第1回 ホームページつくると、いくら儲かりますか? | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-

第1回 ホームページつくると、いくら儲かりますか?

2024.4.20 SAT

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ケッカ!を出す
サイトプロデュース


Webプロデューサーはつねに結果を意識しなくてはならない。企業のサイト構築に「つくりっぱなし」はなく、運営・管理・コストを意識した提案こそがユーザーとクライアントを満足させる結果を導く。


文=村田アツシ
文=村田アツシ
(株)セットアップにて、企業サイト構築及び、業務系システム構築においてコンサルティングを手がける
url. www.setitup.jp/




Clip No.1
ホームページつくると、いくら儲かりますか?


企業サイト構築の場合に、クライアントが望むものは何だろう? オリエンなどで提示される内容は、ブランドやデザイン、インターフェイス、コンテンツに重きが置かれているケースがほとんど。

部署の担当者は、上司や統括部署より与えられた命題を、ベンダーである私たちWebプロデューサーやデザイナーに希望として説明する。

しかし、企業が望むものはつねに結果であり効果。行き着くところは数字である。経営者の多くは、効果がわからないものを非常に嫌う。そのへんをつねに留意してほしい。


今回のケース 
「予算のない企業のホームページをいかにつくるか?」


4年ほど前、大手流通業の企業より、こんな依頼が来た。担当である総務部からのリクエストは、「上場企業でもあるので、ホームページをつくりたい。つくるからには儲けたい。でも今期の予算は取ってない」とのこと。ITビジネスの企業とは違い、商人魂ばりばりのモルタルが本業の企業。当然ITリテラシーも低く、「パソコンを眺めてるなら店に行け!」という社風である。

「儲かる企業サイト……」

あなたがWebプロデューサーであれば、どのように提案するだろうか? 今回は私たちが経験した実際のケースを一緒に考えてみよう。

切り口やアプローチを考える

「儲ける」という意味を、さまざまな角度から考えてみる必要がある。より具体的なイメージがわくように、この企業の概況を説明しよう。

当時の担当者は総務部部長、年齢は50歳を超えたぐらいで、パソコンはあまり詳しくなく、インターネットにも興味がない。ドメインやプロバイダーなどの、自社のネットワーク環境も当然知り得ない。その他の情報は以下の通り。

1) 東証1部上場企業 年商1,000億以上
2) 百数店舗と、15万アイテムの商材
3) 北陸から関西までの広い商圏エリア
4) 従業員3,000人の他にパート&バイト
5) 担当部署はホームページを把握していない
6) 予算を取っていないので、とにかく安くつくってほしい


つねづね思うが、利益を出している会社こそ、予算には厳しいようだ。実はこの企業は、ホームページ自体はすでに開設されていたが、すべてを外部に委託していたために、情報は数年前の内容で、更新されていなかった。

クライアントを知る

ここで、陥りがちな提案例を紹介しよう。

●豊富なアイテムを生かし、ケータイと連動したショッピングサイトを構築する!
ポイント制と連動し、会員制のマーケティングサイトを構築する!
ベンダーを集め、楽天のような新しいサービスを開始する!

企業への新規ビジネス提案としては、どれもまちがいではない。

儲ける=ビジネスによる売り上げ

という考えもまちがっていない。しかし、この手の提案に担当者は耳を貸すことはないだろう。理由は明確で、今回の依頼は総務部であり、商品を扱う商品部でも、広報やマーケティング部でもないから。

「会社を見て、組織を見ない提案」は実らない【1】。

同じ会社でも部署間の連携が必ずあるとは限らない
【1】同じ会社でも部署間の連携が必ずあるとは限らない

発注元のクライアントの社内的なポジションを把握していないと、このようなオーバースペックな提案になり、時には相手をいらつかせることもある。

解決は「原資のすり替え提案」
削減=儲け


通常の企業サイトは、企業の情報を正確に、タイムリーに伝えることが使命だ。単なるIR目的の企業サイトでは、直接的な売り上げをつくることは難しいのが現状。しかも予算も時間もかけずに……。そのことを正確に伝えたうえで、儲かる企業サイトという考え方の視点をどう変えさせるか? これがこの案件のテーマとなる。ここからは、私たちの行った手法を紹介しよう。

営業の常套手段だと思うが、「原資のすり替え」で、コスト削減を行い、経費圧縮分を「儲け」と位置づけた。

通常、上場企業は決算報告の公示を既存の経済新聞やその他メディアで行うのだが、この年よりインターネットでの開示が条件付で許可された。そこで、メディアへの出稿費を今回のサイト構築に充当。管轄税務署などへの確認を行い、インターネットでの情報開示が問題ないことも理解していただいた。その結果、約200万円が制作費として捻出できた。

予算を取っていないとはいえ、出費を覚悟していた担当者は、稟議書を書かずにすんだ。経営者も、新たな出費を発生させずにサイトを立ち上げられた点を評価したようだ。

先方の、当初からのニーズである「儲ける」ということに関しては以下のように説明をした。

今回の、広告費を原資とした200万円の内訳を、ホームページ初期構築費100万円。四半期ごとのデータ更新(年4回)とメンテナンスで100万円。というように分けて説明(数字はわかりやすいように半分にしてある)。

つまり、2年目以降は決算関連の広告費用200万円が半額にコストダウンされるので、毎年「100万円が儲かることになります」と……【2】。

200万円という原資を使い、さらに経費削減を進める提案ができる
【2】200万円という原資を使い、さらに経費削減を進める提案ができる


作業の流れに無理を強いない

たのには、もうひとつ要因がある。それは、既存の総務部のワークフローに負担をかけずに運用が行えることだった。

経理部がつくった、決算短信や報告書のエクセルやワードのファイルをメールで私どもに送り、できあがりを確認する程度の作業で、サイトが更新されていく…。当時は、インターネットIRという言葉も新しく、満足していただいた。

一部上場企業であることと、インターネットでの法的開示が認められたことが、この仕事の背景にあるが、お金がない場合には原資をつくる提案こそ有効となる。

この案件には、おまけもあり、サイトを公開したところ、さまざまな要因から「株価」が上昇し、企業の含み資産が一時的に増えた。サイトが株価にも影響を及ぼす、という認識を与えることもできた。

「インターネットを使ったIRを強化すれば、企業価値が向上し、株価も高くなるかもしれませんよ!」と調子に乗って説明したが、インターネットなんてまだ信用できないとか、タイムリーな情報公開なんてめんどうくさい……と、軽く一蹴された。担当部署とは、時として自分たちの仕事内容や量を守りたがるところがあるようだ。

「会社を見て、組織を見ない提案」はNG!


本記事は『Web STRATEGY』2005年 創刊号 vol.1からの転載です
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