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第3回 便利なデザインは気づかれない!? - 秋葉秀樹の人に伝えるデザイン

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秋葉秀樹の人に伝えるデザイン

第3回 便利なデザインは気づかれない!?

2013年9月04日
TEXT:秋葉秀樹



(クリックで拡大)


突然だが、上の画像は私の自宅のトイレのドアだ。むだのないシンプルなデザインのドアという感じがするが、よく電気を消し忘れるという問題が発生している。とくに妻が消し忘れるのだが、かくいう私もテレビのリモコンをいつも適当なところに置いてしまい、見つからずに妻に叱られることがある。「また電気つけっぱなしだぞー(私)」「ちょっと、リモコンはちゃんと元にあったところに置いてよ(妻)」といったやりとりもしょっちゅうだ。

妻は電気を消し忘れやすく、私は物をなくしやすい。どうやら道具を使う人(=ユーザー)というより、人間にとって「気づくこと」と「気づきにくいこと」には個人差があるようだ。


便利なデザインほど気づかれにくいだけに難しいデザイナーの評価

さてこのドア、なぜ電気を消し忘れやすいのだろう? 私はその答えがデザインにあるだろうと思う。

写真でもわずかに見えるドアの左側に小さなスイッチがあり、点灯/消灯の状況を緑/赤のランプで知らせてくれるが、小さすぎて気づかない。さらにこのランプは、部屋を真っ暗にしないとわかりにくいという問題もある。

トイレのドアには小窓つきのものが多い。窓がついていると、点灯/消灯の状況が外側からもすぐにわかる。さらには、いまトイレが使用中かどうかを知る手がかりにもなりやすい。ドアをノックしてもわかることだが、ノックする側は気を使うし、ノックされた側も急いで用を足そうとしてしまい、これではお互い気まずい思いをするものだ。つまり、小窓がついているのは点灯/消灯の確認のためにあるにしても、そこからもたらす別のメリットがあるようにも思える。

私がこの話を長々と書いている理由のひとつは、小窓つきのドアならば、このような問題は「誰も気にもしない」だろう、ということだ。不便なデザインであれば文句を言われ、便利なデザインであれば気づかれない。なんだかデザイナーが評価されるってのは難しいな、とつくづく感じる。


便利なものほど気づかれにくいデザイン

そしてこの考え方は、私たちがデザインしているユーザーインターフェイスにも通じるものだ。知らない人が意外と多いようだが、iPhoneの着信画面のデザインには2パターンある。下の画像を見てほしい。


iPhoneの着信画面のデザイン、左が未使用時、右が使用中に着信があったとき(クリックで拡大)


使いやすいことにすら気づかずに使われるデザインこそ、良いデザインとよくいわれる。私の場合、Webサイトやアプリケーションのボタンひとつであっても、デザインに迷ったら「さりげなさと機能性を兼ね備えたものはなにか」を優先し、背景色やON/OFF表示などのレイアウトを決定することにしている。余計なものは足さない、何気なく気づいてくれる程度、そういったコントローラやユーザーインターフェイスであるところから考えるのだ。

第2回の記事でフラットデザインについての所感を執筆したが、総じていえることは「主張せずとも機能するデザイン」であることが大事であり、フラットデザインを見た目の平坦さだと理解すると、本来の目的から逸脱してしまう気がする。


コンピュータの中ではなく生活にあるデザインにもアンテナを張るチカラ

Webサイトやアプリケーションをつくるデザイナーである私たちは、どうしても美しいアプリデザインの事例などに目を向けがちだ。それはそれで大事なことなのだが、身の回りにある生活の一部(たとえば電子レンジのパネルやテレビのリモコンなど)に対して「これは便利だ!」とか「これは使いにくいなあ、私だったら…」という考えをもつ習慣をつけてはどうだろう?

案件が100あるとしたら、100通りの問題解決を迫られることになり、共通の解などはそう簡単にないだろう。「気づき」をトレーニングする材料は私生活の中にたくさんあり、さまざまな答えが見つかるかもしれない。



撮影:イベント実行委員スタッフの山下 裕一さん(クリックで拡大)


余談だが、上の画像は先日、岡山で開催されたセミナーイベント「CSS Nite in OKAYAMA, Vol.4」に登壇させていただいたときのワンシーンだ。

このときにも、今回のトイレのドアについて会場の参加者100名以上にミニ・ワークショップを行い「不便の原因」を考えていただいた。

会場の中から発表された意見で、私が思っていた不便さとは別な意見が発表された。その内容とは「ドアノブが右についているので、右利きの人には使いにくいのではないか?」というものだ。

私はこの「気づき」をとても貴重に思った。私の部屋なのにも関わらず、私自身がそこに気がついていなかったからだ。しかし、ほかの人なら不便に思うかもしれないという客観的な答えである。この「気づき」を100名以上の参加者と共有できたことが、セミナーイベントでの大きな収穫だった気がする。

そしてまたハッとした。トイレの前の部屋はとても狭く、ドアを右手で開けると何度か部屋の壁に右手をぶつけたことを思い出したのだ。これもすごい気づきだ!

いやいや…人の意見は聞いてみるものだと思う。




秋葉秀樹

【著者プロフィール】
秋葉秀樹(あきば・ひでき)
株式会社ツクロア(tuqulore) 代表取締役/デザイナー

本業はデザイナー。DTP・グラフィックデザイン・Webフロントエンド全般・Flashゲーム開発・3DCGと幅広く携わる。主な作品は海遊館やサンシャイン水族館とコラボしたAndroid/iPhoneアプリ「Ikesu」。NFC技術を世界で初めて水族館で利用して魚をスマートフォン内に持ち帰られる体験を提供し、2ヶ月足らずで一万人が利用、人の集まる場所に私たちのデザインがどうビジネスに貢献するかをテーマに仕事をしている。
近著に『Firefox OSアプリ開発ガイド』(リックテレコム)。その他、共著として『10倍ラクするIllustrator仕事術』(技術評論社)や『すべての人に知っておいてほしい HTML5+CSS3の基本原則』(MdN)など多数。
2013年4月に株式会社ツクロアを設立。

●株式会社ツクロア:http://tuqulore.com
●秋葉秀樹個人ブログ:http://akibahideki.com/blog/
●Grad3 - Easy CSS3 gradient editor -:http://grad3.ecoloniq.jp/


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