみでも人を惹き付けられるものですからね」
多彩なポスターを掲出したわけ
これら工夫は、すべて山田氏から提案されたもの。展示会場における潔い作品の見せ方も特徴的だが、告知ポスターのバリエーションの豊富さも圧倒的だ。会場近辺を埋め尽くしたり、パターンの異なるビジュアルを数多く用意した狙いは、どこにあったのだろうか。
「今回の仕事では、どうすれば来場者を増やせるかが課題でした。今まで広告に興味のなかったターゲットを、何とか展覧会に集めることが大きな目的だったわけです。そのように考えた場合に大切なことは、たまたまカレッタ汐留を訪れた人たちにも“行ってみよう”と思わせること。そこで面白そうなポスターを大量に貼れば何らかの反応があると考えました」
とはいえ、これだけの数を揃えるためには、相当な手間が必要とされる。だが驚くべきことに実際に貼り出されたポスターのビジュアルは、制作段階で候補に出されたアイデアのほんの一部に過ぎないのだ。
「数多くバリエーションを作るために、社内からアイデアを募集したんです。ただ僕が最終的に選ぶ際には、ほとんどはボツになっています。だから実際には形になったものの20〜30倍の候補があったはずです」
「数多くバリエーションを作るために、社内からアイデアを募集したんです。ただ僕が最終的に選ぶ際には、ほとんどはボツになっています。だから実際には形になったものの20〜30倍の候補があったはずです」
集客力のポイントは存在感
これらの工夫が功を奏して、2007年の展覧会では例年より来場者数がアップ。集客力を手助けする仕組みが必須となるイベント関連の告知グラフィックで肝心なことを山田氏は次のように断言する。
「まず何より重要なのは“存在感”でしょう。“展覧会をやっているんだ”とわからせること。特に今回のように幅広い層をターゲットとする場合、会場近辺のグラフィックでは、その場に居合わせた人たちにも訴えかける工夫が必要となります」
専門性の高いイベントでは、対象を厳密に定めてピンポイントで訴求する手法が採られるだろう。だが「コピー07 TCC広告賞展」のアプローチは、それとは異なるものだったのである。
「広告関連のイベントだったので、会場付近だけではなく広告代理店の玄関などにもポスターを貼りました。ただ、そこでの告知ビジュアルは、カレッタ汐留のものとは異なり、プロの目線で見たときに“面白い”と感じるポスターにしています。それを会場近辺に貼ってもダメだろうし、反対に専門家が告知を見るような場所に一般向けのものを貼っても効果はなかったでしょう。つまりポスターを貼る場所、見る人たちによって、方向性を変えることが重要なわけです」(取材・文:佐々木剛士 人物写真:谷本夏)
次週、第2話は「モノクロ写真と文字で魅せる広告」について伺います。こうご期待。
「広告関連のイベントだったので、会場付近だけではなく広告代理店の玄関などにもポスターを貼りました。ただ、そこでの告知ビジュアルは、カレッタ汐留のものとは異なり、プロの目線で見たときに“面白い”と感じるポスターにしています。それを会場近辺に貼ってもダメだろうし、反対に専門家が告知を見るような場所に一般向けのものを貼っても効果はなかったでしょう。つまりポスターを貼る場所、見る人たちによって、方向性を変えることが重要なわけです」(取材・文:佐々木剛士 人物写真:谷本夏)
次週、第2話は「モノクロ写真と文字で魅せる広告」について伺います。こうご期待。
●ウルトラグラフィックス(山田英二) |