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デザイナーのための著作権と法律講座


第9回 コンテンツの利用に関する刑事罰のルール


アート・エンタテインメントの業務を多く扱う「骨董通り法律事務所For the Arts」の弁護士による、著作権とそれにまつわる法律関連の連載です。クリエイターが気になる法律問題についてわかりやすく解説しているので、ぜひ参考にしてください。

文:弁護士 中川隆太郎(骨董通り法律事務所 for the Arts)



誰でもネットで簡単に大量のデータをやりとりすることが可能となった今、コンテンツの違法利用が刑事裁判につながるケースも、もはや珍しいものではなくなりました。加えて、ここ数年の間に違法ダウンロードの刑事罰化や著作権侵害の非親告罪化が大きな話題になったこともあり、コンテンツの保護と利用のルールである「著作権法」と「刑事罰」との結びつきは、ますます身近なものとなっています。あまりわくわくする話題ではありませんが、今回は著作権法と刑事罰の問題について見てみましょう。


■ 著作権侵害の刑事罰は重い


著作権法では、著作権侵害に対する刑罰は、10年以下の懲役か1,000万円以下の罰金(またはその両方)とされています(このほか、例えば著作者人格権侵害は5年以下の懲役か、500万円以下の罰金またはその両方)。これは窃盗罪や詐欺罪と同じくらい重いものです。Bookでは、著作権侵害で処罰するための要件(裁判所が有罪と判断するのに必要な条件)は? というと、ざっくりと分けて、次の3つがあります。①著作物について故意(後で述べるように、日常用語とは意味が違います)によって複製やネット配信などの利用を行うこと、②その利用の許される事情がないこと、そして、③手続上の要件として、著作権者が告訴していることです。


②の事情というのは、例えば「権利者の許諾があること」や「そもそも著作権の保護期間が切れていること」です。ほかにも、「私的複製」「引用」「教育目的利用」「非営利上演」など、著作権法上特別に認められたタイプの利用であれば、②の事情が認められ、著作権侵害には当たりません。


「うっかり」は処罰されない


著作権侵害による刑事罰の要件は、民事責任(損害賠償など)の要件とある程度共通していますが、いくつか違いも見られます。中でも、特に大きな違いが二つあります。

まず一つ目の大きな違いは、過失でも損害賠償責任を負う民事とは異なり、刑事事件では原則として故意犯のみが処罰され、特別の規定がない限り過失犯は処罰されません。著作権法にも過失犯の規定はありませんので、誤って著作権を侵害してしまっても(民事上、損害賠償責任を負う可能性はありますが)、刑事責任を問われることはありません。

もっとも、刑事の世界での「故意」は、日常用語のそれとは少し意味が違うので要注意です。日常用語の場合は、「わざと」「ことさらに」といった意味で使われますが、刑事の世界では、自分の行為とそれにより起こりうる結果について認識しつつ、「まあいいか」と行為に及んだ程度でも、故意が認められます。

stick では、②の許される事情があるから大丈夫だと思っていたが、実はそんな事情はなかったという場合、故意は認められるのでしょうか。この点はいろいろな考え方があるところですが、例えば、権利者の許諾ありと誤解してコンテンツを勝手に利用したが実際には許諾を得ていなかったという場合、故意は認められないとの考え方が一般的です。他方、適法な引用でないにもかかわらず適法だと誤解して利用した場合のように、法的な評価の誤解にとどまれば、一般に、故意が認められうると考えられています。


■ TPPで非親告罪化?


二つ目の大きな違いは、③の通り、手続き上の要件として著作権者の告訴が必要となることです(こういった犯罪類型を「親告罪」といいます)。この要件があることで、著作権を侵害しても、著作権者が処罰を希望しない場合には、処罰されることはありません。コミケなどの同人誌即売会での二次創作・同人作品の一部は、著作権法上はグレーであることも少なくありませんが、その中でも創作活動が活発に続けられている背景の一つとして、著作権侵害が親告罪である点に言及されることもあります。

もっとも、今話題のTPPでは、一部の著作権侵害が親告罪でなくなる可能性が濃厚だと指摘されています(⌈非親告罪化⌋)。非親告罪化された場合、理論上は、著作権者が処罰を希望しない場合でも、検察の裁量によって起訴され、処罰される可能性が出てきます。hatそのため、非親告罪化は創作活動を必要以上に萎縮させるとの批判もあるところです。これに対する国内の動きとして、弊所も協力した、漫画家の赤松 健さんらによる同人マーク・ライセンスの運用も始まっています(同ライセンスを運用している団体「コモンスフィア」のWebサイトで詳しく紹介されています)。



■ 違法ダウンロードの刑事罰化


ここ数年の著作権×刑事罰のトピックとして最も世間を騒がせたのは、先ほどの非親告罪化ともう一つ、違法ダウンロードの刑事罰化でしょう。

長い間、音楽や映像コンテンツを自分で楽しむためにダウンロードする行為は、私的複製として適法とされてきましたが、まず2009年に、コンテンツの無断ダウンロード(デジタル方式の録音・録画)が民事上違法とされました。そして、その3年後の2012年に再び著作権法が改正され、ある特定の場合の違法ダウンロードが刑事罰の対象とされるに至りました(2年以下の懲役、200万円以下の罰金又はその両方)。

違法ダウンロードの刑事罰化に関する条文(119条3項)は、例によってなかなか読みにくい代物ですが、要件をかみ砕くと、⌈有料で公衆に提供されている音楽や映像の著作物などの私的使用目的でのダウンロードを、自らその事実を知りながら行い、著作権・著作隣接権を侵害すること⌋(つまり、ダウンロードについて許諾もなく、権利制限規定の適用もないこと)です。

hat 上記要件のポイントを二つだけ。一つ目のポイントは、もともと有料で公衆に提供されている音楽・映像コンテンツ(録音・録画されたコンテンツ)に限定されていることです。従って、無償で提供されるコンテンツや、文字や静止画像だけで構成される書籍や新聞などのコンテンツは、違法ダウンロード刑事罰化の対象には含まれていません。

二つ目のポイントは、「自らその事実を知りながら」ダウンロードする必要があることです。したがって、違法コンテンツと知らずにダウンロードしてしまった場合も、刑事罰の対象にはならないと考えられています。


■ 法人も処罰の対象


このほか、著作権法には法人に関する罰則もあります。例えば、ある会社の従業員が、会社の業務として著作権侵害を行った場合、その従業員個人への刑事罰とは別に、法人に対して、別途3億円以下の罰金刑が科される可能性もあります。筆者はまだその実例を耳にしたことがありませんが、今後問題となる日がやってくるかもしれません。


  アートと権利、今月の話題 

  動向(2014年1月分)

 「国会図書館が絶版本のデジタル配信開始 全国の図書館へ」

国立国会図書館は1月21日、絶版本などの約130万点のデジタルデータを全国の図書館へ配信するサービスをスタートした。これまでも著作権の保護期間の切れた本など約47万点をネットで公開してきたが、著作権の残る本のデータは、文化庁長官の「お墨つき」を得た場合などを除き、国会図書館の中でしか見ることができなかった。今回の新サービスは、2012年の著作権法改正により実現したもので、絶版などを条件に、まだ著作権の残る本のデータを各地の図書館へデジタル配信するもの。利用者は、これまで国会図書館でしか見られなかった本のデータを、近くの図書館で見られるようになる。


  裁判

 「タランティーノ監督、流出脚本の配信サイトのリンク先を紹介したWebメディアを提訴」

映画監督のクエンティン・タランティーノ氏は1月27日、流出脚本を無断で配信するリンク先を紹介したWebメディア「Gawker Media」を著作権侵害で提訴した。流出したのはウェスタン映画「The Hateful Eight」の脚本。監督の次回作となるはずだったが、製作は取りやめられたようだ。監督は、問題のリンク先を記事内で紹介し、「楽しんで!」と挑発的な表現でダウンロードするよう働きかけたGawkerの行為はジャーナリズムとしての一線を越えて著作権侵害だと主張。対するGawkerは、あくまでリンク先を掲載しただけで著作権を侵害していないと反論。大物監督の未公開脚本を巡るトラブルはしばらく続きそうだ。

●参考文献:福井健策『「ネットの自由」vs. 著作権』(光文社新書、2012年)
●参考文献:池村聡『違法ダウンロードの刑事罰化』ジュリスト1457号74頁(有斐閣、2013年)

※本コラムは、弊社の連載「デザイナーのための著作権と法律講座」(月刊MdN 2014年4月号)の記事に、一部加筆修正したものです。



●骨董通り法律事務所の最新の活動(セミナー・講演、メディア出演、執筆活動など)はこちらをご確認ください。


さて、次回の第10講は「デザインを守るための権利」です。「著作権による保護」「意匠権による保護」「立体商標による保護」「不正競争防止法による保護」といった保護に関するケースについて解説していきます。


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2014/6/11





【骨董通り法律事務所 Kotto Dori Law Office】

骨董通り法律事務所

“For the Arts”を旗印に2003年に設立され、法律家としての活動を通じてさまざまな芸術活動を支援する法律事務所。出版、映像、演劇、音楽、ゲームなどのアート・エンタテインメント業界のクライアントに対する「契約交渉の代理」「訴訟などの紛争処理」「著作権など知的財産権に関するアドバイスの提供」を中心的な取扱業務としている。また、幅広い業種のクライアントのための企業法務,紛争処理にも力を入れる。


住所:東京都港区南青山5-18-5 南青山ポイント1F
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